リウマチ熱(読み)リウマチネツ(その他表記)Rheumatic fever

デジタル大辞泉 「リウマチ熱」の意味・読み・例文・類語

リウマチ‐ねつ【リウマチ熱】

膠原病こうげんびょうの一。溶連菌の感染による扁桃炎にかかったあと、2~4週間してから高熱が出て、関節痛・心膜炎などの症状が現れる。後遺症として心臓弁膜症を起こすことが多い。

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精選版 日本国語大辞典 「リウマチ熱」の意味・読み・例文・類語

リウマチ‐ねつ【リウマチ熱】

  1. 〘 名詞 〙 膠原病の一つ。溶連菌の感染による扁桃炎にかかったあと、二~四週間してから高熱が出て、関節痛・心膜炎などの症状が現れる自己免疫性疾患。後遺症として心臓弁膜症を起こすことが多い。

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六訂版 家庭医学大全科 「リウマチ熱」の解説

リウマチ熱
リウマチねつ
Rheumatic fever
(膠原病と原因不明の全身疾患)

どんな病気か

 A群連鎖球菌(れんさきゅうきん)溶連菌(ようれんきん))による、のどかぜ(咽頭炎(いんとうえん))や扁桃炎(へんとうえん)の治療が不十分な場合、治ってから2~3週間過ぎたころに突然高熱を発症する病気です、その70%に強い関節痛を伴います。約半数が心炎を起こし、適切に治療されないと心臓の弁に障害を残します(心弁膜症(しんべんまくしょう))。

 5~15歳の子どもに多く、男女差はありません。日本ではほとんどみられなくなりましたが、発展途上国では今なお猛威をふるっています。

原因は何か

 溶連菌に対する免疫力(=抵抗力)が、自分の関節や心臓を誤って攻撃するために起こる病気と考えられています。しかし、感染した子どもがすべてリウマチ熱を発病するわけではないので、菌側の要因や、子どもの体質や免疫状態が関与すると考えられています。

症状の現れ方

 39度前後の高熱とともに、強い関節痛(70%)が膝、足、肘、手首などの大きな関節でみられます。ある部位の痛みは通常1日で消失しますが、次の日には別の関節が痛み始めるので、まるで関節痛が移動しているよう感じられます(移動性関節炎(いどうせいかんせつえん))。

 心炎(50~60%)は初め無症状ですが、心臓の弁が障害されるにつれて、次第にむくみや倦怠感(けんたいかん)、頻脈などの心不全症状が現れます。

 皮膚には輪状の紅斑(こうはん)(10~20%)や、皮下に小さなしこり(3~5%)がみられますが、痛みやかゆみはありません。

 発熱がおさまったあと、約5%に手足が勝手に動き出すことがあります(不随意運動)。その様子から舞踏病(ぶとうびょう)と呼ばれ、緊張すると不随意運動は激しくなり、寝ている時には消失します。また、情緒も不安定になり、行儀や言葉が乱暴になるなどの異常行動がみられることもあります。

検査と診断

 血液検査では、ほぼ全例で白血球数の増加、CRP増加、赤沈値の亢進がみられますが、これらはリウマチ熱に特徴的というわけではありません。心電図では不整脈がみられ、心エコー検査で弁膜の異常がみられます。

 診断には、まず数週間前に溶連菌に感染した証拠が必要です。そのために、ASOやASKと呼ばれる溶連菌に対する抵抗力(=抗体)が血中に増加していること、あるいはのど(咽頭)に溶連菌が付着していないかを、培養や迅速抗原診断法と呼ばれる方法で証明します。

 そのうえで、表11の主症状が2つ以上ある場合、あるいは主症状が1つで副症状が2つ以上ある場合は、リウマチ熱である可能性が高いと判断します。

治療の方法

 まず原因となっている溶連菌に対し、ペニシリン(抗生剤)を使います。

 発熱や関節痛に対してはアスピリンが劇的に効きますが、心炎や舞踏病に対してはステロイドを併用します。

 リウマチ熱を発症した子どもは、その後も溶連菌感染症にかかりやすいのが特徴です。もし、溶連菌に再感染すれば、その3分の1はリウマチ熱を再発し、心炎による弁膜障害がある子どもでは、弁膜症はさらに悪化します。

