翻訳|phone
音声学的にみて言語音声を構成する最小の単位。[kami]〈紙〉は[k][a][m][i]という四つの単音に分解でき,それぞれが固有の調音的特徴をもつ。[k]では後舌が軟口蓋に接し,[a]では舌面が低く下がる。[m]では両唇が接合して軟口蓋が下がり空気は鼻へ抜ける。[i]では前舌の部分が硬口蓋へ向かって上がる。だが[katʃi]〈価値〉の[tʃ]であるが,舌端が歯茎後部に接し[t]の閉鎖を作り,これをゆるやかに開放すると硬口蓋歯茎摩擦音[ʃ]が生じる。この[tʃ]は閉鎖音[t]と摩擦音[ʃ]が接合したものととらえれば二つの単位に分解できるが,閉鎖と開放を一つの調音活動と見なせば,閉鎖音[t]が[ʃ]の音として開放されることになり単一の単位[č]と考えられる。このように単音の区分は必ずしも明確でない。生成音韻論では言語音声の流れの中でこれを構成する主要部分を分節音segmentと呼び,発話の音の流れを分節音に分けることを分節segmentationと称している。閉鎖音は,上顎に付着する上位器官と下顎に付着する下位器官が接触する〈閉鎖〉の段階と,この閉鎖がある時間続いて肺から出てくる空気をせき止める〈持続〉の段階,それに接触した上下の器官を引き離して破裂音を発する〈開放〉の段階から成る。開放をゆるやかに行って摩擦音を立てれば先の[tʃ]のような破擦音になる。また開放の際に後続母音の調音において声帯振動をおくらせると,声帯が振動しない部分で気音が生じる。英語のcat[k'æt]〈ネコ〉の[k’]音は気音[’]を伴い有気音(帯気音)と呼ばれる。この場合にも[k’]を変形された閉鎖音と見れば一つの単音と考えられる。また[kanjː]〈加入〉の[nj]であるが,歯茎鼻音[n]の後ろに硬口蓋半母音[j]が続くとすれば二つの単音に分析できる。しかしこれを硬口蓋鼻音[ɲ]と受け取れば一つの単位と見なされる。英語の二重母音に関して,eight[et]〈8〉では舌が前舌中母音[e]の位置から出発してわずかに低め高の[]に向かって移っていく。これも一つの舌面の上昇運動と考えれば二つの単音に分割しにくい。以上の現象を音響面で調べれば,[tʃ]ではスペクトログラム(ソナグラフ)に閉鎖の空白に続いて摩擦のかすれが現れる。有気[k']音では閉鎖の空白の後にわずかに気音の乱れが見られる。二重母音[e]では第1と第2フォルマントの開きが少しせばまっていく。日本人は[tʃi]の[tʃ]を一つの子音音素と感じている。一般に言語音声を構成する単音の数と音素の数は必ずしも一致しない。
→音素
執筆者:小泉 保
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