中世において“公”と認識された組織に所属し,“公”的仕事に従事する下級の職員。平安末期から史料に登場する。彼らを所属する組織によって分類すると以下のようになる。(1)興福寺,東大寺,延暦寺,醍醐寺,東寺などの中央の大寺院に所属する中綱(ちゆうごう),小綱(しようごう),専当,勾当(こうとう),堂童子(どうどうじ),仕丁(しちよう),職掌などの下級の職員を公人と呼ぶ場合。彼らは本来の寺内における雑事以外に,寺領荘園の年貢・公事徴収や未進の譴責,京都・鎌倉・寺領荘園への使者,寺辺および寺領荘園の検断に従事した。彼らの多くは,所属する寺院の周辺に居住するが,他の寺辺の郷民と異なり在家役などの課役を免除される特権を有した。彼らの集団は血縁関係で結ばれ,座的組織を有していたと推定される。経済的基盤は,一部の寺領荘園に置かれた給田よりも,検断料・節供料・使節料などの寺院からの下行物が中心であった。(2)朝廷の下級官人(六位以下)を,〈官方公人〉〈外記方公人〉〈蔵人方公人〉などと呼ぶ場合。また,記録所・文殿(ふどの)の寄人(よりうど)を公人と呼んだ例もある。(3)鎌倉幕府の政所や問注所の寄人,六波羅探題の奉行人,室町幕府の奉行人などを公人と呼ぶ場合。この用例は奉行人クラスの武士を指しているが,室町幕府に所属する下級の職員も〈侍所公人〉〈政所公人〉と呼ばれた。後者の場合,その性格は寺院の公人と似ており,〈公人衆〉〈公人惣中〉という座的集団を構成し,課役免除の特権を幕府から与えられ,犯人追捕,住宅検封,破却,拷問などの検断に従事する。(4)国衙の職掌人,国掌,雑色(ぞうしき)などを公人と呼ぶ場合。以上のように種々の公人の事例をあげることができるが,彼らの活躍はおもに鎌倉・南北朝・室町時代であり,近世になると寺院の公人の存在が延暦寺や東大寺で見いだせるものの,その活動範囲は限定されており,中世のような大きな社会的意味を持たなくなる。
執筆者:稲葉 伸道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中世において、公権を所持する権力機構の末端に所属し、検断(けんだん)などの公的活動に従事した職員の一般的名称。鎌倉時代から史料上に登場するようになる。所属する組織や時代によってさまざまな職員が公人と呼ばれた。(1)王朝の下級官人。例えば主殿寮(しゅでんりょう)年預(ねんよ)や采女(うねめ)を公人と呼んだ例がある。室町時代には「外記方(げきかた)公人」「蔵人方(くろうどかた)公人」「官方(かんかた)公人」「馬寮(めりょう)公人」「局中(きょくちゅう)公人」など所属する官司(かんし)の名を冠して呼ばれた。なお、院庁や国衙(こくが)の下級職員も公人と呼ばれている。(2)鎌倉幕府や室町幕府の奉行人。「政所(まんどころ)公人」「問注所(もんちゅうじょ)公人」などと呼ばれた。室町幕府に置かれた「公人奉行」はこうした奉行人全体を統括する奉行人の意味である。このほか、室町幕府侍所(さむらいどころ)や政所の下級職員も公人と呼ばれた。(3)大寺院に所属する下級職員。すなわち、中綱(ちゅうごう)、小綱(しょうごう)、専当(せんとう)、堂童子(どうどうじ)、仕丁(しちょう)などが公人と呼ばれた。以上の公人の用例をみると、本来の職掌に基づく職名がありながら、その職務が検断、使者、年貢徴収など公的活動に拡大することによって公人と呼ばれる場合が多い。彼らはおおむね、座的構成をとる集団を形成し、その経済的基盤は所属機関から支給される給免田(きゅうめんでん)であった。
[稲葉伸道]
『稲葉伸道著「中世の公人に関する一考察」(『史学雑誌』89-10)』
…その後造寺所の活動が衰退する11世紀中ごろから12世紀になると,大寺院の寺院組織改革・整備にともない,この専当は寺院の政所や公文所,修理所などの下級職員として吸収・組織されていった。彼らは別当や三綱の命令をうけ,寺内や寺領荘園などの経営に従事し,鎌倉時代以降になると公人(くにん)とも呼ばれた。一方,9世紀後半ごろから荘園や国衙領の現地の役人の名称として専当の用例が現れる。…
…和歌所寄人は和歌の選定をつかさどり,召人(めしうど)と呼ばれたが,それ以外の寄人は事務能力に熟達したものが選ばれ,庶務,執事などを担当した。幕府関係の寄人は,問注所寄人が問注所公人(くにん)とも呼ばれたように,公人とも呼ばれた。(2)平安中・後期の荘園における農民の一つの存在形態を示す呼称で,一般的には,自分が耕作している土地の領主(公領を含めて)と異なる領主に人身を隷属させているという,二元的な性格をもった農民をいう。…
※「公人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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