動詞〈わぶ〉の名詞形。なんらかの不運にあって零落するとか,失望落胆するとか,あるいはその結果心細くはかなく思っているとかいう意味である。ところが,中世の隠者たちの草庵生活では,それが世俗の名誉や利害を重んじる価値観・秩序観から自由であることを明示するあかしとして高く積極的に評価されるようになり,さらに武野紹鷗(じようおう),千利休らの〈侘数寄(わびずき)〉の茶の根本精神として深化洗練されていった。後の千宗旦著《禅茶録》には〈其不自由なるも,不自由なりとおもふ念を不生(しようぜず),不足(たらざる)も不足の念を起さず,不調(ととのわざる)も不調の念を抱かぬを侘なりと心得べきなり〉と簡潔に示されている。近世の松尾芭蕉もその草庵生活や旅のことにふれて,しきりに〈わび〉を語っているが,彼の意図するところも,われわれの日常生活がもたらす擬制の秩序や価値観から自由になり,世界内のいっさいの事物の有様をそのあるがままの姿に認識したいという願いに発している。服部土芳(どほう)はその徹底ぶりを〈侘といふは至極也。理に尽きたるもの也といへり〉(《三冊子》)と語っている。
→さび
執筆者:堀 信夫 中世文学のなかで醸成された不完全の美,否定の美は,茶道において〈わび〉の美意識を登場させた。侘茶の祖とされる村田珠光(じゆこう)においては〈冷え枯れる〉といった語に粗相の美を求めているが,いまだ〈わび〉の語は用いられていない。16世紀前半に活躍した武野紹鷗に至って《侘之文(わびのふみ)》などが書かれ,わびの美をめざす茶の湯が創造された。《侘之文》では〈正直に慎しみ深く,おごらぬ様〉を〈侘〉としているが,《南方録(なんぼうろく)》にいうように,紹鷗のわびは,豪華絢爛(けんらん)たる名物揃いの茶を味わい尽くしたうえで到達する無一物の境地で,激しい対極の美を内包する意識であった。千利休と同時代の山上宗二(やまのうえのそうじ)の茶書によれば,〈一物も持たず,胸の覚悟一,作分一,手柄一,此三箇条〉をあわせ持つのが〈侘数寄〉すなわち〈侘茶人〉であるとしている。つまり,名物道具などすぐれた器物はいっさい持たぬかわりに茶人としてすぐれた境地と技術を持つことである。こうして,物質的な貧しさのなかに精神的な豊かさを求めるわびを理想として,侘茶の伝統がつくり出されたのである。
→茶道
執筆者:熊倉 功夫
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…これらの要素が総合的に表現されるのは茶会という一種の宴会,すなわち寄合の場で,その意味では茶道は最も洗練された宴会の一様式ということもできよう。茶道の様式は16世紀に〈わび(侘)茶〉として千利休により完成された。 従来,茶道を日本的な総合芸術ととらえたり,あるいは禅の思想に立脚する儀礼と考えるなど,さまざまな見方があったが,西欧的な芸術の概念では茶道を十分に把握することはむずかしい。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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