ボストン(Lucy Maria Boston)(読み)ぼすとん(英語表記)Lucy Maria Boston

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ボストン(Lucy Maria Boston)
ぼすとん
Lucy Maria Boston
(1892―1990)

イギリスの児童文学作家。ランカシャーサウスポートに生まれる。1939年にケンブリッジに近いヘミングフォード・グレイにある1120年建築のイギリスでもっとも古い館(やかた)とされる荘園屋敷(マナー・ハウス)を購入した。このマナー・ハウスをモデルにボストンは、60歳を過ぎてからグリーン・ノウとよばれる古い屋敷を舞台に全6作の「グリーン・ノウ物語」(1954~76)を書き上げ、イギリス児童文学史上に輝かしい名を残すこととなった。

 第一作『グリーン・ノウの子どもたち』(1954)、第二作『グリーン・ノウの煙突』(1958)では、グリーン・ノウ家の血を引くトーリー少年が屋敷を訪れ、何百年も前にこの屋敷に住んでいた子供たちと出会う。第三作『グリーン・ノウの川』(1959)では夏休みに招待された子供たちの屋敷のそばを流れる川での探検を描く。第四作の屋敷の外の森を舞台に動物園から脱走したゴリラを中国人の難民少年ピンが捜索隊から守る話『グリーン・ノウのお客さま』(1961)で、カーネギー賞を受賞した。第五作『グリーン・ノウの魔女』(1964)では、屋敷を乗っ取ろうとする魔女との闘いが描かれている。そして、屋敷が建てられた当時の当主の子が未来の屋敷を訪れるという、シリーズ全体が概括できる最後の作品『グリーン・ノウの石』(1976)は、著者84歳のときの作品であった。シリーズを通して現在と過去を巧みに交錯させて歴史重みを感じさせ、また世の中の不正や大人のもつ醜さに巻き込まれながら、時代を超えて心を寄せ合う子供たちを描き出している。

 このシリーズ以外の作品では、コーンウォールの荒々しい海を背景に海の子トリトンと2人の少年の友情、そして海そのものの神秘を美しく描き出した『海のたまご』(1967)が高く評価されている。なおこれらの作品の挿絵はすべて子息のピーター・ボストンPeter Boston(1918―1999)によって描かれ、作品世界をいっそう密度の濃いものとしている。

[佐藤凉子]

『亀井俊介訳『グリーン・ノウの子どもたち』(評論社・てのり文庫)』『亀井俊介訳『グリーン・ノウの煙突』(1977・評論社)』『亀井俊介訳『グリーン・ノウの川』(1982・評論社)』『亀井俊介訳『グリーン・ノウのお客さま』(1983・評論社)』『亀井俊介訳『グリーン・ノウの魔女』(1982・評論社)』『亀井俊介訳『グリーン・ノウの石』(1981・評論社)』『定松正訳『みどりの魔法の城』(1980・大日本図書)』『立花美乃里訳『意地っぱりのおばかさん――ルーシー・M. ボストン自伝』(1982・福音館書店)』『卜部千恵子訳『ふしぎな家の番人たち』(2001・岩波書店)』『長沼登代子訳『リビイが見た木の妖精』(岩波少年文庫)』『猪熊葉子訳『海のたまご』(岩波少年文庫)』『瀬田貞二訳『まぼろしの子どもたち』(偕成社文庫)』『ダイアナ・ボストン著、林望訳『ボストン夫人のパッチワーク』(2000・平凡社)』『三保みずえ著『童話・24の扉――イギリス児童文学への招待』(1986・弓書房、鷹書房発売)』『さくまゆみこ著『イギリス7つのファンタジーをめぐる旅』(2000・メディアファクトリー)』

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