デジタル大辞泉
「八橋」の意味・読み・例文・類語
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やつ‐はし【八橋】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 小川、池などに、幅の狭い橋板を数枚、折れ折れに継ぎ続けて架けた橋。
八橋[ 一 ]①〈石組園生八重垣伝〉
- [初出の実例]「来ぬ君をまつ八橋の喰違ひ」(出典:俳諧・若みどり(1691))
- ② 香木の名。分類は羅国(らこく)。香味は辛苦。六十一種名香の一つ。〔志野宗信筆記(香道秘伝所収)(1501か)〕
- ③ 交互に渡した橋を図案化した模様。[ 二 ][ 一 ]がカキツバタの名所で知られるところから、カキツバタを配することが多い。
- [初出の実例]「八橋が袖とみ沢のかきつばた」(出典:雑俳・丹舟評万句合(1704‐11))
- ④ 「やつはしおり(八橋織)」の略。
- [初出の実例]「婦女には特に帯上(おびあげ)(〈注〉おしょいあげ)ありて、多くは別染縮緬、紋羽二重・八ツ橋等を用ひ」(出典:東京風俗志(1899‐1902)〈平出鏗二郎〉中)
- ⑤ ( 「やつはしりゅう(八橋流)」の略から転じて ) 琴をいう。
- [初出の実例]「八橋(やツはし)で世を渡ってるひんのよさ」(出典:雑俳・柳多留‐四五(1808))
- ⑥ 「やつはしせんべい(八橋煎餠)」の略。
- [初出の実例]「八橋(ヤツハシ)と云ふ菓子に似た竹の片を二つ入れて」(出典:満韓ところどころ(1909)〈夏目漱石〉三九)
- ⑦ 植物「いちはつ(一八)」の異名。
- [ 2 ]
- [ 一 ] ( 古く、逢妻(あいづま)川の流れが八つに分かれていて、八つの橋が架けられていたところから呼ばれたと伝えられる ) 愛知県知立(ちりゅう)市の地名。東海道筋にあって、古くからカキツバタの名所として知られた。歌枕。三河の八橋。
- [初出の実例]「三河の国、やつはしといふ所にいたりぬ」(出典:伊勢物語(10C前)九)
- [ 二 ] 賀茂川あるいは御手洗川に架けられていたとされる八つの橋。
- [初出の実例]「やつはしのほどにやありけん、はじめて、かづらぎや神代のしるしふかからばただひとことにうちもとけなん」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
八橋
やつはし
京と東国を結ぶ古代の東海道はこの地を通り、「伊勢物語」には次のようにある。
<資料は省略されています>
この歌は「古今集」に載り、「後撰集」「拾遺集」以下の勅撰集はじめ、八橋は歌枕として多くの歌に詠まれる。謡曲「杜若」は「伊勢物語」を劇化したものである。なお「更級日記」は「八橋は名のみして橋のかたもなく、何の見所もなし」と記している。
鎌倉時代には、東海道の宿駅として栄え、貞応二年(一二二三)四月の「海道記」には次のように出ている。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
八橋(鳥取県)
やばせ
鳥取県中央部、東伯(とうはく)郡琴浦(ことうら)町の一地区。旧八橋町。日本海に臨む。山陰道の古駅清水(しみず)の地や『小右記(しょうゆうき)』(1031)に記された八橋野牧(やばせののまき)はこの付近と推定される。中世の行松(ゆきまつ)氏の城跡があり、近世は鳥取藩家老津田氏の自分手(じぶんて)政治の町。海岸は好海水浴場で冬はウミネコが来集する。
[岩永 實]
八橋(愛知県)
やつはし
愛知県知立市(ちりゅうし)にある一地区。地名は、逢妻男(あいづまお)川の流れが八つに分かれ、八つの橋が架けられていたことに由来。カキツバタの名所で、『伊勢(いせ)物語』の故事にちなむ「八橋伝説地」(県指定名勝)があるが、現在は近くの無量寿(むりょうじゅ)寺境内がカキツバタ観光園になっていて、八橋史跡保存館もある。カキツバタは在原業平(ありわらのなりひら)が当地で詠んだ歌「からごろもきつつなれにしつましあればはるばる来(き)ぬるたびをしぞ思ふ」から有名になり、「八橋」は多くの文学作品に現れる。旧東海道池鯉鮒(ちりゅう)宿は約1キロメートル南にある。
