中国では三皇,五穀,九族などと,事物に特定の数を添えて称える慣習があり,これを名数と称した。古くは事数ともいった。これら名数は時代や地域によって数え方が異なるので,初学者の遺忘に備え,読書の理解を助けるために編纂されたのが,宋の王応麟の《小学紺珠》10巻で,名数を天道,律歴,地理,人倫,性理,人事,芸文,歴代,聖賢,名臣,氏族,職官,制度,器用,儆戒,動植の16類に分類配列し,典故をあげて諸説を列挙した。たとえば,三皇には,(1)太昊伏羲氏・炎帝神農氏・黄帝有熊氏(《尚書》孔安国序,皇甫謐《帝王世紀》),(2)伏犠・女媧・神農(鄭康成),(3)伏羲・神農・祝融(《白虎通》),(4)燧人・伏羲・神農(宋均,譙周),(5)天皇・地皇・人皇(《皇王大紀》),(6)天皇・地皇・泰皇(《史記》),五穀には,(1)麻・黍・稷・麦・豆(《周礼(しゆらい)》疾医),(2)春麦・夏菽・季夏稷・秋麻・冬黍(《月令》),(3)稲・稷・麦・豆・麻(《楚辞》),(4)黍・稷・菽・麦・稲(《周礼》夏官)等の諸説があげられている。王応麟以降,名数の学はさかんになった。明の張九韶の《羣書拾唾》,清の宮夢任の《読書紀数略》がその代表的な著作であり,日本では上田元周の《和漢名数大全》,貝原益軒とその弟子たちの手になる《和漢名数続編》《和漢名数三編》などがある。
《水滸伝》が36人の首領を中心に,72人を増して108人の英雄譚としてつづられているのも,三十六天罡星(てんこうせい),七十二地煞星(ちさつせい)という名数の観念に基づいている。この36と72を合した108なる数は,また十二月,二十四節気,七十二候の,《雲笈七籤》にいう陰気が相従い自然に結びついて作りだす極数,仏家のいう百八煩悩を意識させるのであって,英雄の数を108にとどめたということは,そこに何らかの名数観念が働いていることは否めない。
百八煩悩のような仏法上の名数は,とくに法数(ほつすう)と呼ばれる。その数はきわめて多く,またその内容も学派や宗派によって異なっている。仏教が中国に伝来して以来,法数の理解は混乱をきわめた。たとえば,《世説新語》の文学篇に,三乗と問題が難解であるとか,六通(六神通つまり天眼通・天耳通・神足通・他心通・宿命通・漏尽通)と三明(さんみよう)とは同じものだとか,法数が出てくるととたんにわからなくなるとかの議論があることによっても,それをうかがうことができよう。そのため法数に系統的な整理を与えようとする努力が試みられ,中国撰述の大蔵経の中に収められている《大乗法数》や《諸乗法数》が著された。
執筆者:勝村 哲也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
普通「3メートル」「500円」「700人」「9本」「1000羽」などのように、ある数に単位の名称や、ものの数え方を表す接尾辞(助数詞)をつけた語をさしていう。とくに、細長いものを数えるときに用いる「本」、鳥などを数えるときに用いる「羽」など、社会的習慣として用いられるものを名数として整理・登録することがあり、この場合は「ものの数え方」と同義に用いられる。ただし、いわゆる度量衡、貨幣の単位などは「ものの数え方」とは区別される。生物、物質の特徴によって数値の下に添える「ものの数え方」は、中国語の影響を受けて発達したもので、日本語の特徴の一つとなり、社会常識の一つとして伝承された。
また「三羽烏(がらす)」「四天王」「七福神」「十干(じっかん)十二支」などのように、いつもある数をつけていう特定の内容をもった語を名数ということがある。古く漢籍では「戸籍」「人別帳」の意味にも用いられた。
[林 巨樹]
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