小説家。東京に生まれる。学習院大学国文科中退。10代の若年で肉親の死と次々にあい、自身も肺疾患の手術とその闘病生活によって文学観に多大の影響を受けた。たとえば『鉄橋』(1956)や『少女架刑』(1960)などの初期作品、のちの『海も暮れる』(1980)や毎日芸術賞を受賞した『冷い夏、熱い夏』(1984)などの作品は、いずれも死を主調音にしている。1966年(昭和41)、『星への旅』で太宰治(だざいおさむ)賞を受賞したが、これも少年少女の集団自殺を描いたもの。一方、この年発表した長編『戦艦武蔵(むさし)』は、武蔵の誕生から終焉(しゅうえん)までを叙し、人間の所業のむなしさを描いて、記録文学に一境地を開拓する。この歴史を叙して日本の伝統につながることと、「私」像において「詩的残酷美」を極めることとの総合により、人間世界に対する優しさの視点を完成した。『高熱隧道(ずいどう)』(1967)、『零式戦闘機』(1968)、『海の史劇』『関東大震災』(ともに1972)、『北天の星』(1975)、『ふぉん・しいほるとの娘』(1975~1977)、『虹の翼』(1980)などを刊行、1983年、『破獄』で芸術選奨、読売文学賞を受賞した。以後、『桜田門外の変』(1990)、『彦九郎山河』(1995)、『生麦(なまむぎ)事件』(1998)、『夜明けの雷鳴』(2000)、短編集『法師蝉(ほうしぜみ)』(1993)、『再婚』(1995)、回想記『東京の戦争』(2001)、風物誌『東京の下町』(1985)などを刊行した。夫人は作家の津村節子。2017年(平成29)、東京都荒川区の複合施設「ゆいの森あらかわ」内に「吉村昭記念文学館」が開設された。
[古木春哉]
『吉村昭著『少女架刑』(1971・三笠書房/中公文庫)』▽『吉村昭著『破獄』(1983・岩波書店/新潮文庫)』▽『吉村昭著『冷い夏、熱い夏』(1984・新潮社/新潮文庫)』▽『吉村昭著『東京の下町』(1985・文芸春秋/文春文庫)』▽『『吉村昭自選作品集』全15巻・別巻(1990~1992・新潮社)』▽『吉村昭著『法師蝉』(1993・新潮社/新潮文庫)』▽『吉村昭著『再婚』(1995・角川書店/角川文庫)』▽『吉村昭著『彦九郎山河』(1995・文芸春秋/文春文庫)』▽『吉村昭著『長英逃亡』(1997・毎日新聞社/新潮文庫)』▽『吉村昭著『生麦事件』(1998・新潮社/上下・新潮文庫)』▽『吉村昭著『東京の戦争』(2001・筑摩書房/ちくま文庫)』▽『吉村昭著『北天の星』(上下・講談社文庫)』▽『吉村昭著『ふぉん・しいほるとの娘』(上中下/講談社文庫/上下・新潮文庫)』▽『吉村昭著『星への旅』『戦艦武蔵』『水の葬列』『高熱隧道』(新潮文庫)』
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