壇浦兜軍記(読み)ダンノウラカブトグンキ

デジタル大辞泉 「壇浦兜軍記」の意味・読み・例文・類語

だんのうらかぶとぐんき【壇浦兜軍記】

浄瑠璃時代物。五段。文耕堂長谷川千四合作享保17年(1732)大坂竹本座初演近松門左衛門の「出世景清」の改作三段目くちの「阿古屋あこや琴責ことぜめ」のくだりが有名。

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精選版 日本国語大辞典 「壇浦兜軍記」の意味・読み・例文・類語

だんのうらかぶとぐんき【壇浦兜軍記】

  1. 浄瑠璃。時代物。五段。文耕堂・長谷川千四合作。享保一七年(一七三二)大坂竹本座初演。近松門左衛門作「出世景清」の改作。三段目の口で、畠山重忠が景清の在所を尋ねる「阿古屋の琴責」が有名。

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改訂新版 世界大百科事典 「壇浦兜軍記」の意味・わかりやすい解説

壇浦兜軍記 (だんのうらかぶとぐんき)

(1)人形浄瑠璃狂言。時代物。1732年(享保17)9月大坂竹本座初演。文耕堂,長谷川千四合作。近松門左衛門の《出世景清》を素材として,平家滅亡後,鎌倉の源氏方に追われる平家の侍大将悪七兵衛景清と,その愛人五条坂の遊女阿古屋の物語を描いたもの。全5段。そのうち今でも人形浄瑠璃に上演されるものは,三段目の口〈堀川問注所の場〉。通称《阿古屋琴責》。景清の行方を追う秩父庄司重忠と岩永左衛門は,阿古屋を訊問するが,阿古屋は白状しない。重忠は,阿古屋に,琴,三味線胡弓の3曲を弾かせ,その演奏に少しの乱れもないところから,彼女の無実を知り釈放する。この3曲が人形浄瑠璃の三味線の聞かせどころで,しばしば上演される。この作品は,《忠臣蔵》七段目,《妹背山》山の段とともに太夫掛合で上演される珍しい例。(2)歌舞伎。人形浄瑠璃が歌舞伎化されたのは,初演の翌年3月,大坂嵐三右衛門座(角の芝居)で,配役は阿古屋を2世芳沢あやめ,岩永を藤川平九郎,重忠を3世嵐三右衛門。それ以来琴責めは,女方が実際に舞台で3曲を弾きこなす演目として,歌舞伎に定着した。明治以降は12世片岡仁左衛門,6世中村歌右衛門の当り芸になった。歌右衛門の阿古屋は,景清のために身を投げ出す前半傾城意地クドキの連綿たる恋の情もさることながら,ことに3曲の演奏で独自の世界を切り開いた。すなわち,ただ3曲を演奏するだけではなく,音楽に憑かれた一人の女が,音楽によって自分の心情,心の姿を語るという世界である。見方によっては世界に類を見ない音楽裁判劇で,重忠はその3曲によって,言葉を超える微妙な女の心の真実を発見する。敵役岩永の人形振り,ギクシャクした人形のような動きの竹田奴の拷問などの演出の特徴も見られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「壇浦兜軍記」の意味・わかりやすい解説

壇浦兜軍記
だんのうらかぶとぐんき

浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。五段。文耕堂(ぶんこうどう)・長谷川千四(はせがわせんし)合作。1732年(享保17)9月、大坂・竹本座初演。近松門左衛門作の『出世景清(しゅっせかげきよ)』を基に、平家の侍大将悪七兵衛(あくしちびょうえ)景清が主家滅亡後、源氏への報復を企てる話に、愛人五条坂の遊女阿古屋(あこや)との情話を絡ませた作だが、三段目口(くち)の「堀川問注所」だけが後世に残り、人形浄瑠璃でも歌舞伎(かぶき)でもしばしば上演される。通称「阿古屋の琴責め」または「阿古屋」。景清の行方を探す鎌倉方の岩永左衛門(いわながさえもん)は、阿古屋を捕らえ拷問しようとするが、畠山重忠(はたけやましげただ)は阿古屋が愛人のありかを知っているかどうかを探るため、琴・三味線・胡弓(こきゅう)の三曲を弾かせ、その音色にすこしも乱れのないことから彼女の無実を知り釈放させる。阿古屋の三曲の演奏が眼目で、人形浄瑠璃では三味線と人形遣いの技巧の見せどころ。歌舞伎では阿古屋に扮(ふん)する女方(おんながた)のたしなみが発揮される演目で、現代では6世中村歌右衛門(うたえもん)の当り役である。重忠と岩永は白塗りと赤っ面(つら)という対照的な役の典型で、ことに岩永は「人形振り」で滑稽(こっけい)な演技をみせるのが型になっている。

[松井俊諭]

『横山正校注・訳『日本古典文学全集45 浄瑠璃集』(1971・小学館)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「壇浦兜軍記」の意味・わかりやすい解説

壇浦兜軍記
だんのうらかぶとぐんき

浄瑠璃。時代物。5段。文耕堂,長谷川千四作。享保 17 (1732) 年大坂竹本座初演。中世の舞曲,謡曲や『出世景清』をはじめとする浄瑠璃などで舞台化された,平家の残党景清の悲劇を扱う景清物浄瑠璃の実質的に最後の作。将軍源頼朝の暗殺をはかって姿を隠した景清の愛人五条坂の遊君阿古屋が捕えられ,拷問にかけられるところ,畠山重忠の命で琴,三味線,胡弓を弾き,その音色に乱れのないことから景清の行くえを知らないと認められて釈放される3段目口「阿古屋琴責」が秀逸。のちに竹本大和掾が語り,大和風の曲として文楽や歌舞伎でしばしば上演される。

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世界大百科事典(旧版)内の壇浦兜軍記の言及

【阿古屋】より

…近松門左衛門作《出世景清》,文耕堂・長谷川千四合作《壇浦兜軍記》などに登場する清水坂の遊女で,景清の愛人。幸若・古浄瑠璃《景清》では〈あこ王〉とある。…

【文耕堂】より

…その後は再び竹本座で著作を続け,24曲ほどを書いた。初期は長谷川千四との合作が多く,30年の《三浦大助紅梅靮》,同じく《須磨都源平躑躅(すまのみやこげんぺいつつじ)》,31年9月の《鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりやくのまき)》,32年9月の《壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)》などがあり,現在も人形浄瑠璃,歌舞伎ともに上演されることが多い。ほかに,三好松洛との合作として36年(元文1)5月の《敵討襤褸錦(かたきうちつづれのにしき)》,37年1月の《御所桜堀川夜討(ごしよざくらほりかわようち)》,38年1月の《行平磯馴松(ゆきひらそなれまつ)》がある。…

※「壇浦兜軍記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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