中国古来の代表的孝子24人をいい、また彼らの逸話を収めた同名の幼童の教訓書をいう。その人と配列の順序には諸本で異同があるが、元(げん)の郭居敬(かくきょけい)の作といわれる『二十四孝』によれば、虞舜(ぐしゅん)、漢の文帝、曽参(そうしん)、閔損(びんそん)、仲由(ちゅうゆう)、董永(とうえい)、剡子(えんし)、江革、陸績、唐夫人、呉猛、王祥、郭巨、楊香(ようこう)、朱封昌、廋黔婁(ゆけんろう)、老莱子(ろうらいし)、蔡順(さいじゅん)、黄香、姜詩(きょうし)、王褒(おうほう)、丁蘭(ていらん)、孟宗(もうそう)、黄庭堅らであり、仲由と江革のかわりに張孝と田真を入れたものもある。孝子譚(たん)を集めた書には古く前漢の劉向(りゅうきょう)作『孝子伝』があるが、敦煌(とんこう)発見の唐末五代の円鑑大師雲辯(うんべん)の作といわれる『二十四孝押座文(おうざぶん)』によって、唐末ごろには孝子の代表24人を数える習慣が形成されていたことがわかる。二十四孝説話は、一般に親に対する子の一方的献身を説き、親の喜びのために、70歳になっても赤子のまねをする周の老莱子、親を養うためにわが子を生き埋めにしようとする漢の郭巨、親の食欲のために、厳冬に筍(たけのこ)を探して泣く晋(しん)の孟宗や、氷上に寝て鯉(こい)をとろうとする晋の王祥の話など、残酷なものが少なくない。『二十四孝』は江戸時代には日本でも訳され、近松半二(ちかまつはんじ)らの浄瑠璃(じょうるり)『本朝(ほんちょう)廿四孝』など芸能にも多く取り入れられている。
[山崎純一]
『徳田進著『孝子説話集の研究――二十四孝を中心に 中世編・近世編』(1963・井上書房)』
御伽草子。中国の《全相二十四孝詩選》にもとづき,五言絶句の漢詩を掲げ,その注解を和文で綴ったもの。渋川版御伽草子所収。内容は,大舜,漢文帝,丁蘭,孟宗,閔子騫,曾参,王祥,老萊子,姜詩,唐夫人,楊香,董永,黄香,王裒,郭巨,朱寿昌,剡子,蔡順,廋黔婁,呉猛,張孝・張礼,田真・田広・田慶,山谷,陸績の24話から成る。渋川版御伽草子本をも含め,《二十四孝》の版本は近世全期を通じておびただしい数にのぼる。B.H.チェンバレンは《日本事物誌Things Japanese》(1890)の〈親孝行〉の項に,〈日本の人びとにとって,《二十四孝》の話ほど大好きなものはない。……日本人は自分たちの《本朝二十四孝》を作ったが,これはあまり人気がない〉と述べている。日本人の作った〈二十四孝〉として,文学史上著名なものは浅井了意作の仮名草子《大倭(やまと)二十四孝》(1665),藤井懶斎の《本朝孝子伝》(1684)などである。特に後者は漢文で書かれたにもかかわらず,大変な好評で,貞享3年(1686),4年と版を重ね,貞享4年には和文に改めた《仮名本朝孝子伝》も刊行され,さらに多くの読者を持った。井原西鶴の《本朝二十不孝》は,《本朝孝子伝》の好評に便乗し,同書〈今世〉の部の孝子20人を,中国の《二十四孝》の趣向を活用しながら,ことごとく親不孝者に逆転して見せた才気縦横の浮世草子である。
執筆者:佐竹 昭広
中国,五帝の一人の舜から宋の黄庭堅までの24人の孝子たち。その物語は元代以後,あるいは巻首に《孝経》をそえて,あるいは挿絵をともなう幼童の読物として出版が繰り返された。元の郭守正が集めたともいわれるが,原作者についてはよくわからない。ただし原型となるべきものは古くから存在した。後漢の武氏祠画像石には二十四孝のなかの曾子,閔子騫(びんしけん),老萊子(ろうらいし),丁蘭,董永(とうえい)たちが描かれており,とりわけ六朝時代に著された数種の《孝子伝》が材料に使われたものと考えられる。日本でもお伽草子の《二十四孝》や仮名草子の《大倭(やまと)二十四孝》が生まれた。魯迅は《二十四孝図》の一文で,人情にはずれた封建倫理に強く反発しているが,母のために雪中に笋(たけのこ)をもとめる孟宗の故事を〈一子寒し親孝行の袖の月,どこにあらうぞ雪の笋〉と皮肉った井原西鶴は,二十四孝物語を逆用して《本朝二十不孝》を著した。
→孝
執筆者:吉川 忠夫
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…改題本に《新因果物語》。中国の《二十四孝》(全相二十四孝詩選)を逆手にとって20の不孝譚を集めたもの。ほかに先行する孝子譚もあるが,直接的には,1683年(天和3)5代将軍徳川綱吉により発令された忠孝令,翌84年の初版から3年連続版を重ねた《本朝孝子伝》にみられるごとき孝行奨励への,作者なりの対応と考えられる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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