名取川(読み)ナトリガワ

デジタル大辞泉 「名取川」の意味・読み・例文・類語

なとり‐がわ〔‐がは〕【名取川】

宮城県中南部を東流する川。奥羽山脈二口峠付近に源を発し、仙台市と名取市の境で仙台湾に注ぐ。流域秋保あきう温泉がある。[歌枕]
陸奥みちのくにありといふなる―なき名とりては苦しかりけり」〈古今・恋三〉
狂言。新米の僧が法衣に書いた法名を誤って名取川の水で消してしまうが、土地の者とのやりとりでその法名を思い出す。

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精選版 日本国語大辞典 「名取川」の意味・読み・例文・類語

なとり‐がわ‥がは【名取川】

  1. [ 一 ] 宮城県中部を東流する川。奥羽山脈の二口(ふたくち)峠付近に発し、名取市閖上(ゆりあげ)太平洋に注ぐ。全長五五キロメートル。
    1. [初出の実例]「みちのくにありといふなるなとり川なき名とりては苦しかりけり〈壬生忠岑〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋三・六二八)
  2. [ 二 ] 狂言。各流。上方のある寺の稚児から希代(きたい)坊・不祥(肖)坊という二つの名前をつけてもらった遠国の僧が喜んで郷里にもどって行く。僧が東国の名取川を渡る途中ころんでその名前を忘れてしまい、名前が流れたと笠で水をすくっていると、土地の者が現われ、その男の話から希代坊・不祥(肖)坊の名前を思い出す。

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日本歴史地名大系 「名取川」の解説

名取川
なとりがわ

山形県境近くの大東おおあずま(一三六五・八メートル)二口ふたくち(九三四メートル)などを水源とする一級河川。名取郡秋保あきう町をほぼ東流し、仙台市西端の赤石あかいし碁石ごいし川を合せ、郡山こおりやまの東で南東流してきた広瀬川と合流し、名取市閖上ゆりあげ漁港で太平洋に注ぐ。幹川流路延長五五キロ、流域面積九三九平方キロ。古くから名のみえる川で、みちのくを代表する佳景として歌に詠まれる。

<資料は省略されています>

また「枕草子」にも「名取川、いかなる名を取りたるならんと聞かまほし」とある。文治五年(一一八九)の奥州合戦では、源頼朝軍を迎える平泉藤原氏が広瀬・名取両川に大縄を引いて柵としたといい、合戦の場となった(「吾妻鏡」同年八月七日条)。下って観応年間(一三五〇―五二)当地を訪れた宗久の紀行には「名取川のわたりを過るとては、行水のかへらぬことをあはれむ」とあり(都のつと)、文明一九年(一四八七)の「廻国雑記」には「人しれぬ埋れ木ならば名とり川ながれての世になど聞ゆらん」など二首が詠まれている。

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改訂新版 世界大百科事典 「名取川」の意味・わかりやすい解説

名取川 (なとりがわ)

狂言の曲名。出家狂言。大蔵,和泉両派にある。比叡山に上り受戒した僧が,もの覚えが悪いので希代坊(きたいぼう),不肖坊(ふしようぼう)と二つまで名をつけてもらい,これを両袖に墨で書きつけて,忘れないようにと,平家節,謡(うたい)節などさまざまの歌い物に名を織りこんで口ずさみながら行く。やがて大河に出会い,川を渡る途中で深みに落ち,ぬれねずみになってはい上がると,袖に書きとめておいた名前が消え失せている。僧はあわてて,川に流したのであろうと,川尽しの謡を謡いながら笠で川の水をすくいまわる。そこへ土地の男が現れ,ここは殺生禁断の所だと僧をとがめる。僧は事情を話し,川の名を尋ねると名取川,土地の名は名取の在所,男の名を問うと名取の某(なにがし)と答える。さてはこの男が名を取ったのであろうと怒り,名を返せと迫る。男が当惑して〈“きたい”なことを言う人じゃ〉〈“ふしょう”な所へ来かかった〉とつぶやいたことから,名を思い出し,喜んで本国さして帰って行く。登場は僧,名取の某で,僧がシテ。和泉流のみ地謡(じうたい)が入る。

 奇抜で不合理な筋立てだが,ナンセンスでとぼけたおかしみがある。名を詠みこむ歌い物は,大蔵流では看経節(かんきんぶし),平家節,踊り節,和泉流では謡節,舞節,踊り節,勤行節などである。
執筆者:


名取川 (なとりがわ)

