墨壺(読み)すつぼ

精選版 日本国語大辞典 「墨壺」の意味・読み・例文・類語

す‐つぼ【墨壺】

〘名〙 =すみつぼ(墨壺)
※鵤荘引付‐応永一七年(1410)「当住具足、合、すつほ二、大小、阿彌陀院寄進」

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デジタル大辞泉 「墨壺」の意味・読み・例文・類語

すみ‐つぼ【墨×壺】

直線を引くのに用いる大工道具糸車に巻いた墨糸を、墨を含ませた綿の中を通して引き出し、墨糸の端の仮子かりこ(小さなきり)を刺してまっすぐに張り、糸を指ではじいて墨線を引く。
墨汁ぼくじゅうを入れる壺。墨入れ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「墨壺」の意味・わかりやすい解説

墨壺
すみつぼ

長い直線を正確かつ簡単に描くことができる道具。糸を墨汁を蓄えた池に通し、壺車で巻き取るつくりとなっている。糸を引っ張りながら真上に持ち上げ、パンとはじくと、多少の凸凹にかかわらず、表面にまっすぐな墨線が残る。墨付け仕事に欠かせない便利な道具である。

 墨壺は中国から渡来したと考えられており、日本に現存する最古のものは正倉院宝物の2点である。古代・中世には、壺車を保持する部分が二またに分かれた尻割れ型であったが、近世になると尻部を閉じ、波・雲・植物・獅子(しし)や鶴・亀など縁起物彫刻を施した装飾的なものが増えた。

 墨壺は、墨汁を浸した真綿の入った壺(墨池)、壺糸(墨糸、墨縄ともいう)、壺車、糸を固定する軽子(かるこ)、壺から糸が出る部分の壺口などで構成されている。材料はクワがもっともよいといわれているが、今日ではケヤキが一般的である。大きさは大・中・小があり、大型は長さ約1尺(30センチメートル)で社寺専用の大工用。中型は長さ約8寸(24センチメートル)、小型は長さ約6寸(18センチメートル)で、ともに造作(ぞうさく)仕事用である。

 墨壺はおもに源氏型と一文字型に分けられる。源氏型は、現在一般的に使われている墨壺の型で、壺車が源氏車の形をしていることから名がついた。一文字型は、中央がやや上に反った細長い箱型で、墨池が源氏型に比べて小さい。

 墨壺のほかに朱壺がある。墨壺は、墨汁に膠(にかわ)を入れて、雨にぬれても消えないようになっている。朱壺は墨のかわりに水洗いで消えるベンガラを使用したもので、おもに木肌を削らない、数寄屋(すきや)・茶室や、建物内部の造作材や建具の仕事に使われるので、墨壺に比べて小ぶりになっている。

 墨付けのときには、竹を割って平らにし、一方の先端を斜めにそいで細かい割れ目を入れた墨さし(墨指・墨差し)と併用する。墨さしは、先端に墨壺の墨汁を含ませ線を引き、他端、頭のほうは丸く削ってたたきつぶし、木材符号や印などを書く筆の役目をさせるものである。

[赤尾建蔵 2021年7月16日]


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改訂新版 世界大百科事典 「墨壺」の意味・わかりやすい解説

墨壺 (すみつぼ)

大工や石工が材に直線を罫示するのに用いる道具。一方に濃墨汁をしませた真綿を入れた壺を,他方に糸(墨糸)を巻いた車を備え,糸を墨池(壺)の中をくぐらせて引き出し,糸の先につけた仮子(かりこ)(猿子,軽子)という小錐で刺し止め,糸を張って指ではじいて直線を印する。竹棒の両端を蓖(へら)および筆状にしたものを墨指(すみさし)(墨芯)といい,墨壺と一対として用いられる。墨糸で直線を引くことを墨掛(すみかけ),墨指で線引きしたり文字書きをすることを墨付(すみつけ)という。大工が工匠の魂として,指金とともに重要視する工具である。《日本書紀》雄略天皇紀に〈新しき猪名部(いなべ)の匠のかけし墨縄……〉の句があってその起源の古さを物語り,現存最古のものに正倉院蔵〈紫檀銀絵小墨斗〉(斗は壺のこと)がある。墨壺は多くは工人の自製で,材は桑,ケヤキを主とし,造形に粋を凝らすことが多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「墨壺」の意味・わかりやすい解説

墨壺
すみつぼ

大工,石工が直線を引くのに用いる道具の一つ。クワやケヤキ材でつくられる。一方を壺状にくりぬいて墨肉を入れ,他方に墨糸を巻いた車を備える。墨糸は墨肉をくぐらせて引出すようになっており,先端につけた仮子 (かりこ。かることもいう) で固定し,墨糸をはじいて直線の墨付けをする。黒墨の代りに朱墨を入れる場合は朱壺といわれ,ほかに青,黄,緑などの色墨を使うこともある。

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