中国において,肉体を人間ならざるものに改造し,仙人となることを目的として行われる修練の方法。《荘子》には〈吹呴(すいく)呼吸〉とか〈吐故納新〉とかよばれる呼吸術や〈熊経鳥申(ゆうけいちようしん)〉とよばれる体操術を行って長生につとめる実修者の記述がある。また藐姑射(はこや)の山の神人が五穀を食らわずに風を飲み露を吸って暮らしているというのは,後世の〈辟穀(へきこく)食気〉の術を連想させる。辟穀食気とは穀類を絶ち,宇宙の“気”を栄養とする食餌法。穀類は血液を濁らせるとともに,体内に巣くう悪鬼の三虫ないし三尸(さんし)は穀類の精を養分として育つと考えられたのである。また《山海経(せんがいきよう)》や《戦国策》などには不死の薬にかんする話があり,戦国時代には服薬も行われていたのであろう。秦の始皇帝も東海中の三神山に不死の薬をもとめさせた。漢初の功臣の張良は〈辟穀導引軽身〉の術を学んだと伝えられるが,近年,馬王堆漢墓から《導引図》が発見され,呼吸術と体操術をかねた導引の具体的なありさまが明らかとなった。馬王堆からは辟穀食気にかんする《却谷(穀)食気篇》も発見されている。漢の武帝や淮南王劉安のもとに集まった方士たちのなかには錬金術,練丹術を説くものがあり,それによって得られる金丹を服用すればやはり長生不死がかなうと信ぜられたのであった。
このように,漢代にはすでにさまざまの仙術が存在し,《漢書》芸文志には10家,205巻の神僊(仙)家の著作があげられている。その後,神仙を神々にあおぐ宗教として道教が成立すると,錬丹,服気(食気),房中(男女交合),吐納(吐故納新),導引,禁呪(きんじゆ)(まじない),符籙(ふろく)(おふだ)などかずかずの仙術が説かれ,そのいずれを重視するかによってそれぞれの立場が示された。そしていったん仙人となったものには,空中飛行,分身隠形,千里眼などの超能力がそなわると考えられ,仙人があやつるそのような諸術もまた仙術とよばれた。
執筆者:吉川 忠夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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