 そこで、リウマチ熱の再発を予防するためにペニシリンの予防内服が行われています。その期間は、心炎がない場合では発症から5年間または18歳まで、心炎を起こしても弁膜症を残さなかった場合は20歳まで、心弁膜症を残した場合は30歳、できれば一生継続することになっています。予防内服を続けている限り80~90%は再発を防ぐことができますが、もし予防内服しないと、その20~50%が再発すると報告されています。

病気に気づいたら

 この病気は成人にはないため、小児科専門医を受診してください。日本では少なくなった病気ですので、2~3週前に溶連菌感染症があったことを説明しないと、見落とされてしまう可能性があります。

武井 修治



リウマチ熱
リウマチねつ
Rheumatic fever
(循環器の病気)

どんな病気か

 A群β(ベータ)溶血連鎖球菌(ようけつれんさきゅうきん)による、上気道感染に続発する非化膿性(ひかのうせい)炎症性疾患で、心臓のほかにも関節、皮膚、皮下組織、中枢神経系などに病変が現れます。約半数の場合で心病変が現れるといわれています。

原因は何か

 明らかな原因は不明ですが、A群β型溶血連鎖球菌に感染後の自己免疫反応に関係があるといわれています。すべての溶連菌感染にリウマチ熱が起こるわけではなく、環境因子や遺伝的素因(HLA Bw35、DRW9)の関与も指摘されています。

症状の現れ方

 咽頭痛(いんとうつう)などの上気道炎(じょうきどうえん)様症状のあとに、表20に示したような多様な症状や所見が現れます。

 心炎で重要なのは弁膜の炎症の存在で、心雑音が聞こえます。

 多関節炎は膝、肘、手、足関節など大きな関節に多く発症し、多くの場合、移動性です。

 舞踏病(ぶとうびょう)は独特な不随意(ふずいい)運動で、遅れて現れてくることがあるので注意が必要です。輪状紅斑(りんじょうこうはん)は、主に四肢近位部や体幹部に現れ、かゆみや硬結(こうけつ)(硬いしこり)を伴わないのが特徴です。

検査と診断

 急性期には、血液検査で赤血球沈降速度(赤沈)やCRPなど急性炎症反応の亢進、白血球増多が認められます。

 診断は、A群β型溶血連鎖球菌の先行感染が証明されている場合は、表20に示した基準で大症状が2つ、あるいは大症状がひとつと小症状が2つある時にリウマチ熱と診断されます。

 先行感染を証明するためには、咽頭培養やASOと呼ばれる抗連鎖球菌抗体の検査を、心炎の合併が疑われる場合は心電図と心エコー検査を行い、心筋炎や弁膜症の評価をします。

治療の方法

 リウマチ熱は再発しやすいため、予防的に長期の抗生物質使用が原則で、感染源となりうる慢性扁桃腺炎(へんとうせんえん)慢性副鼻腔炎(ふくびくうえん)、う歯(むし歯)は治療しておくべきです。

 急性期は原則として入院安静が必要で、心炎を生じた場合は、後遺症がなくても3~6カ月は激しい運動を禁止します。炎症急性期には大量のペニシリンGを10~14日間投与し、心炎や舞踏病を合併した場合では副腎皮質ステロイド薬を使用します。

 再燃(再発)予防のため、心炎のない場合でも最低5年間、後遺症のない心炎合併でも20歳になるまで、明らかな弁膜症を残した場合では生涯にわたるペニシリンの内服が推奨されています。ペニシリンアレルギーのある場合は、エリスロマイシンクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質が処方されます。

病気に気づいたらどうする

 通常、小児期にかかることが多いので、小児専門医の診察を受けるようにしてください。

矢崎 善一



リウマチ熱
リウマチねつ
Rheumatic fever
(子どもの病気)

どんな病気か

 咽頭炎などの原因菌である溶血性連鎖球菌(ようけつせいれんさきゅうきん)(溶連菌)の感染で発症します。発熱や関節痛を来し、手足の異常運動や心臓の障害を合併することもあります。

