近松門左衛門作《出世景清》,文耕堂・長谷川千四合作《壇浦兜軍記》などに登場する清水坂の遊女で,景清の愛人。幸若・古浄瑠璃《景清》では〈あこ王〉とある。あこ王は景清との間に2人の子まであるが,平家の残党となった夫の行末を不安に思い,子どものためにあえて訴人に出る。景清は子どもを殺害して遁走するが,あこ王は,その不義ゆえに頼朝によって川に柴(ふし)漬けにされる。《出世景清》では,阿古屋は,景清の正妻熱田大宮司娘への嫉妬から,兄十蔵の勧めをいれて密告する。大宮司と娘が捕らえられ,それを知った景清が自首すると,阿古屋は六波羅の獄舎を訪ねて謝罪するが,夫の怒りがとけず,その場でわが子を手にかけて自害する。しかし《壇浦兜軍記》では,阿古屋と十蔵の兄妹は,景清にたいしてひたすら献身的である。十蔵は景清の身代りになろうとし,また阿古屋は捕らえられて景清の居所をきかれるが白状せず,畠山重忠は阿古屋に琴・三味線・胡弓をひかせ,その音色から景清の所在を知らぬとして釈放する(〈阿古屋琴責〉の段)。柳田国男は,アコを〈我子〉つまり神子(みこ)の意味とし,巫女の通り名が物語のヒロインになる数多い例の一つと考えている。
→平景清
執筆者:兵藤 裕己
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…また源平合戦の武将たちの五百年忌にも当たり,〈八島〉や〈景清〉の世界が選ばれた。平家の落武者景清の頼朝への復讐(当面じゃま者畠山重忠をつけねらう)を縦筋に,閉塞状況の中で彼をかばう小野姫と,2人の子をもうけながら嫉妬の愛憎を利用した敵役兄十蔵の教唆で心ならずも裏切る阿古屋という,2人の対照的な女性の話を横筋として絡ませながら,入牢,阿古屋と2児の死,仏の身代り,頼朝への降伏,瞋恚(しんい)の炎をみずから消すため目をくりぬくという悲愴感に溢れ変化に富んだ展開を見せる。本作は近松と義太夫の提携第1作という意味でも,その優れた悲劇性に対する近代の評価も加わって,浄瑠璃史上,古浄瑠璃と一線を画する作という位置付けを得ている。…
※「阿古屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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