(1)歌舞伎狂言。時代物。三番続き(3幕)。近松門左衛門作。1695年(元禄8)3月京の早雲座で初演。法隆寺の仏舎利の開帳を当てこんだ斑鳩(いかるが)家のお家騒動物で,〈阿波鳴門物〉とは別種。(a)序幕 斑鳩家の2人の息,大蔵と十介は,互いに兄弟と気づかず,由兵衛・松兵衛と名のり土工として働いている。十介は斑鳩家に復帰するが継母に邪恋をしかけられ再び家を出る。(b)二幕 大蔵の娘お妻が十介の恋人の和州に助けられたことから,兄弟一緒に家国横領の兵庫一味を討つことになる。(c)三幕 兵庫らは討たれ,斑鳩家も安泰となる。98年秋,京の都万太夫座で再演。
(2)人形浄瑠璃。時代物。10段。近松半二,八民平七,寺田兵蔵,竹田文吉,竹本三郎兵衛による合作。1768年(明和5)6月大坂竹本座で初演。夕霧・伊左衛門の件に,伊達騒動(作中では徳島の玉木家)と阿波十郎兵衛の伝説を加えたもの。1712年(正徳2)春大坂竹本座初演の近松門左衛門作《夕霧阿波鳴渡》を翻案した〈阿波鳴門物〉の一つで,代表作。玉木家の家老桜井主膳は,主家の宝刀を盗まれた。家来の十郎兵衛は,刀の詮議のため盗賊になる。出入りの町人,藤屋伊左衛門も恩に報いようとするが,吉田屋の夕霧におぼれて金に困り,十郎兵衛に助けられる。十郎兵衛の家に,故郷から娘のおつるが巡礼姿で親を探しにくる。妻のお弓は,盗賊の子と知れるのを恐れて,母と名のらずに帰す。それを十郎兵衛は,わが子と知らずに金のために殺す。ついには,悪家老小野田郡兵衛から宝刀を取り戻し,玉木家の騒動も収まる。歌舞伎化は,1789年(寛政1)6月の江戸中村座が最初か。八段目の〈十郎兵衛宅〉(通称〈順礼歌の段〉)が眼目で,歌舞伎では産湯稲荷や大師の境内など,原作にはない場面に改め,《どんどろ》《どんどろ大師》と呼ばれて上演されることが多い。改作には,1783年(天明3)1月,京中山座の《けいせい粟盛渡(あわのなると)》,1808年(文化5)秋大坂堀江市の側芝居の《国訛嫩笈摺(くになまりふたばのおいずる)》,17年9月江戸中村座の《旨首尾鳴戸白浪(まんまとしゆびなるとのしらなみ)》などがある。
執筆者:佐藤 彰
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浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。世話物。10段。近松半二(はんじ)、八民(やたみ)平七、吉田兵蔵、竹田文吉、竹本三郎兵衛合作。1768年(明和5)6月、大坂・竹本座初演。「契情(けいせい)~」とも書く。近松門左衛門作の浄瑠璃『夕霧阿波鳴渡(ゆうぎりあわのなると)』に基づき、阿波徳島玉木家の御家騒動に、夕霧伊左衛門の情話と阿波の十郎兵衛の巷説(こうせつ)を取り入れた作。八段目「巡礼歌の段」が有名で、今日でも多く上演される。旧主玉木家への忠義のため、盗賊となった十郎兵衛の女房お弓が、偶然訪ねてきた巡礼娘お鶴(つる)を、わが子と知りながら、難儀をかけるのを恐れ、母親と名のらずに別れる話。歌舞伎(かぶき)では、この場を後世の改作により、どんどろ大師前の場面で演じることが多く、俗に「どんどろ」とよぶ。
近松門左衛門には同題の歌舞伎脚本がある。1695年(元禄8)3月、京都早雲座初演。法隆寺開帳を当て込んだ斑鳩(いかるが)家の御家騒動の話で、半二の作とは関係がない。
[松井俊諭]
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…夕霧は病重く,伊左衛門の母によって身請けされる。この改作,影響作に,51年(寛延4)《浪花文章夕霧塚(なにわぶんしようゆうぎりつか)》,68年(明和5)《傾城阿波の鳴門》,93年(寛政5)の初演と思われる《廓文章(くるわぶんしよう)》(初演の名題《曲輪》)などがある。豊後節の《夕霧阿波鳴渡》は,近松原作の上巻〈吉田屋〉によったもの。…
※「傾城阿波の鳴門」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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