外国法に基づいて設立された法人。日本法人のなかで、外国人や外国法人の所有する株式の比率が高いために一般に「外資系企業」とよばれているものは、その設立準拠法が日本法である限り、ここでいう外国法人ではない。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本の法制度上は法人の設立準拠法を基準とし、日本法に基づいて設立された法人を日本法人、外国法に基づいて設立された法人を外国法人として扱っている。外国法人には、外国の会社、公益法人、宗教法人などの社団・財団のほか、外国や外国の行政区画(州など)も含まれる。民法第35条1項は、法律または条約により特別に認許されるものを除き、外国、外国の行政区画および外国会社だけを認許するとしている。この認許とは、その法人格を日本で承認することであり、これらのものは何らの手続も経ることなく日本でその存在が認められ、権利義務の主体となることができる。これに対して、外国の公益法人や宗教法人などは、それを認許することが日本の公益に反するおそれがあるという理由から認許されない。しかし、立法論としては、少なくとも学術、スポーツ振興などを目的とする公益法人は認許すべきであるとの見解が有力である。認許された外国法人は、日本において成立する同種の法人と同一の私権を有する。ただし、外国人が享有することのできない権利および法律または条約中に特別の規定がある権利についてはこの限りでなく、認許された外国法人であってもその私権は制限される(民法35条2項)。認許されない外国法人であっても、代表者さえ決まっていれば、訴訟法上は、権利能力なき団体として当事者能力が認められる(民事訴訟法29条)。会社法第2条第2号は、外国会社について、外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、日本の会社と同種のもの、またはそれに類似するものと定義している。なお、日本に本店を置きまたは日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は疑似外国会社とよばれる。疑似外国会社は日本において取引を継続して行うことはできず、これに違反して取引をした者は、個人として、取引の相手方に対してその疑似外国会社と連帯してその取引によって生じた債務を弁済する責任を負うとされている(会社法821条)。この規定は、会社法制定時に外国会社による日本でのビジネス活動を阻害するおそれがあるとして国会で問題となり、法務省は日本法の脱法をする悪質な場合だけを対象とすると説明し、そのまま可決された経緯があるが、これについての裁判例はまだない。
[道垣内正人 2022年4月19日]
認許された外国法人については、例外的に、日本法人とは異なる扱いがされる。たとえば、日本で継続して取引をしようとする外国会社は、日本における代表者を定めなければならず、その設立準拠法などを登記しなければならない(会社法817条1項、933条2項1号)。また、事業活動の内容によっては、外国法人であることを理由に制限を受けることがある。たとえば、鉱業法第17条は「日本国民又は日本国法人でなければ、鉱業権者となることができない」と定めている。なお、日本法人であっても、資本構成や役員の国籍などに関する一定の要件のもとに制限を受けることがある。たとえば、電波法第5条1項は、無線局の免許を与えない者として、「1 日本の国籍を有しない人、2 外国政府又はその代表者、3 外国の法人又は団体」のほか、「4 法人又は団体であって、前3号に掲げる者がその代表者であるもの又はこれらの者がその役員の3分の1以上若(も)しくは議決権の3分の1以上を占めるもの」をあげている。これは、日本法人であっても、その代表者・役員または議決権の3分の1以上が外国人・外国法人によって占められている法人等については、実質的に外国人等の影響を強く受ける結果、有限である電波を利用する無線局の免許を与えないこととするものである(なお、同法5条4項では、社会的な影響力の大きい放送局については、前記の比率が5分の1以上であるときや、外国親会社等の株主等が議決権の5分の1以上を間接的に占めているものには免許を与えないという、いっそう厳しい規制がなされている)。このような法規制は外人法とよばれている。他方、ケイマン諸島、バージン諸島などのタックス・ヘイブン(租税回避地)でペーパー・カンパニーを設立し、税法上、外国に本拠地を置く法人であることのメリットを享受しようとするという状況もみられる。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国際私法上、法人に関する一定の事項については、自然人の場合の本国法や住所地法にあたる法として、従属法を適用するとされている。日本を含め多くの国では、設立準拠法を従属法としている。日本の会社法第933条第2項第1号が外国会社の日本における登記事項として設立準拠法をあげているのは、取引の相手方がその外国会社の設立準拠法を調査できるようにすることによって、取引の安全に資するようにしたものである。
