鬘物(読み)カズラモノ

デジタル大辞泉 「鬘物」の意味・読み・例文・類語

かずら‐もの〔かづら‐〕【×鬘物】

能の分類の一。女性シテとする曲で、特に狂女物などを除いた優美・幽玄なもの。正式な番組の三番目に置かれる。「井筒」「杜若かきつばた」「熊野ゆや」など。三番目物女物かつらもの。

かつら‐もの【×鬘物】

かずらもの

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精選版 日本国語大辞典 「鬘物」の意味・読み・例文・類語

かずら‐ものかづら‥【鬘物】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「かずら(鬘)」を用いるところから ) 能楽で、女性を主人公にした曲。「松風(まつかぜ)」、「夕顔(ゆうがお)」、「井筒(いづつ)」など。三番目物。かずらごと。
    1. [初出の実例]「能では三番目の鬘物が、一日の演能の中心であり」(出典:古典と現代文学(1955)〈山本健吉〉近松の周辺)

かつら‐もの【鬘物】

  1. 〘 名詞 〙かずらもの(鬘物)

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改訂新版 世界大百科事典 「鬘物」の意味・わかりやすい解説

鬘物 (かつらもの)

能の種別の名称。〈かづらもの〉ともいう。主人公(シテ)の人体からみた分類で,鬘をかぶる役,すなわち女性を主人公にする能をさすが,一般に〈鬘物〉という場合は,美女の霊または現実の美女,あるいは草木の精などが女姿となって登場し,優雅な舞を舞うところに焦点を合わせた能をいう。主人公が狂女とか強い執心を抱く女性として登場するものはこの中には入れない。鬘物が〈三番目物〉ともいわれるのは,いわゆる五番立(ごばんだて)の演能番組では3番目に置かれる能だからである。能が長年にわたって追求し続け,身につけてきた〈幽玄美〉を基調とする鬘物は,もっとも能らしい能だといわれ,現在の能の中心をなしている。本格的な鬘物の作品として,《井筒》《野宮(ののみや)》《半蔀(はじとみ)》《夕顔》《松風》《江口》などがあげられる。これらの作品には戯曲的な筋らしい筋はないが,昔の姿で旅人ワキ)の前に現れた美女の霊が生前のことを語り,往時をしのんで舞を舞うという形をとり,〈夢幻能〉の典型でもある。女姿の草木の精などが主人公となる夢幻能には《杜若(かきつばた)》《芭蕉》《藤》《胡蝶》などがある。これに対して,現実の女性が主人公になる現在鬘物ともいうべき作品には《熊野(ゆや)》《草子洗(そうしあらい)》《千手》などがあり,内容はかなり劇的で,構成は〈四番目物〉的である。
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百科事典マイペディア 「鬘物」の意味・わかりやすい解説

鬘物【かつらもの】

能の曲柄。〈かづらもの〉ともいう。三番目物,女物とも。女性の幽玄の風情を主とする能。王朝の佳人の《東北》《井筒》《野宮(ののみや)》《定家》,至難の老女物《関寺小町》《姨捨(おばすて)》,非情の精の《杜若(かきつばた)》《胡蝶》《雪》,天女・女神の《羽衣》《葛城(かづらき)》,人情味の濃い《松風》《熊野(ゆや)》など,現行は39番。典雅な舞を舞うのが特徴。
→関連項目野口兼資四番目物

鬘物【かづらもの】

鬘物(かつらもの)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鬘物」の意味・わかりやすい解説

鬘物
かずらもの

能の曲の分類の一つ。シテが女性でかつらをつけるところからの称で,女物ともいい,また正式五番立能では3番目に演じられたところから三番目物ともいわれる。このうち特に3番目だけに限られて上演されるものを本三番目物という。幽玄優美の曲趣で,『東北』『井筒』『江口』『野宮』『定家』『松風』『源氏供養』『楊貴妃』『熊野』『千手』『杜若』『芭蕉』『胡蝶』『雪』などがある。鬘物でも『関寺小町』『姨捨』『檜垣』は特に老女物といわれる。『雲林院』『小塩』『西行桜』『遊行柳』は,四番目物としても演じられるので準鬘物としての扱いを受ける。なお,狂女物は四番目物であり,かつらをつけても鬘物としては扱わない。

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