江戸初期の遊行造像僧。美濃国(岐阜県羽島市上中町)の生れ。若くして出家,尾張国(愛知県)師勝村の高田寺で金剛・胎蔵両部の密法を受け,諸国遊行の旅にでる。1664年(寛文4)ころまで美濃地方にいて名古屋荒子観音寺などで造像,65年蝦夷(えぞ)地に渡る。74年(延宝2)には志摩半島,その後は美濃・飛驒地方に入り,袈裟山千光寺や山間僻地(へきち)に多くの仏像をのこす。89年(元禄2)には伊吹山,日光などに遊行,翌90年ふたたび美濃・飛驒地方にもどって晩年の円熟した彫像を刻む。生涯,東日本を遊行し,造像活動をつづけた。円空の没年は岐阜県関市の弥勒寺にある墓碑銘から明らかであり,生年については不明であったが,上野国(群馬県)一宮の貫前(ぬきさき)神社旧蔵の写経の断簡に〈壬申生美濃国円空(花押)〉とあることから,1632年の生れであることが判明した。円空は12万体の造像を発願して,多くの木彫仏を特異な彫法で刻んだ。現存作だけでも5000体を数える。丸木の原材をいくつかに割り,割った面を巧みに生かして,そこに岩肌のような面(プラン)の構成を生み,正面性を強調した。その〈鉈(なた)ばつり〉といわれる荒彫り彫法の生むバイタルな表出は,現代造形の根底を刺激して大いに注目された。
執筆者:丸山 尚一
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江戸初期の僧侶(そうりょ)。美濃(みの)国竹ヶ鼻(岐阜県羽島市上中島町)に生まれる。若くして仏門に入り、天台僧として修験道(しゅげんどう)を学んだともいうが、一宗一派にとらわれぬ自由な信仰の持ち主であったらしい。つねに諸国遍歴の旅を続け、その足跡は、北は北海道から、西は四国、中国にもわたっており、ほとんど日本全土に及んだかと思われる。1695年(元禄8)故郷美濃へ帰り、自ら中興した弥勒寺(みろくじ)で同年7月15日、64歳で没した。
彼をとくに有名にしたのはその造像で、一生に12万体造像を発願したが、現在までに二千数百体が発見されている。大は名古屋荒子観音寺の3.5メートル余の仁王像、小は2、3センチメートルの木端(こっぱ)仏まで種々に及び、像種もさまざまである。丸木を四分、八分した楔(くさび)形の、荒く鑿(のみ)を入れただけの材からつくりあげることが多く、原材における制約をそのままに利用し、また鑿の痕(あと)をそのままに残すというように、大胆直截(ちょくせつ)な輪郭や線条で構成された彫像をつくりあげた。一見稚拙なようだが、当時のまったく形式化した作風の職業仏師たちの作に比し、熱烈な信仰の所産だけに、新鮮な魅力を備えており、激しく心を打つものがあって、現代にも通ずる素朴な美と力強さが認められる。
[佐藤昭夫 2017年5月19日]
『後藤英夫写真、飯沢匡文『円空――江戸のキュービスト』(1980・小学館)』
(中尾良信)
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1632~95.7.15
江戸前期の僧。美濃国中島郡上中島村(現,岐阜県羽島市)に生まれ,若くして出家し天台宗の教義を学んだ。修行のため1665年(寛文5)と翌年に東北・蝦夷地を巡ったのをはじめ,東日本を中心に諸国を行脚,各地で多数の木彫の仏像や神像を造立した。遺作の分布も岐阜・愛知を中心に西は奈良,東は東北・北海道に及び,移入仏は福岡・愛媛からも発見される。生涯に12万体の造像を発願したと伝えられるが,遺作はわかっているだけでも5000体をこえる。鑿目(のみめ)を残した自由奔放な彫技が特色で,作風はユーモラスで親しみやすい。
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…江戸の松雲元慶による五百羅漢寺のための造像(1695ころ)には,この新様式と伝統様式とのすぐれた融合が見られる。美濃の遊行僧円空が,地方民衆の素朴な信仰に支えられて各地に残したおびただしい木彫像は,古代以来の鉈(なた)彫りの伝統を蘇生させたものであるが,ここにも黄檗彫刻の影響が認められる。また寛文から元禄ころ(1661‐1704)にかけて,黄檗宗の高僧の頂相(ちんそう)絵画がさかんにつくられた。…
…おもな遺品に岩手県天台寺聖観音像,神奈川県宝城坊薬師三尊像,同弘明寺十一面観音像などがある。なお近世の円空の彫刻を鉈彫と呼ぶこともある。【副島 弘道】。…
※「円空」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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