凸版(読み)トッパン(その他表記)letterpress

翻訳|letterpress

デジタル大辞泉 「凸版」の意味・読み・例文・類語

とっ‐ぱん【凸版】

印刷版式の一。突起している画線部にインキをつけ、紙などに押圧して印刷する方法活版鉛版網凸版などがある。→凹版
[類語]活版凹版平版石版グラビアオフセットコロタイプ

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精選版 日本国語大辞典 「凸版」の意味・読み・例文・類語

とっ‐ぱん【凸版】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「とつばん」とも ) 印刷する画線部を残して版材の表面を彫って低くし、残された凸部にインクをのせて刷(す)る印刷法。木版・リノリウム版・活版など。凹版の逆。
    1. [初出の実例]「秀英社第一工場〈略〉写真部及製版、細網版、凸版(トツバン)、凹版(あうばん)、木版、鉛版(えんばん)等にして、職工の数凡(およそ)八百名」(出典:風俗画報‐三四五号(1906)市谷加賀町一丁目)

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改訂新版 世界大百科事典 「凸版」の意味・わかりやすい解説

凸版 (とっぱん)
letterpress

印刷するときに用いる版の一種で,インキのつく画線部を凸状にした構造のものをいう。平版,凹版,孔版に対する語。印刷版をこのように4種類に分類することは,技術上からも実務上からも便利であるので,古くから行われている。凸版は,印判の例を見てもたやすく理解できるように,画線の面が非画線の面より高く,この間の高低差を利用して画線面のみにインキをつけて印刷するもので,これには非常に多くの種類がある。最も代表的なものは活版印刷で用いられる活版で,このほか,線画を印刷するために線画部分のみを凸にした線画凸版,写真など濃淡階調のあるものを印刷するため,濃淡を凸状の点(網点という)の大小におきかえた写真版(網凸版),写真版の一種で,原画の白色部を強調するため白色部の網点を取り除いたハイライト版,同じく写真版の一種で,カラー印刷に用いる原色版などがこれに属する。

 印刷インキを版面に選択付着させる平版や,不要のインキを版面から除去してから印刷する凹版などと異なり,凸版では,版面へのインキの付着は簡単で,このため印刷中に起こりうる画像のゆがみがなく安定した印刷が可能であり,また大部数を印刷する場合にも適している。とくに活版のように,版の小さい単位(すなわち活字)を集めて大きなひとつの版とするものでは,自由に小さい版の配置を変えられる,つまり活字の抜き差しが自由であるという利点がある。さらに鉛版などのような同じ版を多数作る複版も,凸版原版から雌型を作り,これを基に鋳造,圧成形,電気分解などを利用することによって,短時間に容易に行うことができる。印刷物の品質も一般にすぐれており,従来は印刷といえば凸版が標準とみなされていたほどである。反面,金属などを版材とする場合は,印刷インキを紙に移すために圧力を加えたとき,印刷機の圧胴に巻いたパッキング材と印刷用紙に生ずる応力が画線の単位面積に対して一様ではなく,いわゆる圧のむらがあらわれ,たとえば写真版の細かい網点は強く紙を押し,大きい網点は圧の不足をきたす結果,印刷面の各部分の濃度が不均一となってしまう。これを補整するため,一般に本刷りの前に圧胴や版を修正するむらとりと呼ばれる作業が必要になり,この作業に相当の時間を要するので印刷機の稼働率は大幅に低下してしまう。この欠点を除くものとして弾性材あるいは粘弾性材を用いたゴム版プラスチック版なども考案されているが,前者の場合は大きな圧のもとでは画線そのものにひずみを生じ,後者は印刷中にしだいに変形するという問題がある。さらに,凸版形式の版でゴムブランケットに一度印刷してからこれを紙に転写する方法(いわゆるオフセット印刷方式を応用したもので,ドライオフセットdry offsetあるいはレターセットlettersetなどと呼ばれる)も考案されているが,この場合も金属凸版ではゴムブランケットとの接触時に画線部のみが強く押されるためゴムブランケットがゆがみ,とくに写真の印刷では良好な印刷物を得るのは困難である。また印刷物の品質が紙の平滑度に左右されるのも凸版によるじか刷りの欠点で,写真版,原色版などの印刷にはアート紙のような高価な紙が必要となる。

 凸版のうち活版印刷は,書籍,雑誌,新聞などいわゆる文字印刷の主流として広く利用され,その中に組みこむ線画凸版,写真版とともに力強い表現が歓迎される。しかし,鉛合金を用いることや熟練作業者の払底などの理由で,名刺,挨拶状などの高級印刷物を別とすれば,写真植字と平版の組合せにその領域を奪われつつある。同じく凸版版式であるゴム版は,フレキソ印刷としてパッケージその他特殊印刷に利用されるが,日本ではオフセット平版ほどの発達はみられない。
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百科事典マイペディア 「凸版」の意味・わかりやすい解説

凸版【とっぱん】

インキのつく画線部を突起させ,非画線部をくぼませた印刷版の形式。原稿の濃淡は網点や線の大小で現す。凸版印刷に用いる版には,活版(活版印刷),鉛版,電胎版,プラスチック版,ゴム版,写真製版による線画凸版,写真版,原色版などがある。→孔版印刷
→関連項目印刷印刷機凹版ハイライト版ヒート・セット・インキ輪転機

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世界大百科事典(旧版)内の凸版の言及

【印刷】より

…したがって,製版が最も重要な役割を占め,版式のちがいによって使用する印刷機も異なる。基本的には凸版,平版,凹版,孔版の4種の版式があり,表にその特色を示す(図1)。 インキのつく部分を残して他の部分は彫りくぼめる形の版を凸版という。…

【版画】より


[原版からみた版画]
 一般に版画は原版の形式,材質によって分類されている。凸版,凹版,平版,孔版および写真の光化学的な版形式があり,材質によって木板,金属,石板,リノリウム,絹,紙など,やはり無限に多様な材質が原版として用いられる可能性がある。ここでは一般的な主要な原版の形式について述べることにする。…

※「凸版」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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