A群
5~15歳の子どもに多く、男女差はありません。日本ではほとんどみられなくなりましたが、発展途上国では今なお猛威をふるっています。
溶連菌に対する免疫力(=抵抗力)が、自分の関節や心臓を誤って攻撃するために起こる病気と考えられています。しかし、感染した子どもがすべてリウマチ熱を発病するわけではないので、菌側の要因や、子どもの体質や免疫状態が関与すると考えられています。
39度前後の高熱とともに、強い関節痛(70%)が膝、足、肘、手首などの大きな関節でみられます。ある部位の痛みは通常1日で消失しますが、次の日には別の関節が痛み始めるので、まるで関節痛が移動しているよう感じられます(
心炎(50~60%)は初め無症状ですが、心臓の弁が障害されるにつれて、次第にむくみや
皮膚には輪状の
発熱がおさまったあと、約5%に手足が勝手に動き出すことがあります(不随意運動)。その様子から
血液検査では、ほぼ全例で白血球数の増加、CRP増加、赤沈値の亢進がみられますが、これらはリウマチ熱に特徴的というわけではありません。心電図では不整脈がみられ、心エコー検査で弁膜の異常がみられます。
診断には、まず数週間前に溶連菌に感染した証拠が必要です。そのために、ASOやASKと呼ばれる溶連菌に対する抵抗力(=抗体)が血中に増加していること、あるいはのど(咽頭)に溶連菌が付着していないかを、培養や迅速抗原診断法と呼ばれる方法で証明します。
そのうえで、表11の主症状が2つ以上ある場合、あるいは主症状が1つで副症状が2つ以上ある場合は、リウマチ熱である可能性が高いと判断します。
まず原因となっている溶連菌に対し、ペニシリン(抗生剤)を使います。
発熱や関節痛に対してはアスピリンが劇的に効きますが、心炎や舞踏病に対してはステロイドを併用します。
リウマチ熱を発症した子どもは、その後も溶連菌感染症にかかりやすいのが特徴です。もし、溶連菌に再感染すれば、その3分の1はリウマチ熱を再発し、心炎による弁膜障害がある子どもでは、弁膜症はさらに悪化します。
そこで、リウマチ熱の再発を予防するためにペニシリンの予防内服が行われています。その期間は、心炎がない場合では発症から5年間または18歳まで、心炎を起こしても弁膜症を残さなかった場合は20歳まで、心弁膜症を残した場合は30歳、できれば一生継続することになっています。予防内服を続けている限り80~90%は再発を防ぐことができますが、もし予防内服しないと、その20~50%が再発すると報告されています。
この病気は成人にはないため、小児科専門医を受診してください。日本では少なくなった病気ですので、2~3週前に溶連菌感染症があったことを説明しないと、見落とされてしまう可能性があります。
武井 修治
A群
明らかな原因は不明ですが、A群β型溶血連鎖球菌に感染後の自己免疫反応に関係があるといわれています。すべての溶連菌感染にリウマチ熱が起こるわけではなく、環境因子や遺伝的素因(HLA Bw35、DRW9)の関与も指摘されています。
心炎で重要なのは弁膜の炎症の存在で、心雑音が聞こえます。
多関節炎は膝、肘、手、足関節など大きな関節に多く発症し、多くの場合、移動性です。
急性期には、血液検査で赤血球沈降速度(赤沈)やCRPなど急性炎症反応の亢進、白血球増多が認められます。
診断は、A群β型溶血連鎖球菌の先行感染が証明されている場合は、表20に示した基準で大症状が2つ、あるいは大症状がひとつと小症状が2つある時にリウマチ熱と診断されます。
先行感染を証明するためには、咽頭培養やASOと呼ばれる抗連鎖球菌抗体の検査を、心炎の合併が疑われる場合は心電図と心エコー検査を行い、心筋炎や弁膜症の評価をします。
リウマチ熱は再発しやすいため、予防的に長期の抗生物質使用が原則で、感染源となりうる慢性
急性期は原則として入院安静が必要で、心炎を生じた場合は、後遺症がなくても3~6カ月は激しい運動を禁止します。炎症急性期には大量のペニシリンGを10~14日間投与し、心炎や舞踏病を合併した場合では副腎皮質ステロイド薬を使用します。
再燃(再発)予防のため、心炎のない場合でも最低5年間、後遺症のない心炎合併でも20歳になるまで、明らかな弁膜症を残した場合では生涯にわたるペニシリンの内服が推奨されています。ペニシリンアレルギーのある場合は、エリスロマイシンやクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質が処方されます。
通常、小児期にかかることが多いので、小児専門医の診察を受けるようにしてください。
矢崎 善一
咽頭炎などの原因菌である
散発的な流行はありますが、最近はまれになりました。学童期の子どもに多く発症します。
溶連菌と人体の組織が似たような抗原部分をもつため、自分自身の免疫が誤って自分の体の組織を攻撃し、発症します。
