古活字版(読み)こかつじばん

精選版 日本国語大辞典 「古活字版」の意味・読み・例文・類語

こ‐かつじばん ‥クヮツジバン【古活字版】

〘名〙 文祿年間(一五九二‐九六)から寛永年間(一六二四‐四四)頃にかけて、木活字または銅活字を使って印刷、刊行された書物。古活字本
[補注]この活字は李朝活字書風の影響を受けたものが多い。一三三四年頃、高麗王朝の許で鋳造され始め、李朝へ引き継がれた活字の技術は、銅製のものが多いが、なかには鉄・錫・木などもあったといわれる。はじめは、単体楷書であったが、キリシタン版のあるものは、見事な和様の連綿活字を用いており、いわゆる嵯峨本も同様で、豪華な装丁が施された。しかし、商業出版としては引き合わず、近世においては整版が主流となった。

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デジタル大辞泉 「古活字版」の意味・読み・例文・類語

こ‐かつじばん〔‐クワツジバン〕【古活字版】

安土桃山時代文禄年間から江戸時代初期の慶安年間ごろにかけて、木活字または銅活字で印刷・刊行された書物の総称。古活字本。→木活字版

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改訂新版 世界大百科事典 「古活字版」の意味・わかりやすい解説

古活字版 (こかつじばん)

文禄・慶長(1592-1615)から寛永(1624-44)にかけてのおよそ50年間に開版された木活字による印刷本をいう。文禄・慶長の役により日本に将来された朝鮮の銅活字と銅活字本は,それまで整版(木版)印刷一本だった日本の開版界に,銅活字の新鋳を促し,新たに木活字を生んで,これが少部数の印刷に便利であったため95%までがこの新様式を採用するという大きな変貌をもたらし,古活字版時代を生んだ。各種の勅版をはじめとして,角倉(すみのくら)素庵(光昌),本阿弥(ほんあみ)光悦らによって一連の美術的な国書である嵯峨本などの開版を生む。古活字版の特徴は,(1)印刷物としては古い時代のものであり,(2)日本の最初の〈活字文化〉で,(3)日本古典文学が印刷本となった最初であり,(4)学問的にも古いテキストと位置づけられること,(5)書物としての形態美,などが挙げられる。また現在では稀覯(きこう)本であり,学者,愛書家の間で珍重されている。古活字版が本の世界に新生面を開いた結果中世の久しい文化的停滞が破られ,学問,文学や技術の急速な普及発展を促し,日本の文芸復興原動力となり,やがて書肆(書店)の発生を見るようになる。しかし,そのために爆発的に増えた需要に対応するため,寛永以後は再び製版印刷の方式が大半を占めるようになる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「古活字版」の意味・わかりやすい解説

古活字版
こかつじばん

桃山時代の文禄(ぶんろく)年間(1592~96)から江戸時代初期の慶安(けいあん)年間(1648~52)に至る60年間に出版された活字印本。わが国における書物の印刷は、16世紀末まではすべて版木による整版印刷であった。活字による印刷が行われるようになったのは、16世紀末、ヨーロッパと朝鮮から前後して活字印刷技術が伝えられてからであるが、ことに文禄の役を契機に朝鮮より伝来した印刷方式は、わが国の出版事業に一大飛躍を促した。まず1593年(文禄2)に後陽成(ごようぜい)天皇勅版『古文孝経(こぶんこうきょう)』が出版され、以降活字による印刷は同天皇による慶長(けいちょう)勅版、徳川家康の伏見(ふしみ)版・駿河(するが)版、京洛(けいらく)の各寺院、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)らの嵯峨(さが)本へと広がり、一時は整版印刷を圧倒して古活字版時代を形成したのである。特筆すべきは、これまで写本の形で伝えられた日本の古典をはじめ、当時の新著、創作までも続々と活字印刷化されるようになったことである。

[金子和正]


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百科事典マイペディア 「古活字版」の意味・わかりやすい解説

古活字版【こかつじばん】

1592年,文禄の役(文禄・慶長の役)の時,朝鮮から日本に初めて銅活字が渡来,その影響で木版印刷に代わって銅活字,木活字による印刷が盛んとなり,角倉素庵,本阿弥光悦らの嵯峨本などを生みつつ,寛永年間以後,再び木版印刷が盛んになるまでおよそ50年間続いた。その間,すなわち朝鮮活字渡来以後,慶長・元和年間に及ぶ活字印刷本を古活字版と呼ぶ。
→関連項目駿河版伏見版

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「古活字版」の意味・わかりやすい解説

古活字版
こかつじばん

近世に入ってから行われた活字版をいう。代表的な活字版には2種あり,朝鮮から入ってきたものと,イエズス会の宣教師がもたらしたものとである。文禄1 (1592) 年の文禄の役に際して,遠征した日本軍が朝鮮から活字による印刷術を伝えた。それによって,後陽成天皇が同2年に勅版「古文孝経」を印刷した。一方,イエズス会の宣教師は,天正 18 (90) 年活字印刷技術を伝え,教義書の翻訳や日本の古典の印刷に使用された (→キリシタン版 ) 。古活字版は,江戸時代前期の慶長~慶安 (1596~1652) の頃まで印刷の主流であり,主として木活字が使われた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「古活字版」の解説

古活字版
こかつじばん

近世初頭に盛行した活字印刷による出版物。安土桃山時代末に渡来した活字印刷術が新奇を好む時潮に合い,天皇や武将・寺院・富豪らの慈善による出版に始まり,急速に世間に普及した。これは,金属活字に代えて扱いの便利な木製活字を利用したことが一因と思われる。その結果,歴史上に例をみない量の書物が出回り,読者人口が増大し,企業としての出版が成立する環境を整えた。しかし出版業が営利に有効な版木による印刷法を選択したため,1650年代には文禄年間以降半世紀にわたる歴史に幕をおろした。その後私家版として明治期まで続いた小規模の活字出版を,木活字版(もっかつじばん)とよんで区別する。

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世界大百科事典(旧版)内の古活字版の言及

【本】より

…08年には本阿弥光悦の考案で《伊勢物語》,続いて《観世流謡曲百番》が印刷され,光悦版下とみられるものは31種に及び美術史上も注目されるが,その他《源氏物語》など角倉素庵本とみられるものもある(嵯峨本)。このように古活字版は慶長から寛永(1624‐44)前半までの35年間に300点以上も出版されたといわれるが,その背景には戦国争乱を経て勃然としてわき起こった書籍の需要があった。
[書店出版の時代]
 活字版は一版ごとに組み直し,校正の労がはなはだしいので,増大する需要のもとでしだいに旧の整板(一枚彫)になっていった。…

※「古活字版」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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