改訂新版 世界大百科事典 「公務員試験」の意味・わかりやすい解説
公務員試験 (こうむいんしけん)
国家公務員または地方公務員の競争任用試験を俗に公務員試験という。試験制度の歴史は古く,古代中国の〈科挙〉制度にさかのぼることができる。またプロイセンでは18世紀前半にすでに官吏任用試験が実施されていた。一方イギリスでは官吏の情実任用patronageが支配していたが,1855年と70年の改革により公開競争試験制度が採用されるようになった。アメリカも猟官制度spoils systemを改革し,公開競争試験を規定した公務員法(ペンドルトン法)が83年に成立した。
日本では,87年に〈文官試験試補及見習規則〉が公布され,翌年には奏任官には高等試験(高等文官試験。いわゆる高文),判任官には普通試験が実施されるようになった。これは主としてプロイセンの制度にならったものであり,一部のものを優遇する道を残していた。すなわち,その前年に設立された帝国大学卒業生には,無試験で奏任官試補に任用される特権を認めていた。しかしやがて国会が開設され,多数を占めた野党からの非難が激しくなるとともに,93年に〈文官任用令〉〈文官試験規則〉が公布され,これ以後,高等試験合格者のみが奏任官に任用されることになった。しかし予備試験の免除と帝国大学教授を中心とする試験委員制,さらに法律知識中心の試験のため,事実上,帝国大学(とくに東京帝国大学)法学部出身者が圧倒的に多く合格した。その後1918年の高等試験令により,外交官や司法官の試験も高文一本に統合された。さらにその後,法科万能の試験科目も若干是正されたりもしたが,実質的には大きな変化はなかったので,日本特有の学閥的官僚制が確立されることになった。
第2次大戦後,公務員は天皇の官吏から国民の公僕となり,高文試験は47年に廃止された。今日,一般職の公務員の任用については,成績主義の原則が定められ,すべてその者の受験成績,勤務成績またはその他の能力の実証に基づいて行われる(国家公務員法33条,地方公務員法15条)。公務員法上,広義の試験には,競争試験と選考試験の2種があるが,とくに国家公務員の採用については公開平等の競争試験によらなければならず,試験は職務遂行能力を有するかどうかを判定することをもってその目的としている。この採用試験は,人事院により行われており,試験の種類は,従来は国家公務員採用上級(甲・乙種),中級,初級に区別されていたが,1989年の改正により国家公務員採用Ⅰ種,Ⅱ種,Ⅲ種と改められた。またこのうちⅠ種試験は,大学の専攻に合わせて行政,法律,経済をはじめ約30種の試験に区分されている。試験の方法は,多枝選択式multiple choice(多数の問題の中から正解一つを選ぶ択一法),記述試験,口述試験等である。なお,戦後の公務員試験は,採用試験であり,旧高文試験のような資格試験ではない。したがって任命権者は,試験の合格者の成績に従って,採用者を決定する方式がとられ,試験機関である人事院に任用候補者名簿を請求することになる。当初,人事院の提示する候補者の員数は非常に制限されていたが,その後,採用予定者数に相当数の余裕をもって提示することになったので,現在では,採用官庁の面接その他による裁量の余地は非常に大きくなっている。こうして,国家公務員法が意図した公正な採用試験が実質的に変化し,資格試験化しているとの指摘もなされている。
地方公務員については,府県や政令指定都市などのように人事委員会をおくところでは,国家公務員に準じた公開競争試験が行われている。一方その他の人事委員会をおかない地方自治体では,任命権者が試験または選考によって採用を行っているが,情実の入る余地もかなりあるといわれている。
執筆者:君村 昌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報