 散発的な流行はありますが、最近はまれになりました。学童期の子どもに多く発症します。

原因は何か

 溶連菌と人体の組織が似たような抗原部分をもつため、自分自身の免疫が誤って自分の体の組織を攻撃し、発症します。

症状の現れ方

 病初期はのどの痛み、そして2~3週間後に発熱と関節痛で発病します。

多関節炎(たかんせつえん)

 約70%にみられ、高熱を伴い、肩、(ひじ)(ひざ)、足首など比較的大きな関節に炎症がみられます。痛み、熱感を伴い、移動性であることが特徴で、関節リウマチのようにあとになって関節が変形することはありません。

心炎(しんえん)

 最も問題となる合併症で、約半数の患者さんに発症します。とくに心臓のなかにある弁が障害を受けると、患者さんのその後の生活に大きな影響を与えることになります。自覚症状として動悸(どうき)、胸苦しさを訴えることがあります。

舞踏病(ぶとうびょう)

 脳の障害によるもので、手足が勝手に動く不随意(ふずいい)運動が出現します。字が下手になったり、行儀が悪くなるなどの症状を示すこともあり、チックや多動症として見過ごされることもあります。

 その他の症状として、輪状紅斑と呼ばれる皮膚の発疹や皮膚の下のしこり(皮下結節)が認められることもあります。

検査と診断

 溶連菌感染の証明はのどの細菌培養、迅速診断キット、血清抗体検査(ASO、ASK)などで確定されます。急性期には血液検査で炎症反応が陽性です。心臓の病変は心雑音の有無や、心臓の超音波検査で診断します。

治療の方法

 溶連菌の感染に対して、抗生剤を投与する必要があります。ペニシリン系の抗生剤を10~14日間続けて内服します。心炎にはステロイド薬を使用します。関節炎には非ステロイド性消炎鎮痛薬が有効です。舞踏病には抗けいれん薬を使用します。

 通常、関節炎は3~4週間で軽快します。心炎は早期に適切な治療を開始すれば、ある程度軽快しますが、なかにはリウマチ性弁膜症(べんまくしょう)を残すこともあります。

再発予防には

 一度リウマチ熱にかかると溶連菌感染で再発しやすいので、予防のために抗生剤をのみ続けなければなりません。予防する期間は、最低でも約5年間は必要です。弁膜症になったら一生のみ続けなければならないこともあります。

