イギリスの詩人。ロンドンの富裕な商人の家に生まれたが,家庭の宗教がカトリックであったこともあって,大学に進まず,ほとんど独学で古典文学を学んだ。12歳ごろ結核性と思われる病気のために身体の成長が止まり,生涯矮小短軀であった。このような事実も彼の文学の風刺的要素を強めたかもしれない。しかし初期の詩《牧歌》(1705作,1709刊),《ウィンザーの森》(1713)などは,自然に対するみずみずしい感性を示す。テーマや表現は古典文学からとられ,そのゆえに〈新古典主義(ネオ・クラシシズム)〉を代表するが,当時のイギリスの政治にしだいに深くかかわっていく姿勢も注目すべきであろう。《批評論》(1711)はその機知あふれる格言風表現と,正確無比な英雄対韻句(ヒロイック・カプレット)の用法によって,彼の名声を確立した。《髪の毛の略奪》(1712)は当時の社交界の小事件を古典叙事詩風の構成と表現様式に託した,軽妙洒脱な疑似英雄詩である。同じく英雄対韻句によるホメロスの翻訳(《イーリアス》1715-20,《オデュッセイア》1725-26)は,当時としては破格の1万ポンドを彼にもたらし,以後政治家や貴族たちと対等に付き合うようになる。ドライデンにおいて確立された文人という職業は,ポープにおいてうらやむべき地位に達したといえよう。しかし彼は多くの敵もつくった。《愚人列伝》(1728-42)は,彼の政敵,論敵たちをなで切りにした,風刺文学の傑作である。しかし《人間論》等の思想詩は,表現の彫琢のみでは隠せない思想性の限界を露呈している。英文学史上,18世紀前半を〈ポープの時代〉と呼び,これを〈新古典主義〉とほぼ同一視するのはおおむね正しいが,この時代が想像力の枯渇をもたらし,最後にはロマン主義の反動を招いたとみなす俗説は,一方的と呼ぶべきであろう。
執筆者:川崎 寿彦
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イギリスの詩人。リンネル商の旧教徒のひとり息子としてロンドンに生まれる。当時イギリスでは旧教徒は社会的に疎外されていたうえに、子供のころから病弱であったことなどが加わって反俗的な性格を形づくり、早くから詩人たらんと志した。初期の作品のなかでは、『批評論』(1711)、『毛髪掠奪(りゃくだつ)』(1712)、『ウインザーの森』(1713)などが有名であり、なかでも『毛髪掠奪』は英文学史のなかでも類(たぐい)まれな傑作である。中期にはホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』を英訳し、また『シェークスピア全集』の編集刊行にあたるなど、創作からはやや遠ざかっていたが、後期に入るとふたたび旺盛(おうせい)な制作欲を示す。『愚物列伝』(1728~1743)は当時の文壇の堕落を痛烈に弾劾した作品で、ホラティウスの風刺詩などを模した『ホラティウス模作』(1733~1738)とともに、風刺詩人としての彼の面目を遺憾なく発揮したものである。『道徳論』(1731~1735)および『人間論』(1733~1734)は、それぞれ四編の書簡詩からなり、道徳問題や哲学、宗教などに関するポープの感懐が語られている。前者にみえる「教育は平凡な精神を形成する」とか、後者の「汝(なんじ)自身を知れ。神意を測ろうなどとするな。人間の研究対象は人間にとどむべきである」などということばは、現在でもしばしば引用される。思想的にはかならずしも独創性があるとはいえないかもしれないが、むしろ散文の領域に属する内容を、英雄詩的二行連句とよばれる詩形を自在に駆使して語るその技量には、容易に他の追随を許さぬものがある。
[御輿員三]
『夏目漱石著『文學評論』(『漱石全集19』1957・岩波書店)』
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…王政復古期から18世紀前半にかけて,人間社会の秩序は理性そのものの秩序として意識され,詩は整然たる英雄対韻句によってそれを反映した。ドライデンとポープの時代である。人間はあらためて社会的存在として横のつながりにおいてとらえられ,このつながりの規範からはみ出すものにはきびしい風刺のむちが加えられた。…
…イギリス,ロンドンの西,テムズ河畔の地区。19世紀ころまでは高級な別荘地であり,たとえば18世紀を代表する文人A.ポープの庭園と邸宅,またH.ウォルポールが建てたゴシック風の邸宅ストローベリー・ヒルで有名であった。現在は大ロンドン市の一部としてのリッチモンド自治区に入っている。…
…イギリスの詩人ポープによる哲学詩。1733‐34年刊。…
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