井筒(読み)イヅツ

デジタル大辞泉 「井筒」の意味・読み・例文・類語

いづつ【井筒】[謡曲]

謡曲三番目物世阿弥作。伊勢物語に取材したもので、紀有常の娘の霊が在原業平との思い出を語り、井筒を回りながら、水にわが姿を映して昔を懐かしむ。

い‐づつ〔ゐ‐〕【井筒】

井戸の地上部分に設けた円筒状あるいは方形の囲み。
鉄筋コンクリート製の底もふたもない筒。建造物基礎を作るのに用いる。
紋所の名。1の形を図案化したもの。ひら井筒・角立かくたて井筒など種々ある。井桁いげた
[補説]曲名別項。→井筒

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精選版 日本国語大辞典 「井筒」の意味・読み・例文・類語

い‐づつゐ‥【井筒】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 木や石などでつくった井戸の地上の囲い。円形、方形がある。井戸側。化粧側。井桁(いげた)
      1. [初出の実例]「筒井つのゐづつにかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに」(出典:伊勢物語(10C前)二三)
    2. 紋所の名。の形を図案化したもの。平井筒、角立井筒、重井筒など種々ある。
      1. 平井筒@角立四つ井筒@丸に角立井筒@唐井筒
        平井筒@角立四つ井筒@丸に角立井筒@唐井筒
    3. 能楽の作り物の一つ。台の四すみに竹を立て、その上部を杉板で井桁に組んだもの。「井筒」「玉井(たまのい)」などの曲に用い、特に「井筒」の場合には後方の左右どちらか一片にススキの作り花を添える。
    4. 井筒工法に使用される器材。木、れんが、鉄、コンクリートなどで造った、ふたも底もない筒。地中に掘り入れ、コンクリートを充填(じゅうてん)して建造物の基礎とする。
  2. [ 2 ] 謡曲。三番目物。世阿彌作。「伊勢物語」による。諸国一見の僧が在原寺を訪れると、紀有常の娘の霊が現われ、業平との恋を回想しつつ舞う。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「井筒」の意味・わかりやすい解説

井筒
いづつ

能の曲目。三番目物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)の幽玄能を代表する名作。原典は『伊勢(いせ)物語』。典拠正しい題材であることを、世阿弥は本説(ほんぜつ)とよんで作能の第一条件とした。秋の夕暮れ。在原寺(ありわらでら)の廃墟(はいきょ)を訪れた旅の僧(ワキ)の前に、井筒の女の亡霊(前シテ)が里女の姿で現れ、筒井筒の幼なじみからしだいに恋に移行していった在原業平(ありわらのなりひら)と女のこと、女の純情ゆえに危機を乗り切り、愛を貫いたことを物語り、実はその井筒の女は自分と名のって消えていく。

 後シテは業平の形見の衣装を身に着けて旅の僧の夢のなかに現れ、恋の情念を美しい舞に結晶させ、薄(すすき)を押し分けて思い出の井戸に男装の姿を映して恋人をしのぶ。この男装の姿は、業平自身のイメージとも重なり合い、後世映画が開発したオーバーラップやナラタージュ、フラッシュ・バックなどと同じ手法を世阿弥は用いている。死後何百年もの時点から、生の時間を、愛のすべてを凝縮する夢幻能の手法によって、恋の永遠性がみごとに描かれている。

 なお間狂言(あいきょうげん)は里人による物語だが、これを省略し、舞台上で後シテの扮装(ふんそう)に変わり、叙情の一貫性を高める演出もある。

増田正造

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改訂新版 世界大百科事典 「井筒」の意味・わかりやすい解説

井筒 (いづつ)

能の曲名。三番目物鬘物(かつらもの)。世阿弥作。シテは井筒の女の霊。旅の僧(ワキ)が大和初瀬(はつせ)の在原寺(ありわらでら)を訪れると,若い女が来て荒れた古塚に水を手向ける。女は僧にこれが在原業平の墓だと教え,業平と井筒の女の恋物語を話して聞かせるが(〈クセ〉),やがて自分はその女の霊だと名を明かして,かたわらの井筒の陰に姿を消す。夜がふけると,女は業平の形見の装束を身に着けてふたたび現れ,舞を舞い(〈序ノ舞〉),井戸にわが姿を映して夫の面影をしのびなどするが(〈ノリ地〉),夜明けとともに消えていく。クセ・序ノ舞が中心。首尾整った本格的構成の能で,女の恋心をしみじみと描き出す。
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百科事典マイペディア 「井筒」の意味・わかりやすい解説

井筒【いづつ】

能の曲目。鬘物(かつらもの)。五流現行。世阿弥夢幻能の代表作。《伊勢物語》の井筒の女の抒情は,前ジテの化身の里女によって物語られ,業平(なりひら)の形見をつけた男装の後ジテの優雅な舞で造形される。月下の廃寺という設定が凄艶(せいえん)の趣を添える。旅僧(ワキ)の夢という扱いが,この種の夢幻能の手法。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「井筒」の意味・わかりやすい解説

井筒
いづつ

能の曲名。三番目物。世阿弥作。旅僧 (ワキ) が在原寺を訪れると,里の女 (前ジテ) が井筒の水を古塚にたむけている。女は問われて在原業平の物語をし,自分は業平と契りを結んだ紀有常の娘であると告げて去る (中入り) 。僧が供養を営むと,業平の形見の冠,直衣を着けた井筒の女の霊 (後ジテ) が現れ,ありし昔を偲んで「恥かしや,昔男の移り舞」を舞い (序の舞) ,夜明けとともに姿を消す。幽玄な鬘物 (かずらもの) で世阿弥の代表作。

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世界大百科事典(旧版)内の井筒の言及

【ケーソン】より

…なお,構造物の基礎に用いる場合には設置ケーソンと呼ぶ。(2)オープンケーソン 井筒,ウェルあるいはオープンウェルなどとも呼ばれる。蓋(ふた)も底もない円形,長円形,小判型などの断面の筒状の構造物で,20~50m程度の深さにある支持地盤に上部の荷重を伝達する。…

※「井筒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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