病気に気づいたらどうする

 小児科で溶連菌感染の正しい診断とその後の管理をしてもらう必要があります。心臓の病変は一生を左右するので、早めの対応が重要です。

樋浦 誠

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家庭医学館 「リウマチ熱」の解説

りうまちねつ【リウマチ熱 Rheumatic Fever】

アレルギー反応の一種
[どんな病気か]
 リウマチ熱は、のどに溶連菌(ようれんきん)(A群β(ベータ)型)という細菌の感染をくり返しているうちに発病する病気で、一種のアレルギー反応によって生じる炎症です。
 初めは、高熱と関節炎(かんせつえん)が現われ、特徴のある発疹(ほっしん)がみられます。心臓がおかされると、後遺症として心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)をひきおこすことがあります。
 学童期の子どもがかかることが多く、幼児以下の子どもやおとなは、あまりかかりません。また、患者数に男女の差はありません。
 春と、秋から冬にかけて発病することが多く、A群β溶連菌感染症が流行しているときは、感染している人の2~3%がこの病気になります。社会経済的条件が悪い地域に多くみられる病気で、抗生物質が発達した現在、日本では患者数が減っています。
 一方、アメリカでは、軍隊内で集団的に発病したという報告もあります。
[原因]
 溶連菌の細胞膜(さいぼうまく)にある抗原(こうげん)たんぱくと、人の心筋、血管壁、関節滑膜(かつまく)、脳の一部の組織が似ているため、溶連菌(抗原)を排除するためにからだの免疫のしくみによってつくられた抗体が、自分の組織を抗原とみなして反応し、生じる病気だと考えられています。
 しかし、溶連菌の感染者が、全員発病するわけではなく、遺伝的素因をふくめて、いろいろな因子が関係して発病すると考えられています。
[症状]
 咽頭炎(いんとうえん)や扁桃炎(へんとうえん)の後、2~3週間後に、全身のだるさ(倦怠感(けんたいかん))、食欲不振とともに、38~39℃の発熱と関節痛が現われます。膝(ひざ)、足、股(また)、手、肘(ひじ)、肩などにある大きな関節がおかされ、赤くなったり、腫(は)れをともなうこともあります。1~5日で、痛むところが移動します。
 輪状紅斑(りんじょうこうはん)という発疹(ほっしん)ができるのが特徴です。これは、不規則な紅斑で始まり、しだいに輪のような形になる発疹で、躯幹(くかん)(胴体(どうたい))や手足にみられます。
 発病して1~2週間すると、半数近くの患者さんが心炎(しんえん)をおこします。頻脈(ひんみゃく)(いわゆる脈が速い状態)、心臓の拡大、聴診による心雑音がみられ、心電図の異常がみられます。
 この炎症が、心臓の弁膜(べんまく)を傷害することがあり、心臓弁膜症(「心臓弁膜症とは」)をひきおこすことがあります。
 また、皮下小結節(ひかしょうけっせつ)が、手足の関節の伸ばす側にできます。大きさは、エンドウ豆くらいで、痛みはなく、移動することがある結節です。
 感染後2~3か月後に、5~10%の患者さんに神経症状が現われます。小舞踏病(しょうぶとうびょう)といわれ、意志とは無関係に踊るような不随意運動(ふずいいうんどう)が、上肢(じょうし)(腕)や顔面に突然おこり、動こうとすると、その症状がひどくなります。
[検査と診断]
 白血球数(はっけっきゅうすう)の増加、CRP(からだに炎症が生じると血中に増えるC反応性たんぱく)の増加、血沈(けっちん)(血液沈降速度(けつえきちんこうそくど))の上昇などがみられます。
 溶連菌が感染した証拠として、ASO(アンチストレプトリジン・O)、ASK(アンチストレプトキナーゼ)、ADN‐B(アンチデオキシリボヌクレアーゼ‐B)といった抗体が、血液中に増加します。
 心炎の診断には、心電図、胸部X線写真、心エコー検査、心音図が用いられます。そのうえで、咽頭(いんとう)からとった液などを培養して、A群溶連菌が見つかれば、診断は確定します。
 診断には、ジョーンズの診断基準が参考になります(表「リウマチ熱診断基準」)。
◎安静、保温、薬物療法が基本
[治療]
 治療の原則は、安静と保温です。原因となる溶連菌に対し、1日80~120万単位のペニシリンを、2週間内服します。
 その後も、再発を防ぐため、20~40万単位のペニシリンを毎日内服します。内服を続ける期間は、心炎のない場合は5年間です。
 心炎があっても、心雑音が残らなければ、20歳まで(15歳以上で発病したら20歳をすぎるとしても5年間)服用します。
 リウマチ性心疾患が残ってしまったら、30歳までの服用ですが、できれば生涯服用を続けます。
 リウマチ熱の症状を抑えるためには、アスピリンとステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)が使われます。
[日常生活の注意]
 再発を予防するには、ペニシリンの内服を続けることがたいせつです。内服をしないでいると、50%以上が1年以内に再発し、再発をくり返すごとに心臓が悪くなっていきます。
 子どもの場合、ステロイド薬の使用を中止してから6か月がすぎたら、心臓の障害の程度によって、どの程度の運動ならしてもよいか決めることができます。
 心臓の拡大がみられない弁膜症であれば、水泳、マラソン、競走などの激しい運動だけを禁じます。
 心雑音がない子どもは、健康な児童と同様に運動してもかまいません。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リウマチ熱」の意味・わかりやすい解説

