改訂新版 世界大百科事典 「地震災害」の意味・わかりやすい解説
地震災害 (じしんさいがい)
地震の発生によってひき起こされる災害。震害ともいう。大きな地震が必ずしも災害を伴うものではなく,地震災害は地震と人間活動との関係において生じる。例えば,人間生活とまったく関係のない僻地における大地震は災害をひき起こさない。したがって,震害は地震の発生する位置のみでなく,人間生活の変化に応じて,すなわち時代によっても変わっていく。また,災害が災害を呼んで,連鎖的に種々の形態の災害が生じるのも特徴である。これらを,一次災害,二次災害(副次的災害)などと呼んで区別するが,明確に区別できないものもある。
地震そのものが地球表面の振動を伴う現象であるから,それに関連する次のような被害が一次的に発生する(ただし,上記の理由で,必ずしも災害であるとは限らない)。(1)断層 地震の原因であるとも考えられている。日本の例では,濃尾地震(1891)における根尾谷断層が特に有名で,垂直方向のずれは6mにも達した。(2)隆起・沈降 上下方向に生じる地盤の変位である。(3)地すべり,山崩れ,崖崩れ,山津波 地盤が徐々に崩れる現象が地すべりである。それが,傾斜地などで突然的に生じれば山崩れあるいは崖崩れとなり,さらに,谷間などでそれらが大規模に発生すれば山津波となる。(4)地割れ 地盤の水平移動が不連続的に分布したものである。(5)地盤の液状化 水分を含んだ細かい砂は揺られると流動性が増し,液状化することがある。地震の振動によって表層の飽和砂質土が地上に噴出して,噴砂あるいは噴泥の現象を呈することもある。河成の軟弱な砂地盤が液状化して,構造物その他に大きな被害を及ぼした新潟地震(1964)やアラスカ地震(1964)での液状化現象はその典型例である。(6)構造物の被害 上に述べた地盤の変動や破壊は,当然地盤上に建設された構造物の基礎を破壊し,不同沈下を生ぜしめ,あるいは落下する岩石や土砂が構造物を圧潰するなどの被害を及ぼすことがある。構造物はまた,地盤とともに振動し揺れ動いて変形し,全体が倒壊する場合やその一部が破損するなど種々の損害を被ることがある。建物のガラスが割れたり,屋根瓦がずれ落ちたり,ブロック塀が倒れたりするのは振動に起因することが多い。橋梁や港湾施設の被害は,しばしば地盤の破壊と振動の両作用によって生じる。また,地盤の変動が構造物を強制的に変形せしめるだけでなく,構造物の振動がその基礎を通して地盤の振動状態に影響を及ぼす,構造物と地盤の相互作用効果も見逃せない。(7)ライフ・ラインの被害 電気やガスなどのエネルギー供給源や上下水道,さらには交通や通信,救急防災活動機能など人間活動の根幹となるシステムの被害で,サン・フェルナンド地震(1971)以来着目されている都市型の震害である。
一次災害に付随して発生する地震災害の典型に火災と水害があげられる。(8)地震火災 関東大震災(1923)およびサンフランシスコ地震(1906)の直後に発生した火災は特に有名で,前者では焼死者が5万人をこえた。(9)津波 海底地震などによって発生した波が海岸に打ち寄せられると波高が増し,日本でも三陸沖では高さ20~30mの津波を経験している(1896,1933)。沿岸で発生した沈下は浸水の原因になる可能性があるほか,堤防が決壊したり,山津波による土砂が川の流れを妨げて水害をひき起こすこともある。危険物施設が爆発したり,有毒物質が漏れるのも副次的な災害で,パニックなど災害心理学的な被害も高次の地震災害といえよう。
以上のような地震災害は,おおまかにいって,震度階VあるいはVI以上のときに発生する。震源の深さがおよそ70kmより浅い所,地震の規模ではM6以上程度で発生するものと考えても大きな間違いはない。
→地震
執筆者:野中 泰二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報