出居(読み)いでい

精選版 日本国語大辞典 「出居」の意味・読み・例文・類語

いで‐い ‥ゐ【出居】

〘名〙
① (家の中の外に近い方に)出てすわること。出ていること。でい。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「人々反橋に几帳ばかりをたてていでゐしたり」
寝殿造りに設けた居間来客接待用の部屋。多くは二棟廊と呼ばれる渡殿に設けられる。出居殿。出居の座。のちには多く「でい」と読み、座敷の意。
※宇津保(970‐999頃)菊の宴「母北の方、袖君御簾(みす)をあげていでゐの簀子(すのこ)に〈略〉居て」
朝廷賭弓(のりゆみ)相撲(すまい)などの儀式のときに設ける座。出居(いでい)の座。また、その座についてことを行なう人。でい。
蜻蛉(974頃)下「院の小弓はじまりて、いでゐなどののしる」
出入り口。滝沢馬琴の特殊用語。
読本椿説弓張月(1807‐11)続「毛国鼎は出居(イデヰ)のかたに脆(ひざまづ)きて」

で‐い ‥ゐ【出居】

〘名〙
① (家の中の外に近い方に)出てすわること。出ていること。いでい。
中務内侍(1292頃か)正応元年一〇月二一日「御所の西に平板敷に紫縁(むらさきべり)敷きて、雑仕二人ていしたり」
寝殿造りに設けられた居間兼来客接待用の部屋。多くは二棟廊に設けられる。のちには座敷の意。出居の座。いでい。
源氏(1001‐14頃)東屋「客人の御でい、さぶらひと、しつらひ騒げば」
※義経記(室町中か)二「わが身もでいの蔀上げて、燈台二所に立てて腹巻取って側に置き」
③ 朝廷で賭弓(のりゆみ)や相撲(すまい)などの儀式のときに設ける座。出居の座。また、その座についてことを行なう人。いでい。

いで‐・いる ‥ゐる【出居】

〘自ワ上一〙 外に出てその場所にすわる。また、そこに居る。⇔入り居る。
万葉(8C後)一三・三二七四「石が根の こごしき道を 岩床根延へる門を 朝には 出居(いでゐ)て嘆き 夕には 入り居て偲ひ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「出居」の意味・読み・例文・類語

いで‐い〔‐ゐ〕【出居】

外の方に出て座ること。
「例はことに端近なる―などもせぬを」〈・薄雲〉
寝殿ひさし内部にある応接用の部屋。のちに「でい」と呼ばれ、接客用の座敷の意になる。出居殿いでいどの。いでいのざ。
「―に火をだにもともさず」〈著聞集・八〉
朝廷で、賭弓のりゆみ相撲すまいなどの儀式のとき、臨時に設ける座。また、その座に着いて事を行う人。いでいのざ。
「―につきて賭け物とりてまかでたり」〈かげろふ・中〉

で‐い〔‐ゐ〕【出居】

平安時代寝殿造りに設けられた居間と来客接待用の部屋とを兼ねたもの。のち、客間をいう。いでい。
出居いでい3

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「出居」の意味・わかりやすい解説

出居 (でい)

寝殿造の邸宅に設けられた接客の場所で,客の入口である中門廊と寝殿との中間にある二棟廊(ふたむねろう)や対の屋の一部が用いられた。ここで主人が装束をつけたり,子弟の元服などの行事を行うこともあった。《源氏物語》に〈客人の御でい,さぶらひと,しつらい騒げば〉とあるように,寝殿造では接客空間が未分化なのが特徴で,常設の客間はなかった。出居は元来〈主人が出でて客と共に居る場所〉を意味し,来客に応じて板敷の床に円座や半畳,茣蓙(ござ)などの敷物を敷いてザ(座)を設け応対する場所であった。のちにその座をついたてで囲んで間仕切りができ,また部屋全体に畳を敷きつめたザシキ(座敷)が登場するようになる。こうしてしだいに,出居は書院造の影響などを受けて最高の接客空間へと転化していき,平常は家族の生活にまったく用いられない客間,座敷,奥座敷をも意味するようになった。

 農家に座敷が登場するのは近世以降のことで,この座敷を出居(デ,デエ,デンなど)と呼んだ地方が多い。農家で接客構えが発達すると,1部屋のデイだけですますもののほかに,オオデイとコデイ,オクデイとデイのように二段構えのものもあらわれた。

 なお,中古に朝廷で賭弓(のりゆみ)や相撲(すまい)などの際に設ける座も出居とか出居の座と称した。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「出居」の意味・わかりやすい解説

出居
でい

「いでい」とも読む。客に応対するために「出て居る」部屋の意で、寝殿造で庇(ひさし)や廊などの一画をくぎって接客用にあてた部分。出居(でい)の間(ま)ともいう。また、ここで元服、袴着(はかまぎ)、裳着(もぎ)などの儀式も行われた。東三条殿(ひがしさんじょうどの)のように中門に近い二棟廊(ふたむねろう)に設けられる場合もあり、入口に近い場所でも客をもてなしたことを示している。中世の書院造でも客間を意味し、のちには、広く座敷をさすようになった。また、朝廷における賭弓(のりゆみ)、仁王会(にんのうえ)、相撲、弓場始(ゆばはじめ)など、各種の儀式のために設けられる座をさし(出居の座ともいう)、そして、出居の座に着いて、定められた儀式次第を行う人をもさした。

[吉田早苗]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

家とインテリアの用語がわかる辞典 「出居」の解説

でい【出居】

寝殿造りで、応接間兼居間として用いた空間で、二棟廊(ふたむねろう)と呼ばれる渡殿(元来は建物をつなぐ屋根付きの廊下)や庇(ひさし)の一部を区切って設けられた。日常生活や客との対面のほか、元服などの行事が行われることもあった。近世以降には多くの地方で、農家の客間をいうようになった。◇客に応対するために「出て居る」部屋の意。「出居座」「いでい」ともいう。

出典 講談社家とインテリアの用語がわかる辞典について 情報

普及版 字通 「出居」の読み・字形・画数・意味

【出居】しゆつきよ

別居。

字通「出」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android