リウマチ熱
りうまちねつ
rheumatic fever

A群溶血性連鎖球菌(溶連菌)による扁桃(へんとう)を中心とした上気道感染に個体の免疫応答が加わって発症する全身性の炎症疾患で、膠原(こうげん)病の一つとされる。かつて急性関節リウマチとよばれたこともある。溶連菌感染後に発症するが溶連菌感染症ではなく、溶連菌の毒素に対する抗体が発症に関連するものとみられており、溶連菌は検出されない。溶連菌感染者の3%前後が発症し、5~15歳の小児に多い。後遺症としてリウマチ性心疾患(とくに心臓弁膜症)が多くみられるのが特徴である。

[高橋昭三]

症状

典型的な場合は、上気道炎の治癒後2~3週経過してからふたたび発熱するのがリウマチ熱の始まりで、関節炎をおこしてくる。誘因となる上気道炎は、ほとんど症状がなくて気づかれない場合もある。リウマチ熱の関節炎は移動性多発性関節炎で、膝(しつ)関節や股(こ)関節のほか、足首や手首、肘(ひじ)や肩など四肢の大きな関節が次々に腫(は)れて痛む。心雑音の聞こえる心炎も重要な症状で、心臓の弁膜や筋肉が侵される。皮膚症状としては輪状紅斑(こうはん)と皮下結節がみられる。輪状紅斑は種々の大きさで、痛くもかゆくもなく、早期に消失しやすいため注意していないと見逃すことがある。皮下結節は関節付近の皮膚下に現れ、小さなエンドウマメ大である。発症してから数か月後に小舞踏病がみられることがある。これは無意識のうちに手足が動いたり顔をしかめたりするもので、女児に多くみられる。以上がおもな症状で、大症状ともよばれるが、そのほかに鼻出血、胸痛、腹痛などをおこすこともある。

 リウマチ熱の症状は、放置しても1~3か月のうちに大部分の人は自然治癒するが、心炎をおこしたときに治療を十分に行わないと、治癒後に心臓弁膜症を残すことになる。

[高橋昭三]

診断

血沈、CRP(C反応性タンパク試験)、白血球数、胸部X線、心電図などの検査も行われるが、もっとも重要なのはASO値の検査である。溶連菌は血液を溶血させる毒素(ストレプトリジンO)を出すが、溶連菌感染をおこすと、この溶血素に対する抗ストレプトリジンO(略称ASOまたはASLO)という抗体が血液中に出てくる。したがって、このASO値が高くなれば溶連菌感染をおこしていたことがわかる。このASOの高値と前述の大症状のどれかがあれば、リウマチ熱の確実な診断が行われる。

[高橋昭三]

治療

心炎の発症および進展防止が治療の根本となる。心炎があれば副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤を用い、心炎がなければアスピリン製剤が使われる。一般には、栄養のバランスのとれた食事を与え、安静を守らせる。心炎をおこしていなければ2、3か月で普通の生活に戻れるが、心炎があればまず絶対安静にし、以後は医師の指示によってその程度を下げていき、全治しても約半年は安静を心がける。

 リウマチ熱は再発のたびに心臓弁膜症を残す率が高くなるので、初回の段階で溶連菌を根絶させるために十分量の抗生物質(とくにペニシリン)を少なくとも10日間は投与する。小児では再発により新しく心炎をおこしてくることもあるので、治癒後も引き続き成人に達するまで定期的に医師のチェックを受け、ペニシリンの予防内服を行う。ただし、心理的圧迫を与えない配慮が必要である。なお、軽い心臓弁膜症が残った場合は再発のたびに悪化するので、一生ペニシリンによる防止を続ける必要がある。

[高橋昭三]

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改訂新版 世界大百科事典 「リウマチ熱」の意味・わかりやすい解説

リウマチ熱 (リウマチねつ)
rheumatic fever

RFと略記する。A群溶血性連鎖状球菌(溶連菌)の感染後に発症するリウマチ性疾患。すなわち,溶連菌に対する抗体が心筋に反応して(共通抗原性による)炎症反応を起こすと考えられている。しかし,溶連菌感染者の2~3%に発症するのみである。病理組織学的に膠原病(こうげんびよう)の一つと考えられている。好発年齢は5~15歳で,男女差はない。開発途上国に多く,日本ではリウマチ熱からくる心臓疾患の頻度は近年著しく低下している。

