良忍(1073-1132)を開祖とし,その念仏思想たる融通念仏を信奉する宗派。大念仏宗などともいう。良忍は12世紀の初頭に,自分の念仏の功徳はいっさいの人に融通し,他人の唱える念仏も融通して自己の功徳となり,念仏は無限の念仏となって往生がなしとげられるとの思想に達し,1117年(永久5)以後この融通念仏の法を各地に広め,摂津国住吉の修楽寺(のちの大念仏寺)を根本道場とした。融通念仏は集団による大念仏運動であり,宗派としての形態をもたずに,民間に普及した。宗派としての形を整えたのは江戸時代,大通融観(1649-1716)によってである。大通融観は1688年(元禄1)に将軍徳川綱吉より宗門復興の台命を受け,それより大念仏寺の香衣勅許奏上権を確立し,檀林清規を制定,《融通円門章》を著して教義を大成するなど,元禄年間(1688-1704)には一宗の体制を整えた。こうして,宗派としては大通融観を再興の祖とするが,南北朝時代の法明良尊(1279-1349)の存在を重視し,法明良尊が石清水(いわしみず)八幡宮の霊告により法灯・法器をうけ,大念仏寺を再興したことをもって,中興の祖とする。この2人と開祖良忍をあわせて,三祖と呼んでいる。1874年宗名を公称し,管長制をとった。現在,大念仏寺を総本山として,寺院358を擁している。《華厳経》《法華経》を正依の経典,浄土三部経を傍依の経典とする。本尊は良忍が阿弥陀仏から直授されたという十一尊天得如来。御回在はこの宗独自の行事であり,大念仏寺より毎年定期的に本尊の天得如来を末寺または檀家へ出張,巡回せしめ,布教にあわせ先祖回向,お祓,祈禱などを修する。
執筆者:伊藤 唯真
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念仏思想を信奉する仏教の宗派。大念仏宗ともいう。開祖は良忍(りょうにん)(本源上人(しょうにん))(1072~1132)。12歳で比叡山(ひえいざん)に登り良賀の弟子となった良忍は、のち、大原に隠栖(いんせい)して真実の仏道に励み、1117年(永久5)夏、念仏三昧(ざんまい)中弥陀(みだ)の来迎(らいごう)を蒙(こうむ)り融通念仏の根本義を感得した。そのときの偈(げ)は、「一人一切人(いちにんいっさいじん)、一切人一人、一行一切行、一切行一行、是名他力往生(たりきおうじょう)。十界一念(じっかいいちねん)、融通念仏、億百万遍、功徳(くどく)円満」で、この教理をもって融通念仏宗の根本教旨とする。融通念仏の教えはきわめて庶民的で、一人の唱える念仏の功徳が一切人の功徳となり、一切人の唱える念仏の功徳がまた一人一人の功徳となって億百万遍の功徳が成就(じょうじゅ)するというのである。この良忍の融通念仏は日本各地に広く浸透していった。良忍滅後は一時中断したが、1321年(元亨1)法明房良尊が宗門を中興し大坂平野(ひらの)の大念仏寺を中心として大いに念仏を興隆した。室町・戦国時代を経て、1615年(元和1)大坂夏の陣の兵火に大念仏寺堂宇は全焼したが、1672年(寛文12)舜空(しゅんくう)により大堂は再建された。元禄(げんろく)年間(1688~1704)融観(ゆうかん)が出でて大念仏寺46世を継ぎ、宗門の規則を定め学寮を設け、『融通円門章』『融通念仏信解章(しんげしょう)』を著述し宗義を確立、宗門を再興した。かくて良忍、良尊、融観を三祖と称する。大阪市平野区平野上町の大念仏寺を総本山とする。
[清原實明]
『田代尚光著『融通念仏縁起之研究』(1977・名著出版)』▽『融通念仏宗教学研究所編『良忍上人の研究』(1981・百華苑)』
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良忍(りょうにん)を開祖とし,1117年(永久5)に開宗された浄土教の一宗派。本山は大阪市の大念仏寺。1人の念仏の功徳(くどく)がいっさいの人に,他人の念仏の功徳が1人に融通しあい大きな利益(りやく)をもたらすとする。鎌倉中期の導御のとき,壬生(みぶ)で融通大念仏狂言が,清凉寺で融通大念仏会が始まり現在に伝えられる。融通念仏の興隆のようすは,14世紀の良鎮以後多く開版された「融通念仏縁起絵巻」にうかがわれる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
※「融通念仏宗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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