[伊藤郷平]
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八橋 (やつはし)
歌枕。所在は愛知県知立市に比定される。《伊勢物語》第9段に,東下りの途次ここに少憩した主人公が,カキツバタの美しさにその5文字を各句の上にすえて〈から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ〉と詠んだとある(《古今集》巻九に在原業平の歌として載る)。謡曲《杜若(かきつばた)》はこれを素材とする。八橋の地名は〈水ゆく河の蜘蛛手(くもで)なれば橋を八つわたせる〉によるという(《伊勢物語》)。以後,多くの和歌や紀行にとりあげられ,また尾形光琳の名品《八橋図屛風》《八橋蒔絵硯箱》の意匠となっている。八橋の古跡という八橋山無量寿寺の杜若池の庭園は著名。
執筆者:奥村 恒哉
八橋 (やつはし)
京都名物の菓子。米粉を湯で練って蒸し,砂糖,ニッケイ粉,ケシの実などを入れて練り上げ,ローラーにかけて薄くのばしたものを短冊形に切り,丸みをつけた鉄板で焼き上げる。京都黒谷に墓のある八橋検校(やつはしけんぎよう)にちなんで箏(そう)をかたどったものらしいが,《伊勢物語》に出てくる三河国の八橋になぞらえたともいう。現在では生地そのままの生八橋や,これを皮にして小豆あんなどを包んだものもつくられている。
執筆者:加藤 貞男
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八橋【やつはし】
歌枕,文様の一つ。所在は愛知県知立(ちりゅう)市に比定される。《伊勢物語》第9段に,東下りの途中,主人公がカキツバタの美しさを見てその5文字を各句の冒頭に置いた歌を詠んだとあり,以降文学でしばしばとりあげられた。江戸時代に入って尾形光琳が《八橋図屏風》や《八橋蒔絵硯箱》などを作ってからは,文様として工芸品に用いられるようになった。物語文様の一つで,カキツバタを添えることが多い。
八橋【やつはし】
京都の名物菓子。米粉にニッケイ粉,ケシの実,砂糖などを加えて蒸し,薄く伸ばして短冊(たんざく)形に切り,丸くそりをつけて焼いたもの。その形が八橋検校(やつはしけんぎょう)の箏(こと)をかたどったのによる名とも,《伊勢物語》にある三河国の八橋にちなむ名ともいう。
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八橋
やばせ
鳥取県中西部,琴浦町東伯の一地区。旧町名。 1954年近隣町村と合体して東伯町となり,2004年赤碕町と合併し琴浦町となる。街村型の商業集落で室町時代からの出城があり,その城下町であった。江戸時代には宿場町,八橋郡の中心集落として発展。八橋海水浴場,桜の名所八橋公園などの観光資源がある。 JR山陰本線八橋駅がある。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
八橋 (ヤツハシ)
植物。アヤメ科の多年草,園芸植物,薬用植物。イチハツの別称
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の八橋の言及
【知立[市]】より
…重要文化財の多宝塔をもつ知立神社,カキツバタで有名な無量寿寺がある。《伊勢物語》に記された東部の八橋は歌枕として知られる。【溝口 常俊】
[池鯉鮒宿]
江戸品川より39番目の東海道宿駅。…
【東伯[町]】より
…中心集落の浦安は旧市場町で,小工場が多い。古く《和名抄》の郷名にも見える八橋(やばせ)は米子往来,八橋往来の旧宿場町で,江戸前期は八橋城の城下町であった。農業が基幹産業で,特に大山の広大なすそ野を利用した酪農,養鶏,芝栽培が盛んである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」