兄弟姉妹のない子どものことであるが,ひとりっ子が心理学的に問題とされるのは,G.S.ホールが〈ひとりっ子はそれ自体でひとつの病気である〉といったように,ひとりっ子特有の性格や社会性の問題があると考えられたことによる。経験的,臨床的に記述されたひとりっ子の特性は,依頼心の強さ,神経質,身体虚弱,食欲不振,社交性欠如,わがまま,子どもらしさの欠如,早熟などがある。その原因としては,第1に,家族内の子ども同士の関係である兄弟姉妹がないことにより,子ども同士の関係のなかできたえられる社会性に不十分で,未熟な面がもたらされることと,第2には,子どもをひとりしかもたない親が,子どもを失うことを恐れて,過保護な育児態度に陥りやすいことがあげられる。前者については,子どもは他の子どもとの関係のなかで,相互に模倣しあってさまざまな能力を身につけ,要求のぶつかりあいによるけんかを通じて自己主張や妥協や規則を守ることの必要性を知り,競争することによって相手に負けまいと努力する態度が養われ,ひとりではできないことを協力してなし遂げる喜びを体験し,思いやりの気持ちが育てられるわけであるが,ひとりっ子はそのような経験をもつことができないために,それらの面での未熟さが残るといわれる。すなわち,前述の〈社交性欠如〉〈わがまま〉などはその結果であるといえよう。後者については,親が子どもの健康をつねに気づかい,病気やけがを恐れて汚ないことや危ないことをさせないように気を配り,不安な気持ちで子どもを見まもることになりやすい。また,子どもの将来への期待もすべてその子ひとりに向けられるから,教育的刺激は過剰となりやすい。一方,子どもを欲求不満の状態におくことを避けようとする結果,甘やかしの状態にもなりやすい。〈神経質〉〈依頼心の強さ〉〈早熟〉などはその結果だといえよう。また,最近目だってきた現象として,母親が育児よりも自分の仕事や娯楽を重視するためにもうひとり産めるのに産まないでひとりっ子になる場合がある。この場合は,子どもを早く自立させたいという気持ちから,子どもの能力以上のことを期待したり,子どもを冷たく突き放したりする結果,情緒不安定になったり,神経症的な行動が現れたりする。
執筆者:清水 民子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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