西域の兜跋国に出現したと伝える,特異な形式の毘沙門天像に対する名称。兜跋国とはトゥルファン(吐魯蕃)であるともいわれるが諸説がある。形像は,左手の掌上に小塔をのせ,右手は地に立てた戟(げき)の長い柄をつかみ,地天と二鬼の上に立つ点に関しては通例の毘沙門天像と大差はないが,胴から膝下まで外套のように包む重厚な鎧の形式や,鎖帷子(くさりかたびら)のように緊密に編んだ鎧の素地に特色がある。この像は,中国唐時代に城門楼上に出現して城を守護した伝説(《毘沙門儀軌》)に見られるように,王城鎮護のために城門に安置された。日本における兜跋毘沙門天像は,平安時代前期に唐から請来した教王護国寺(東寺)像(国宝)を手本にするが,同像は京都の羅城門の上に安置されていたとの伝承がある。京都棲霞(せいか)寺(清凉寺)像,同橋本家像その他数例が現存するが,いずれも平安時代の作例であり,平安時代以外にはほとんど造像されなかったと推測される。
執筆者:関口 正之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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