貴人の座席を意味する「ござ(御座)」が「御ざといふ畳」〔枕草子〕、「ゴザダタミ」〔日葡辞書〕などのように用いられて次第に敬意を失い、藺草の茎で織った敷物をも指すようになった語。そのため、本来の語とは別語と意識され、江戸時代以降には「莞筵」「臥坐」〔書言字考節用集〕などのほか、国字を作って「茣蓙」「蓙」とも書かれた。
藺(い)で織った敷物で、薄縁(うすべり)ともよばれている。古くは莚(むしろ)ともいわれ、畳の一種であった。莚といえばいまでは藁(わら)莚をさしているが、古くは竹、菅(すげ)、藺、茅(かや)などで織ったものを莚ともいい、畳は莚や茣蓙の総称で、人が座るときだけ敷いて普段は巻いておいた。茣蓙は『枕草子(まくらのそうし)』に「御座といふ畳のさまにて高麗(こうらい)など、いと清らなり」とあるように御座とも書き、これが茣蓙の本意とも考えられる。つまり、高麗縁(べり)などの裂地(きれじ)をつけ、貴人が座る所に敷いたので御座の名がついたといわれている。
現在使われている茣蓙は、経(たて)に綿糸を使い、それに藺を緯(よこ)にして織ったもので、四辺に綿、麻、あるいは麻と綿の交ぜ織りの縁(へり)をつけている。縁はつけないこともある。大きさには畳(たたみ)1畳(じょう)大のものから、4畳半、6畳、8畳大などがあり、良質なものは引通しといって1本の藺を緯全幅に通し、織り方が密で厚みがある。茣蓙は無模様のものをいうが、これの一種に花茣蓙といって模様を織り込んだものもある。また、茣蓙は畳表を利用してつくることもある。畳替えをしたときに、古い畳のうちから比較的状態のよい畳表を使って畳屋につくらせ、これは作業時の敷物に利用したりする。畳表は茣蓙と製法は変わらないが、これは経に麻糸を使い、織りの目幅が茣蓙より長い。茣蓙の主産地は広島、岡山、福岡、大分県などで、岡山県都窪(つくぼ)郡には茣蓙織り唄(うた)が伝えられている。なお、茣蓙を利用してつくるものとしては着茣蓙、茣蓙帽子などがある。着茣蓙は1畳大の茣蓙を横に二つ折りにし、間に油紙を挟んだもので、田植や水田の除草時に着用した。茣蓙帽子は東北、北陸地方で子供が降雪時に頭にかぶったもの。
[小川直之]
イグサを編んだ敷物で薄畳の一種。古くは御座といい高貴な人の席に敷いた高麗縁の薄い畳を指したことが《枕草子》に見え,現在の薄縁(うすべり)に連なる。現代の茣蓙はイ(藺)を緯(よこ)にし,経(たて)に綿糸を用いて織られ,板の間や畳の上敷などに用いる。一般に無地のものが多いが,色模様をつけた花茣蓙もある。茣蓙の寸法は関西と関東で異なりそれぞれの畳の大きさを基準とする。茣蓙は寝具としても用いられる。一般農民は近世まで寝所にわらやもみがらを敷きつめ,その上に茣蓙や筵(むしろ)を敷いていた。また,暖地では寝茣蓙といい直接または布団の上に敷いて用いる。茣蓙の主産地は広島,岡山,熊本,福岡などである。
茣蓙を用いた民具に着(き)茣蓙という日よけの背蓑や,小児の雨具の茣蓙帽子がある。江戸初期まで船に用いた茣蓙帆は,筵製が多かった。また,老人の後添いを茣蓙敷(ござしき)または筵敷(むしろしき)というのは全国的で,これは寝起きの世話をする者の意とされる。
→筵
執筆者:大島 暁雄
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…すわる風習の場合には,すわりごこちを快適にするのが主目的であるが,椅子式の風習の場合には,室内を美化することと足ざわりを柔らかくするのが目的である。前者には,むしろ,ござ,畳,座布団などがあり,後者には,緞通(だんつう),絨毯(じゆうたん)(カーペット),ラッグやマットなどがある。カーペットは所定の場所に固定して敷きつめるもの,ラッグは暖炉の前などに飾りに敷いたりする小型で任意の場所に随時に用いられるもの,マットはだいたい粗末な材料で作ったもので,浴場の足ふき(バス・マット)や玄関の靴ふきなどに用いられる。…
※「茣蓙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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