病初期はのどの痛み、そして2~3週間後に発熱と関節痛で発病します。
①
約70%にみられ、高熱を伴い、肩、
②
最も問題となる合併症で、約半数の患者さんに発症します。とくに心臓のなかにある弁が障害を受けると、患者さんのその後の生活に大きな影響を与えることになります。自覚症状として
③
脳の障害によるもので、手足が勝手に動く不随意(ふずいい)運動が出現します。字が下手になったり、行儀が悪くなるなどの症状を示すこともあり、チックや多動症として見過ごされることもあります。
その他の症状として、輪状紅斑と呼ばれる皮膚の発疹や皮膚の下のしこり(皮下結節)が認められることもあります。
溶連菌感染の証明はのどの細菌培養、迅速診断キット、血清抗体検査(ASO、ASK)などで確定されます。急性期には血液検査で炎症反応が陽性です。心臓の病変は心雑音の有無や、心臓の超音波検査で診断します。
溶連菌の感染に対して、抗生剤を投与する必要があります。ペニシリン系の抗生剤を10~14日間続けて内服します。心炎にはステロイド薬を使用します。関節炎には非ステロイド性消炎鎮痛薬が有効です。舞踏病には抗けいれん薬を使用します。
通常、関節炎は3~4週間で軽快します。心炎は早期に適切な治療を開始すれば、ある程度軽快しますが、なかにはリウマチ性
一度リウマチ熱にかかると溶連菌感染で再発しやすいので、予防のために抗生剤をのみ続けなければなりません。予防する期間は、最低でも約5年間は必要です。弁膜症になったら一生のみ続けなければならないこともあります。
小児科で溶連菌感染の正しい診断とその後の管理をしてもらう必要があります。心臓の病変は一生を左右するので、早めの対応が重要です。
樋浦 誠
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
A群溶血性連鎖球菌(溶連菌)による扁桃(へんとう)を中心とした上気道感染に個体の免疫応答が加わって発症する全身性の炎症疾患で、膠原(こうげん)病の一つとされる。かつて急性関節リウマチとよばれたこともある。溶連菌感染後に発症するが溶連菌感染症ではなく、溶連菌の毒素に対する抗体が発症に関連するものとみられており、溶連菌は検出されない。溶連菌感染者の3%前後が発症し、5~15歳の小児に多い。後遺症としてリウマチ性心疾患(とくに心臓弁膜症)が多くみられるのが特徴である。
[高橋昭三]
典型的な場合は、上気道炎の治癒後2~3週経過してからふたたび発熱するのがリウマチ熱の始まりで、関節炎をおこしてくる。誘因となる上気道炎は、ほとんど症状がなくて気づかれない場合もある。リウマチ熱の関節炎は移動性多発性関節炎で、膝(しつ)関節や股(こ)関節のほか、足首や手首、肘(ひじ)や肩など四肢の大きな関節が次々に腫(は)れて痛む。心雑音の聞こえる心炎も重要な症状で、心臓の弁膜や筋肉が侵される。皮膚症状としては輪状紅斑(こうはん)と皮下結節がみられる。輪状紅斑は種々の大きさで、痛くもかゆくもなく、早期に消失しやすいため注意していないと見逃すことがある。皮下結節は関節付近の皮膚下に現れ、小さなエンドウマメ大である。発症してから数か月後に小舞踏病がみられることがある。これは無意識のうちに手足が動いたり顔をしかめたりするもので、女児に多くみられる。以上がおもな症状で、大症状ともよばれるが、そのほかに鼻出血、胸痛、腹痛などをおこすこともある。
リウマチ熱の症状は、放置しても1~3か月のうちに大部分の人は自然治癒するが、心炎をおこしたときに治療を十分に行わないと、治癒後に心臓弁膜症を残すことになる。
[高橋昭三]
血沈、CRP(C反応性タンパク試験)、白血球数、胸部X線、心電図などの検査も行われるが、もっとも重要なのはASO値の検査である。溶連菌は血液を溶血させる毒素(ストレプトリジンO)を出すが、溶連菌感染をおこすと、この溶血素に対する抗ストレプトリジンO(略称ASOまたはASLO)という抗体が血液中に出てくる。したがって、このASO値が高くなれば溶連菌感染をおこしていたことがわかる。このASOの高値と前述の大症状のどれかがあれば、リウマチ熱の確実な診断が行われる。
[高橋昭三]
心炎の発症および進展防止が治療の根本となる。心炎があれば副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤を用い、心炎がなければアスピリン製剤が使われる。一般には、栄養のバランスのとれた食事を与え、安静を守らせる。心炎をおこしていなければ2、3か月で普通の生活に戻れるが、心炎があればまず絶対安静にし、以後は医師の指示によってその程度を下げていき、全治しても約半年は安静を心がける。