咽頭への溶連菌感染後1~2週間で持続的な発熱(38℃を超えることが多い)をもって始まり,痛みや腫張がいくつかの関節を移動していく多発性関節炎(大きな関節が侵されやすく,変形を残さないで軽快する)が発生する。特異的な輪状をした皮膚の紅斑(痛みはなく,かゆみもない)は,体幹や四肢の体幹に近い部分にできるが,消えやすい。皮下の結節は,痛みはなく,ひじ,ひざ,手足など関節部の伸側にできるが,数日から数週間で消失する。皮膚の症状は注意してみないと見逃しやすい。心炎がある場合には心雑音を聞くことができる。まれではあるが死亡例もあり,重症な心臓弁膜症,全身臓器の循環不全,感染症が原因となることが多い。このほか小舞踏症は感染後2~6ヵ月に突然発症することが多い。小舞踏病の症状としては,顔の奇妙な表情,不安定な興奮状態にあるような動作,顔貌がみられる。この症状は,数週から数ヵ月間持続する。その他の症状として,胸部痛,腹痛,頭痛,食欲不振,倦怠感,動悸などがある。

診断については診断基準があり(大症状と小症状とがある),それによって診断される。溶連菌感染を示す項目(抗溶連菌抗体ASOの上昇,菌の咽頭培養陽性など)がポイントとなる。小舞踏病と長期にわたる軽い心炎があるときはそれだけで診断できる。

 検査では,ASO陽性,血沈亢進,CRP陽性,白血球数増加,心電図での変化(PR延長)が重視される。ASO値が高値をとるか,ASO値の漸次的増加は,感染の存在を示すものとして重視される。

 リウマチ熱の治療は,心炎とその後にくる病変とを予防することに重点がおかれる。そのために感染に対してペニシリン系の薬剤などが使用される。また炎症の抑制にアスピリン製剤,副腎皮質ホルモン剤が使用される。このほか活動期には安静,適切な栄養の摂取が必要である。一度治癒しても再び溶連菌の感染が起こると心炎を起こすことが多いので再感染に対する予防が必要で,このため一度リウマチ熱になったら,小児では成人になるまで,また18歳以上のものでもそのあと5年間は服薬することが望ましい。

 予後は,初回発症のときに早期に治療を十分に行えば良好である。再感染に対する予防的処置(継続的投薬など)を行えば再発はほとんどない。軽い心炎の後遺症がある場合,就学や体育などは専門医によってその程度がきめられ,長期観察を必要とするが,患者に心理的圧迫をもたせないようにすることがたいせつである。
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内科学 第10版 「リウマチ熱」の解説

リウマチ熱(小児のリウマチ性疾患)

