孫文(そんぶん/スンウェン)が提出した政府組織の原則。孫文は欧米資本主義国にみられる立法、行政、司法の三権分立主義を参考にし、さらにそれに中国古来の考試(官吏の採用試験制度)と監察(官吏の不正を監督する制度)の二権を加えた政府組織を考案した。これによると、中央政府は立法、行政、司法、考試、監察の五院から構成されることになる。この考えは、1906年日本の東京で開催された『民報』創刊1周年記念会の席上、初めて公表された。以後、死去する1年前(1924)の「五権憲法」と題する講演に至るまで、その細かい内容は少しずつ変化している。国民党の政権掌握後、孫文の「五権憲法」の原則は実際に行われた。すなわち、1928年10月、この主義に基づく中華民国国民政府組織法が制定され、以後、国民政府は五院制をとった。しかし、事実上、国民党の党組織がこれらの政府組織より上位にあって独裁的に支配したので、五権分立は空文にすぎなかった。
[倉橋正直]
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三民主義と並んで孫文によって提唱され,中国国民党の政綱となった憲法理論。行政・立法・司法の三権に中国の伝統に根ざした監察・考試の二権を加え,五権を相互に独立した機関によって行使せしめる構想。孫文は1905年(光緒31)に初めてこの理論を唱えた。1928年の〈国民政府組織法〉はこの理論によって初めて五院制を定めた。台湾に行われる中華民国憲法(1946制定)も五院制をとる。
執筆者:滋賀 秀三
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孫文の唱えた5権分立主義の憲法理論。5権とは立法,司法,行政の3権のほかに,中国固有の考試,監察の2権を加えた五つの法権をいい,国民政府5院制はこれにもとづく。この5権に対し国民は選挙権,官吏の罷免権,法律の制定権,法律を再審する覆決権の4権をもって政府を監督し,民権を行使するという。五権思想は1905年に公にされ,21年にはさらに明確にされ,五・五憲法草案(1936年),中華民国憲法(47年)の基礎となっている。
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…1月から8月まで三民主義講演を行い,三民主義の目標は滅亡にしている中国を救うための〈救国主義〉であると強調。4月《国民政府建国大綱》を発表して三民主義と五権憲法(立法,司法,行政,監察または弾劾,考試)に基づいて中華民国を建設すること,建設の順序は(中国同盟会時期の《革命方略》を発展させて)軍政時期,訓政時期,憲政時期の3段階とすることを定めた。11月日本を訪問し,神戸で〈大アジア主義〉の題で講演し,欧米の覇道と東洋の王道を対置し,ソビエトを王道国家とし,アジアの被圧迫民族を解放するため日本が覇道を捨てて王道に帰り不平等条約を廃棄するよう求めた。…
…〈一利を興すは一害を除くに如かず〉(耶律楚材)の精神である。しかし監察の重要性は中国人の政治感覚にしみついているので,中華民国の〈五権憲法〉にも立法・司法・行政の万国共通の三権のほかに,監察権というものが特に加えられ,考試権(科挙試験を想起せよ)とともに政治の五つの基本条項(五権)の内に数えられていた。
[官僚――エピソード]
要するに,問題は官僚である。…
※「五権憲法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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