能の曲目。三番目物。五流現行曲。作者は内藤藤左衛門(とうざえもん)。「はじとみ」ともいう。『源氏物語』の「夕顔」の巻による。世阿弥(ぜあみ)の作品に『夕顔』があり、物の怪(け)に命をとられる暗い主題であるのに対し、『半蔀』は、つかのまではあるが光源氏との恋を得た喜びをあの世からいとおしみ続ける女性像を描く。小品の能だが叙情的な佳作。京都紫野(むらさきの)、雲林院(うんりんいん)の僧(ワキ)が夏の修行の間に仏に供えた花の供養をしていると、1人の女性(前シテ)が白い夕顔の花を捧(ささ)げ、「五条わたり」の者と告げて消える。五条あたりを訪ねた僧が、『源氏物語』の昔をしのんでいると、夕顔の絡まる半蔀戸を押し上げて女(後シテ)が現れ、夕闇(ゆうやみ)に白く浮かぶ花が縁で光源氏と結ばれたことを語り、美しく慕情を舞うが、明け方とともにその姿は消え、僧の夢は覚める。花の精と夕顔の女の二重映しの効果もみごとである。半蔀屋の作り物も印象的で、前段に実際の立花(りっか)を出す特別な演出もある。
[増田正造]
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…たとえば平安末期の平清盛の六波羅泉殿寝殿では南面を格子とし,北面には蔀を使用していた。柱間全部を1枚の蔀とする場合もあるが,重すぎて開閉が困難なので,上下2枚に分けて〈半蔀(はじとみ)〉とするのが普通だった。これは上半分(上蔀)を長押から釣り下げ,あける時ははねあげて先端を垂木から下げられた金具にかけ,下半分(下蔀)は柱に打ちつけられた寄(よせ)に掛金でとめておき,あるいは取りはずして柱間全部をあけはなつこともできた。…
※「半蔀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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