リウマチ熱は再発のたびに心臓弁膜症を残す率が高くなるので、初回の段階で溶連菌を根絶させるために十分量の抗生物質(とくにペニシリン)を少なくとも10日間は投与する。小児では再発により新しく心炎をおこしてくることもあるので、治癒後も引き続き成人に達するまで定期的に医師のチェックを受け、ペニシリンの予防内服を行う。ただし、心理的圧迫を与えない配慮が必要である。なお、軽い心臓弁膜症が残った場合は再発のたびに悪化するので、一生ペニシリンによる防止を続ける必要がある。
[高橋昭三]
RFと略記する。A群溶血性連鎖状球菌(溶連菌)の感染後に発症するリウマチ性疾患。すなわち,溶連菌に対する抗体が心筋に反応して(共通抗原性による)炎症反応を起こすと考えられている。しかし,溶連菌感染者の2~3%に発症するのみである。病理組織学的に膠原病(こうげんびよう)の一つと考えられている。好発年齢は5~15歳で,男女差はない。開発途上国に多く,日本ではリウマチ熱からくる心臓疾患の頻度は近年著しく低下している。
咽頭への溶連菌感染後1~2週間で持続的な発熱(38℃を超えることが多い)をもって始まり,痛みや腫張がいくつかの関節を移動していく多発性関節炎(大きな関節が侵されやすく,変形を残さないで軽快する)が発生する。特異的な輪状をした皮膚の紅斑(痛みはなく,かゆみもない)は,体幹や四肢の体幹に近い部分にできるが,消えやすい。皮下の結節は,痛みはなく,ひじ,ひざ,手足など関節部の伸側にできるが,数日から数週間で消失する。皮膚の症状は注意してみないと見逃しやすい。心炎がある場合には心雑音を聞くことができる。まれではあるが死亡例もあり,重症な心臓弁膜症,全身臓器の循環不全,感染症が原因となることが多い。このほか小舞踏症は感染後2~6ヵ月に突然発症することが多い。小舞踏病の症状としては,顔の奇妙な表情,不安定な興奮状態にあるような動作,顔貌がみられる。この症状は,数週から数ヵ月間持続する。その他の症状として,胸部痛,腹痛,頭痛,食欲不振,倦怠感,動悸などがある。
診断については診断基準があり(大症状と小症状とがある),それによって診断される。溶連菌感染を示す項目(抗溶連菌抗体ASOの上昇,菌の咽頭培養陽性など)がポイントとなる。小舞踏病と長期にわたる軽い心炎があるときはそれだけで診断できる。
検査では,ASO陽性,血沈亢進,CRP陽性,白血球数増加,心電図での変化(PR延長)が重視される。ASO値が高値をとるか,ASO値の漸次的増加は,感染の存在を示すものとして重視される。
リウマチ熱の治療は,心炎とその後にくる病変とを予防することに重点がおかれる。そのために感染に対してペニシリン系の薬剤などが使用される。また炎症の抑制にアスピリン製剤,副腎皮質ホルモン剤が使用される。このほか活動期には安静,適切な栄養の摂取が必要である。一度治癒しても再び溶連菌の感染が起こると心炎を起こすことが多いので再感染に対する予防が必要で,このため一度リウマチ熱になったら,小児では成人になるまで,また18歳以上のものでもそのあと5年間は服薬することが望ましい。
予後は,初回発症のときに早期に治療を十分に行えば良好である。再感染に対する予防的処置(継続的投薬など)を行えば再発はほとんどない。軽い心炎の後遺症がある場合,就学や体育などは専門医によってその程度がきめられ,長期観察を必要とするが,患者に心理的圧迫をもたせないようにすることがたいせつである。
執筆者:広瀬 俊一
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…1941年にクレンペラーP.Klempererが提唱した疾患。病理学的に結合組織にフィブリノイドfibrinoid変性がみられる疾患という定義がなされ,全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチ,皮膚筋炎または多発筋炎,強皮症(全身性進行性硬化症),結節性動脈周囲炎,リウマチ熱の6疾患が代表的な膠原病とされた。その後,病理学的にもフィブリノイド変性という概念がきわめてあいまいなものであり,膠原繊維にのみ変化がおこるものではないところから,結合織疾患connective tissue diseaseとよぶほうが正しいとされ,国際的にはそのようによばれることが多い。…
…A群β溶連菌の感染による法定伝染病。この溶連菌の感染で発病するものにはほかに咽頭炎,扁桃炎,丹毒,急性糸球体腎炎などがあり,さらに反復感染の後にリウマチ熱を起こすこともある。この菌で猩紅熱になることはむしろ少なく,また近年,本症は軽症化が目立ち,不完全型が多くなって,猩紅熱と診断されずに溶連菌感染症といわれている場合もある。…
※「リウマチ熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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