宮城県中部を東流する川。幹川流路延長55km,全流域面積939km2。奥羽山脈の二口峠(934m)付近に発し,上・中流部では第三紀の凝灰岩を切って二口峡谷や磊々(らいらい)峡の奇勝をつくり,中・下流部で碁石川広瀬川などを合わせて仙台湾に注ぐ。上流に二口温泉(セッコウ泉,23~32℃),秋保(あきう)温泉(食塩泉,24~60℃)があり,碁石川には釜房ダムがある。仙台から名取川,碁石川に沿って笹谷街道(国道286号線)が山形へ通じ,近世には重要な物資輸送路であった。陸奥(みちのく)の歌枕としても著名。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「名取川」の意味・わかりやすい解説

名取川(宮城県)
なとりがわ

宮城県中部を東流する川。一級河川。延長約55キロメートル、流域面積939平方キロメートル。山形県境の奥羽山脈二口峠(ふたくちとうげ)付近に発し、碁石(ごいし)川、広瀬川などを合して仙台市と名取市の境界で仙台湾に注ぐ。上・中流部で第三紀の凝灰岩を切って二口峡谷や磊々峡(らいらいきょう)の奇勝をつくり、高館(たかだて)丘陵東縁を横断して仙台平野に出る。本・支流には愛子(あやし)、川崎など小盆地があり、数段の段丘が発達して、下流の仙台平野とともに水田が開ける。仙台藩時代には仙台から名取川、碁石川に沿って笹谷(ささや)街道が通じ、山形への重要な物資輸送路であった。本・支流沿いに二口、秋保(あきう)、作並(さくなみ)、定義(じょうげ)の各温泉があり、釜房(かまふさ)、大倉のダムは仙塩(せんえん)地区の用水源となっている。

 かつては上流で埋れ木を産した。「名取川瀬々の埋木あらはればいかにせむとか逢(あ)ひみそめけむ」(『古今集』)など古歌に多く詠まれ、歌枕(うたまくら)として名高い。

長谷川典夫]



名取川(狂言)
なとりがわ

狂言の曲名。出家狂言。比叡山(ひえいざん)で受戒をした遠国の僧は、きたい坊とふしょう坊という二つの名をつけてもらうが、物覚えが悪いのでそれぞれ両袖(そで)に書き付けて帰途につく。道中、この名を平家節や踊り節などの節にのせて口ずさみながら行くうち、大河に行き当たる。歩いて渡ろうとするが、深みにはまってずぶぬれになり、袖に書いた名前が消えてしまう。流れたわが名をすくおうと謡いながら笠(かさ)ですくっているところへ、在所の者が通りかかる。川の名は名取川、男の名は名取の何某(なにがし)と聞き、名前をとられたと思った僧は、名を返せと詰め寄る。困惑した男が希代(不思議)なことをいう人じゃというのできたい坊を、不祥(不運)な所へきかかったというのでふしょう坊を思い出し、喜んで謡って終わる。川尽くしの小舞謡をはじめ歌舞の要素を豊富に盛り込んだ楽しい曲。仙台の南を流れる名取川は、古来歌枕(うたまくら)としてよく知られていた。

[林 和利]

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百科事典マイペディア 「名取川」の意味・わかりやすい解説

名取川【なとりがわ】

宮城県中部の川。長さ55km。奥羽山脈の二口峠に発して東流し,仙台平野南部(仙南平野)を形成,広瀬川を合わせて仙台湾に注ぐ。《枕草子》にみえ,古くから歌に詠まれる。上流に二口渓谷,中流に秋保(あきう)温泉がある。
→関連項目宮城[県]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「名取川」の意味・わかりやすい解説

名取川
なとりがわ

宮城県中部,奥羽山脈の二口峠付近に源を発し,東流して仙台湾に注ぐ川。全長 55km。碁石川,広瀬川の支流をもつ。両支流に釜房ダム,大倉ダムがあり,仙台,塩竈,名取3市の上水および工業用水の水源となっている。流域には秋保,川崎,愛子 (あやし) の小さな盆地があり,河岸段丘が発達。本流には二口峡谷,秋保大滝磊々峡 (らいらいきょう) があり,また二口温泉,秋保温泉のほか広瀬川上流の作並温泉も含め,仙台市民のレクリエーション地帯である。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「名取川」の解説

名取川
(通称)
なとりがわ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
けいせい名取川
初演
元禄9.11(江戸・市村座)

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事典・日本の観光資源 「名取川」の解説

名取川(秋保町長袋・館下橋付近)

(宮城県仙台市太白区)
杜の都 わがまち緑の名所100選」指定の観光名所。

名取川(太白大橋付近)

(宮城県仙台市太白区)
杜の都 わがまち緑の名所100選」指定の観光名所。

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