化学反応に伴うルミネセンス(発光)のことで,化学発光ともいう。この現象は,化学反応の結果生成した振動的または電子的に励起したエネルギーに富む原子または分子(これらを以下励起分子と総称する)が,(1)それ自体で発光する場合,(2)他の原子・分子と衝突してこれを励起して発光させる場合,(3)別の励起分子と衝突して発光する場合,などに起こる。放射される光の波長によって,赤外化学ルミネセンス,可視・紫外化学ルミネセンス,真空紫外化学ルミネセンスなどに分類される。希薄な気相中における金属蒸気と塩素・酸素などの酸化性の強い分子との反応による可視・紫外化学ルミネセンスは多く発見されている。また,希薄な気相中における発熱的な化学反応(たとえば,フッ素原子と水素分子との反応F+H2─→HF+H)や多原子分子の光分解反応では,つねに赤外化学ルミネセンスが伴うと考えてよい。よく知られた例に,メタンガス等の燃焼炎からの発光などがある。化学レーザーは化学ルミネセンスによる発光現象を積極的に応用したものである。ホタルやウミボタル等の生物ルミネセンスは,ルシフェリンと総称される有機化合物が,酸化酵素の触媒作用により酸素分子と反応・分解する際に生ずる化学ルミネセンスであることはわかっているが,酵素が発光過程にどのように関与しているかはまだ解明されていない。
→生物発光
執筆者:正畠 宏祐
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
蛍光と同様に励起状態から基底状態への遷移による、一般には熱を伴わない発光である。化学発光ともいう。蛍光の場合は、励起状態への遷移が外部から入射する光によっておこるが、化学ルミネセンスでは、化学反応の結果であったり、励起された分子が他の分子と衝突してエネルギーを受けるためにおこる。歴史的には1670年にドイツの錬金術師であるブラントHennig Brandt(生没年不詳)が、黄リンが空気中の暗所でかすかに青緑色に発光するのをみつけている。これは、黄リンの空気による酸化反応により、励起状態に上り自発的に基底状態に戻るときの発光である。
塩化ナトリウムの水溶液に激しく塩化水素を通したり、気体アンモニアに塩化水素を反応させると化学発光する。有機化合物の例ではルミノール反応が有名である。ルミノールの強アルカリ性溶液をペルオキソ硫酸塩、赤血塩などで酸化すると、日中でも見えるほど青紫色に強く発光する。過酸化水素で酸化すると、発光は弱いが持続性がある。また、銅や鉄を含む錯化合物を加えると発色が著しく強められる。
[下沢 隆]
化学発光ともいう.ルミネセンスの一種で,化学反応に伴って起こる発光現象.黄リンの緩慢燃焼の発光などは古くから知られている.代表的な例はルミノール(5-アミノフタラジン)のアルカリ性溶液の酸化反応による発光である.励起機構についてはまだ究明されていないが,発光は紫外線励起の場合と同様,π電子系の励起状態からの遷移と理解される.ヘミン,フタロシアニンなどのCuやFeを含む錯化合物が触媒的に発光を強める.血痕検出に応用されるほか,生物発光や生体内の酸化還元との関連も興味深い.最近,化学ルミネセンスは,大気汚染物質としてのオゾンや窒素酸化物の自動分析に広く用いられるようになった.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…(2)熱ルミネセンス 蛍光体に刺激を与えて励起し,その刺激を断ってから温度をあげたときに生ずるルミネセンス。(3)化学ルミネセンス 化学反応に伴って生ずるルミネセンスで,ルミノール液の酸化の際の発光はこの代表的なものとして知られている。ホタルなど生物の発光も化学ルミネセンスの一種とされている。…
※「化学ルミネセンス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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