定義・概念
 リウマチ熱は,A群溶血性連鎖球菌性咽頭炎の2〜3週間後に続発する炎症性疾患で,菌に対する免疫応答が臓器組織に交差反応することで発症する.双生児を対象としたメタアナリシスによりリウマチ熱の発症は遺伝的背景が強いことが証明されている.わが国では希少疾患になったが,途上国では社会的問題になるほどの頻度で発生している.
臨床症状・診断
 先行するA群溶血性連鎖球菌の感染の証明(血清ASO,ASK)が必須である.症状は心炎(心内膜炎,心筋炎,心外膜炎)と関節炎が最も頻度が高く,ついで小舞踏病,輪状紅斑,皮下結節の順である.多関節炎では若年性特発性関節炎,反応性関節炎,若年性皮膚筋炎,混合性結合組織病,また風疹,パルボウイルスB-19などのウイルス感染に伴う関節炎を鑑別する.心炎の評価は心エコー,心電図が用いられ,心炎の存在と三尖弁と大動脈弁の逆流を評価する.心炎は急性期の心不全,死亡原因,また弁膜障害(僧帽弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全)は後天性心疾患の原因となる.診断にはJonesの診断基準が用いられる(表10-19-2).
治療
 A群溶血性連鎖球菌の除去および再感染防止に経口ペニシリンを用いる.リウマチ性炎症に対してはサリチル酸薬(アスピリン),特に心炎にはステロイド(プレドニゾロン)が基本になる.心炎を伴った例はリウマチ熱再発予防のため,20歳になるまでペニシリン内服を続ける.小舞踏病に対してはフェノバルビタールを用いる.
1)急性期の治療:
抗菌療法にはベンジルペニシリン,アモキシシリン,エリスロマイシンのいずれかを選択する.ペニシリン過敏症例にはエリスロマイシンを用いる.抗炎症療法として心炎にはプレドニゾロンを用いる.関節炎についてはアスピリンを使用する.小舞踏病にはフェノバルビタール散を用いるが,重症例にはとプレドニゾロンを加える.
2)再発予防:
心炎のない例では18歳まで,心炎を伴った例で弁膜症を残さなかった例では20歳まで,弁膜症や手術例では一生涯傾向ペニシリン系抗菌薬またはエリスロマイシンの予防内服を継続する.[横田俊平]
■文献
Kahn P: Juvenile idiopathic arthritis: an update on pharmacotherapy. Bull NYU Hosp Joint Dis, 69: 264-276, 2011.
Yokota S, Imagawa T, et al: Efficacy and safety of tocilizumab in patients with systemic-onset juvenile idiopathic arthritis: a randomized, double-blind, placebo-controlled, withdrawal phase III trial. Lancet, 371: 998-1006, 2008.
Engel ME, Stander R, et al: Genetic susceptibility to acute rheumatic fever: a systemic review and meta-analysis of twin studies. PLoS ONE, 6: 1-6, 2011.

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百科事典マイペディア 「リウマチ熱」の意味・わかりやすい解説

リウマチ熱【リウマチねつ】

急性関節リウマチとも。A群溶血性連鎖球菌に感染して1〜4週後に,特定の素質を有する者に起こる細菌アレルギー性疾患自己免疫疾患ともされる。多発性関節炎,小舞踏病心内膜炎などを起こし,高熱,関節痛,全身倦怠(けんたい),尿量減少,頻(ひん)脈,心雑音などを呈する。重症では意識障害や痙攣(けいれん)をきたすこともある。治療をあやまると,心臓弁膜症を残すことがある。治療は溶連菌に対する抗生物質や,副腎皮質ホルモン剤,アスピリンなどの投与。
→関連項目膠原病リウマチリウマチ結節

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リウマチ熱」の意味・わかりやすい解説

リウマチ熱
リウマチねつ
rheumatic fever

溶血性レンサ球菌感染症の2~3週間後に現れる自己免疫疾患で,心臓弁膜症の原因となることが多い。小児期に好発する。 40℃程度の高熱に始り,心炎,各種の関節炎 (ことに大関節) ,ときとして舞踏病なども伴う。口,咽頭,副鼻腔,腎盂などに原発巣をもつことがあり,この場合は感染巣の治療をまず行う。急性期の炎症にはステロイドの使用もやむをえないが,できるかぎりすみやかに離薬,抗生物質などに置換を試みる。

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世界大百科事典(旧版)内のリウマチ熱の言及

【膠原病】より

…1941年にクレンペラーP.Klempererが提唱した疾患。病理学的に結合組織にフィブリノイドfibrinoid変性がみられる疾患という定義がなされ,全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチ皮膚筋炎または多発筋炎,強皮症(全身性進行性硬化症),結節性動脈周囲炎,リウマチ熱の6疾患が代表的な膠原病とされた。その後,病理学的にもフィブリノイド変性という概念がきわめてあいまいなものであり,膠原繊維にのみ変化がおこるものではないところから,結合織疾患connective tissue diseaseとよぶほうが正しいとされ,国際的にはそのようによばれることが多い。…

【猩紅熱】より

…A群β溶連菌の感染による法定伝染病。この溶連菌の感染で発病するものにはほかに咽頭炎,扁桃炎,丹毒,急性糸球体腎炎などがあり,さらに反復感染の後にリウマチ熱を起こすこともある。この菌で猩紅熱になることはむしろ少なく,また近年,本症は軽症化が目立ち,不完全型が多くなって,猩紅熱と診断されずに溶連菌感染症といわれている場合もある。…

※「リウマチ熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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