改訂新版 世界大百科事典 「動産執行」の意味・わかりやすい解説
動産執行 (どうさんしっこう)
金銭債権の強制的実現のために,動産を対象として行われる強制執行手続(民事執行法122条以下)。動産執行は執行官が行い,直接かつ実力介入を伴う執行である。執行対象動産の範囲は,民法でいう動産の範囲(民法86条)と異なり,土地の定着物(例えば,庭石,鉄塔等),土地から分離する前の天然果実で1ヵ月以内に収穫が確実なものや,株券,手形,小切手,倉荷証券等の有価証券で,裏書の禁止されていないものも,動産執行の対象となる。このため,手形,小切手,貨物引換証などの証券も,直接差し押さえることができる。対象財産は,通例,零細な価値をもつものが少なくないため,換価が行われても,債権者の十分な満足に至らぬこともある。また,その執行方法も,執行官が債務者の住居等に立ち入って物の占有を現実に取得するという直接的方法をとるために,債務者に対する心理的強制手段としての側面も強い点で,動産執行は不動産執行とは異なる面をもっている。
動産執行の手順は,まず,執行官に対する申立てに始まり,この際,差押動産を特定する必要はないが,執行官は,債務者の占有する物については,債務者の利益を考慮し,差押禁止動産(債務者等の生活に欠くことができない衣服,寝具等。131条)を除いて,その裁量に基づいて,動産を占有する方法により差し押さえる。第三者の占有下にある動産の差押えは,(たとえそれが債務者の所有に属することがはっきりしていても)その第三者が,占有中の物の提出を拒んだ場合は,執行官は,その動産を差し押さえることができない。このときは,動産執行の方法で,強制執行を行えないことになるが,債務者がその第三者に対してもつ動産の返還請求権や引渡請求権を差し押さえて,債権執行の方法によって実現することができる。また,差押え後に,債務者の占有を離れた動産に対しては,執行官は,自力執行として直接に差し押さえた物の取戻しはできないが,執行裁判所が,差押債権者の申立てによって,占有者に対して差押物を執行官に引き渡すよう命令を発し,この命令によって,強制執行の方法で占有を回復する。差押えの効力は,債務者に対して,その動産の処分を禁止する効力を生ずるが,しかし,差押えは,差押債権および執行費用の額を超えてはならない。また,差押動産の売得金では手続費用を弁済して剰余を生ずる見込みのないときは差押えをしてはならない。
差し押さえられた動産については,金銭の場合を除き,これを現金化する換価が行われ,配当へと手続は進行する。配当の実施は,売得金で全額弁済可能なとき,あるいは,売得金に不足があっても配当にあずかる債権者間で協議がととのったときは,執行官は,全額を,また協議に従って配当を実施するが,他の事由によって裁判所に供託する場合もある。配当が終了したときは,債務者は執行官に対し,執行力のある債務名義の正本を交付するよう求めることができる。
→差押え
執筆者:清田 明夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報