日本庭園の一様式。庭園の背後あるいは横の部分の、美しい山や山脈、海洋、湖沼、社寺の建築(とくに塔)などを背景として扱い、その庭園の中に溶け込ませる技法で、一般の庭園愛好家に好まれている。
従来からあった借景の方法を個別にみると、次の種類に分けられる。
(1)近山を借景にしてそれを庭に接続する。
(2)近山を別の景観として取り扱う。
(3)背景の森林を庭に接続しているようにみせる。
(4)背景の森林を別個の存在のようにみせる。
(5)遠景と近景を庭園に接続させる。
(6)遠景と近景を別個の景観として取り扱う。
(7)中景および遠景を庭園の背景とする。
(8)上の方法で古建築や古塔などを意識的に庭園景致に導入したもの。
(9)湖沼および遠山を絵画的に庭園に導入する。
(10)内海あるいは湾を、庭園から俯瞰(ふかん)することによって別個の景観を構成する。
(11)一般近景を絵画的に庭園内に導入する。
(12)遠景の絵画的導入。
このような借景導入の方法は平安期ころから扱われていたが、もっとも流行したのは江戸初期と、明治・大正・昭和初期である。ただその内容は時代によって著しい差があった。江戸期のものは自然主義的傾向と象徴主義的傾向の二つがあり、それぞれに発想と表現と目的を十分理解した作品が多く、ために傑作も生まれた。明治以降のものは、借景のみに力を入れすぎて肝心の作庭内容に力がなく、借景の目的が本末転倒となっている場合が多い。
[重森完途]
造園技法の一つ。庭園外の景物をとりこんで構成の要素とする場合,これを借景という。中国明代の書《園冶》(1628)に初めて現れる言葉で,中国や日本のような風景式庭園で採用される手法である。とりこまれる景物は自然の山の場合が多いが,松並木あるいは楼閣や塔のような建造物の例もある。日本における借景は,中世まで眺望にすぐれた立地を求めたり,天竜寺庭園のように背後の嵐山と一体となるような,自然そのものと融合させることが中心であったが,近世以降は,庭内に近景,中景をおき,借景を庭園の遠景として,庭園に空間的広がりを与え,庭園そのものを中景,近景とともに絵画的に変質させる技法となった。そのため近景,中景としての灯籠,樹林などが強く意識された。複雑で変化に富み,また小規模な地形の多い日本では,借景の材料は至るところにあり,借景を生かした名園が数多く作られ,京都の修学院離宮,円通寺,無鄰庵,奈良の依水園などが有名である。なお,京都の庭師の間では景物を生けどることから〈生けどり〉とも呼ばれた。
執筆者:田中 正大
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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