労働者供給事業(読み)ロウドウシャキョウキュウジギョウ

デジタル大辞泉 「労働者供給事業」の意味・読み・例文・類語

ろうどうしゃきょうきゅう‐じぎょう〔ラウドウシヤキヨウキフジゲフ〕【労働者供給事業】

自己管理・統制する労働者を、他人指揮命令の下で就労させることを事業として行うこと。戦前の人貸し業がこれにあたり、中間搾取強制労働温床となった。就労環境が悪化し、雇用責任が不明確になることから、現在は、労働者派遣法に基づく派遣労働を除いて法律で禁止されている。

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改訂新版 世界大百科事典 「労働者供給事業」の意味・わかりやすい解説

労働者供給事業 (ろうどうしゃきょうきゅうじぎょう)

他人に使用させる目的で,供給契約に基づいて,労働者を提供することを労働者供給といい,これを業として営むのが労働者供給事業である。

 近代的な雇用関係においては,労働者と使用者の両当事者が自由な意思に基づいて直接,雇用契約を結ぶことを原則としているが,第2次大戦前の日本においては,職業紹介法(1938公布)がその8条で労務供給事業規則規定にのっとり,地方長官の許可を得て労務供給事業を行うことができるとしていたこともあり,土木・建設,運輸関係などの職種を中心として広範な労務供給が存在した。

 こうした戦前の労務供給は中間搾取や強制労働など非近代的な労働関係の温床となっていたため,戦後,1947年に制定された職業安定法においては次のような例外を除いて,職業紹介や労働者供給を民間で行うことを禁止した。(1)〈美術,音楽,演芸その他特別の技術を必要とする職業〉に関する有料職業紹介(32条)。(2)学校,労働組合,その他の機関が行う無料職業紹介(33条)。(3)労働組合の行う労働者供給事業(45条)。

 ところが近年,サービス経済化の進展,雇用形態の多様化,新規事業・職種の発生が進むなかで人材派遣業と呼ばれる労働者派遣を業として営む企業が増加してきており,現行法体系との乖離(かいり)が問題となってきた。行政管理庁は1978年に〈民営職業紹介事業等の指導・監督に関する行政監察結果報告〉を発表し,ビル管理をはじめ,情報処理,パーティ企画・接待および事務処理の4分野だけでも全国に4210ほどの人材派遣業者が存在し,90万人を上回る労働者が供給されているという実態を明らかにするとともに,〈労働者供給事業を規制している現行の職安法および規則の認定基準は,強制労働,中間搾取などの弊害を防止する観点から制定されたものであるが,その後,労働基準監督行政も整備され,また,産業構造,労働者の社会的地位などが大きく変化してきている現在において,業務処理請負事業所に対しこれを一律に適用した場合,かえって実際的でないことも懸念されるなど,適切に対応しがたい面が生じてきているものといえる〉と判断し,労働省に対し〈指導・規制のあり方について検討する必要がある〉とする勧告を行った。

 この問題の検討のため労働省が設置した〈労働力需給システム研究会〉は80年4月レポートをまとめ,労働力需給調節機能の有効な活用が果たせるよう労働者派遣事業を労働力需給システムの一つとして位置づけ,その一端を担わせるため,法を改め労働者派遣事業制度を創設すべきとの結論を得た。このため中央職業安定審議会では小委員会を設け法制化の検討に入り,84年10月〈労働者派遣事業の立法化の構想〉により,事務処理サービスなどにみられる,メンバーを登録し,必要に応じて派遣する型の業務については許可制,警備業などのように常用雇用型の場合には届出制として認めるとともに,定期的な報告を義務づけ,労働者保護に欠けるような場合,事業の改善命令や停止,許可の取消しができる,とする方向で法改正作業に入り,1986年7月1日,労働者派遣事業法が施行された。こうした新たな制度が日本の労働市場,労使関係にどのような影響を及ぼしていくか,今後注目されるところである。
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世界大百科事典(旧版)内の労働者供給事業の言及

【請負】より

…この場合には,炭鉱の所有者はトン当りいくらで石炭の採掘を請け負わせ,請負人は炭鉱所有者との契約価格と時間賃金で雇った労働者に支払う賃金額との差額を得ることになる。 請負は,仕事そのものの完成を引き受ける点において,労務の提供を目的とする雇傭契約と異なり,また職業安定法44条で禁止している労働者供給事業とも異なる。しかし,現実にはその境界はきわめて微妙であり,請負の形をとった労務供給による中間搾取が発生する危険がつねにある。…

【職業安定法】より

…また募集のしかたによっては中間搾取や強制労働が助長されるので,通勤圏内からの募集(39条),応募者からの報償受領の禁止(40条),募集従事者への財物供与の禁止(41条)等の原則が定められている。(4)労働者供給事業 中間搾取のおそれから,労働者供給事業は労働組合による場合を除き禁止されている(44条)。ところが,ビル管理や情報処理等多くの産業分野でこのような労働力供給形態がしだいに一般化し,それを業とする会社も続々設立されるようになった。…

※「労働者供給事業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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