ヨタカ

改訂新版 世界大百科事典 「ヨタカ」の意味・わかりやすい解説

ヨタカ (夜鷹)
nightjar

ヨタカ目ヨタカ科の鳥の1種,またはヨタカ科の総称。ヨタカCaprimulgus indicus(英名jungle nightjar)は全長約29cm。全身黒褐色で,赤褐色や黄褐色の複雑な模様があり,落葉や枯枝とまぎらわしい色をしている。のどの中央,翼,尾羽には白斑があり,これはディスプレーのときよく目だつ。インド以東のアジア東部・南部に分布する。熱帯では留鳥だが,温帯のものは冬季南へ渡る。日本には夏鳥として渡来し,全国各地の低山帯の雑木林や林縁部で繁殖する。夜行性の鳥で,夕方から夜間にかけて活動し,キョッキョッキョッと鳴きながら低空を飛び,飛んでいる昆虫類を捕食する。このためくちばしは小さいが,口はきわめて大きい。また羽毛がやわらかく,音をたてずに飛ぶ。地上の落葉の間に簡単な巣をつくり,1腹2個の卵を産む。抱卵期間は約20日。孵化(ふか)した雛も枯葉に似た隠ぺい色をしている。古名は蚊母鳥,蚊吸鳥など。

 ヨタカ科Caprimulgidaeは18属70種前後の種を含み,極地,砂漠,多くの大洋島などを除いて世界的に分布している。とくに熱帯・亜熱帯地方に種数が多い。羽色は,一般にヨタカのような隠ぺい色である。しかし,オナガヨタカMacropsalis creagraやフキナガシヨタカSemiophorus vexillariusは,尾羽や風切羽の一部が長くのびて飾羽となっている。どの種もくちばしは小さく,口は大きい。口ひげはふつうよく発達している。脚は小さく弱い。多くの種は夜行性で,昼間は樹上や地上で休息し,夜間飛んでいる昆虫類(とくにガや小型の甲虫類)を捕食する。昆虫食のため,冬寒い地方で繁殖するものはみな渡り鳥である。しかし,ある種(Phalaenoptilus nuttallii,英名common poorwill)のヨタカは,冬の間岩の隙間で冬眠することが知られている。冬眠時の体温は,通常の40~41℃から18~19℃にまで下がっている。毎年同じ場所で冬眠するといわれている。巣はみな地上につくり,1腹の卵は1~2個(まれに3個)。雌雄とも抱卵,育雛(いくすう)をする。鳴声は単純だが,独特の声をもっているものが多く,姿より声によって種が識別できる場合が少なくない。

 なお,ヨタカ目にはほかに,アブラヨタカ科,ガマグチヨタカ科,タチヨタカ科,ズクヨタカ科が含まれる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨタカ」の意味・わかりやすい解説

ヨタカ

(1) Caprimulgus indicus; jungle nightjar ヨタカ目ヨタカ科。全長 29cm。雄はの先端と頸の脇,尾の先端の外側に飛ぶとよく目立つ白斑がある。体のほかの部分は褐色で,濃淡の細かい斑模様があり,樹皮上や落ち葉の間で目立たない。尾羽や風切羽には横帯模様が入る。雌は翼と尾,頸側に白斑がない。北はシベリア東南域から東アジア,南はインドシナ半島から南アジアまで広く繁殖分布している。日本には夏鳥(→渡り鳥)として渡来し,北海道本州四国地方九州地方の平地から山地の周辺の疎林に生息する。夜間,独特の響きのある声で「きょきょきょきょ……」と続けて鳴く。
(2) Caprimulgidae; nightjar ヨタカ目ヨタカ科の鳥の総称。95種からなり,全長 19~29cm。羽色は全体に灰色か黄色を帯びる褐色で,明褐色と黒色,灰色などの細かい斑模様がある。喉,翼,尾に大きな白斑のあるものが多く,特に翼と尾の白斑は飛ぶとよく目立つ。頭部は大きく,眼,開けたときの口も大きく(は小さい),口のまわりには剛毛がよく発達している。翼は長くて先がとがる。大部分の種は夜行性で,日中は枝上か地上で静かに休んでいる。北アメリカにすむプアウィルヨタカ Phalaenoptilus nuttallii は鳥類で唯一冬眠することが知られている。全世界に広く繁殖分布するが,ニュージーランドと高緯度域,アラビア半島中国内陸部,サハラ砂漠などの乾燥地には生息していない。おもに森林や疎林,林縁の草地,農耕地などにすむ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨタカ」の意味・わかりやすい解説

ヨタカ
よたか / 怪鴟
夜鷹
nightjar

広義には鳥綱ヨタカ目ヨタカ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの一種をさす。この科Caprimulgidaeには約70種が含まれる。全長19~29センチメートル。どの種も黒、褐、灰色からなる複雑な模様のじみな羽色をしている。嘴(くちばし)は小さいが、口そのものは非常に大きく、目の下のほうまで裂けている。また、口の周りには長い剛毛が生えている。足は細くて短い。翼や尾の一部の羽毛が非常に長く伸びる種が少数いる。北アメリカとアジアの北方地域、南アメリカ南部、ニュージーランドなどを除く全世界に広く分布している。明るい林にすみ、夜間、空中を飛び回りながら飛んでいる昆虫をとって食べる。その際、大きく開いた口とその周りの剛毛は捕虫網の役を果たすことになる。フクロウ類同様、羽毛が非常に柔らかいため、飛んでいるとき羽音はまったくしない。木の枝にはほかの鳥と違って並行に止まり、じっとしていると木のこぶのようにみえる。地上に卵を産んで温めるが、巣らしい巣はほとんどつくらない。一腹卵数は1~3個。抱卵、育雛(いくすう)は雌雄ともに行う。翼や尾に長い羽毛をもつ種では、繁殖期にその飾り羽をはためかせて飛ぶ空中ディスプレーがみられる。

 種としてのヨタカCaprimulgus indicusは全長29センチメートル、インドからインドシナ半島、中国を経てウスリー地方にかけて分布している。日本には夏鳥として4、5月に渡来し、各地で繁殖する。夕方から夜間にかけて、「キョキョキョキョ」という声で鳴く。

[樋口広芳]

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百科事典マイペディア 「ヨタカ」の意味・わかりやすい解説

ヨタカ

ヨタカ科の鳥。翼長21cm。全体褐色で黒,褐色,灰,黄褐色などの不規則な斑紋がある。アジア東・南部に分布。日本には夏鳥として渡来し,九州以北の低地〜山地の林で繁殖する。巣は作らず,草原などの地上に2卵を産む。夜行性で夕方から活動し,飛びながらコガネムシ,ガなど大型の昆虫を捕食。日中休むときには木の枝に並行してとまる。キョキョキョ…と続けて鳴く。準絶滅危惧(環境省第4次レッドリスト)。

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