法人の従属法は、法人をめぐる法律問題のうち、株主総会の権限、取締役の責任、監査役制度、株式の性質などの法人の内部関係事項に適用されることについては異論がない。法人の代表者の権限については、法人の内部関係であると同時に外部の相手方との関係でもあるので、設立準拠法によると相手方にとって予想外の結果を招きかねないとの理由から、設立準拠法上は権限がなくても、行為地法によれば権限があるとされるときには権限があるものと扱うべきであるとの見解と、一般の代理人の場合と異なり、法人については登記等の制度が確立しているのであるから、取引相手の側で調査をするべきであって、設立準拠法のみの適用でよいとの見解とに分かれている。
[道垣内正人 2022年4月19日]
外国法人と内国法人の区別(法人の国籍)の基準は,主たる事務所がどの国にあるかによる説(本店所在地主義)もあるが,どの国の設立手続により法人格が与えられたかを基準とし(設立準拠法主義),外国法により法人格が与えられたものを外国法人とするのが通説である。
(1)外国法人の認許 法人は,組織の運営者や資産提供者が死亡その他の事由で交替しても継続的に存在し,その負債についても構成員個人は責任を負わないのが原則である。組織の規模からも社会的影響力が大きいため,いずれの国でも通常は国王の特許,国会の制定法などの,行政権や立法権によらなければ法人の成立を認めない。どのような団体に法人格を認めるかの政策も国によって異なり,フランスのように革命思想の影響により,国家と個人以外の法的主体を敵視した国では,1804年のいわゆるナポレオン法典の中では法人の規定を置かず,会社以外に私法人が認められたのは,ようやく84年の同業者団体法であったというような例もある。したがって外国で法人格が与えられている団体であっても,自国の法人設立政策に反するような法人について,国内でその法人格を認める必要があるのかという問題が生じる。これが外国法人の認許の問題である。しかし外国法人といっても,外国,または外国君主の場合は,法人格を認めなければ,国際社会,あるいは外交関係が成り立たなくなるから,それらについては国際礼譲の観念により法人格が認められる。
問題となるのは,国の行政組織に対して独立性が認められている,公法人である国立病院・電力公社や,私人が設立手続をとる社団法人,財団法人のような私法人である。ヨーロッパ大陸法系で,外国法人の認許が問題となった事件は,ベルギー破毀院(いわば最高裁判所)の1849年2月8日判決に関するもので,フランスの株式会社がベルギーの裁判所で訴訟を提起しうるかにつき,次の理由から,その当事者能力を否定したものである。株式会社は,行使しうる金融力,無限の存続,社員有限責任により,個人に比し卓越する利点をもち,その機能は政治体制または国の規模により有益とも有害ともなりうるものである。したがって,ベルギー株式会社法の設立許可主義がベルギーの公序法(公序良俗)である以上,外国株式会社の自由な認許はベルギーの公安を外国法に委ねることを意味するとして,フランスの株式会社の認許を拒否したものである。これは強力なフランス資本に対する当時のベルギーの不安を反映したものといわれている。この発想は逆にフランスに波及し,フランスでは1857年法以来特定の国の会社以外の外国株式会社は,認許されていない。ドイツでは,当時の工業生産力の驚異的飛躍を象徴するがごとく,1913年12月16日帝国裁判所判決により,外国株式会社は自動的に認許されるものとし,イギリスではそもそも認許を論ずるまでもなく外国法人は認許されるとする。これは外国法人の認許の観念が,一面において外資の浸透阻止の目的に用いられてきたことを物語っている。
外国法人について規定する日本の民法36条は,国および地域的分権組織である行政区画については,国際社会の必要から認許し,他方,私法人の商事会社のみを自由貿易体制の要請として認許している。これは,外国法人は原則的には他国においては法人として行動しえないとする考え方を前提とするものであり,前述のもの以外の法人は,日本国内の行動については,〈権利能力なき社団〉または財団としての地位が認められるにすぎないとされる。この通説の立場によれば,例えば外国公益法人である医療機関が日本国内で医療器械を買い入れた場合に法人性を認めないことになる。しかし,そのことが果たして日本の法人設立に関する政策の実現に寄与することになるかははなはだ疑問であり,日本に事務所を設け継続活動をすることは認められない,という規制にとどまるべきでないかと考えられる。第2次大戦後は国連,ヨーロッパ共同体のような広範な行政権限をもつ組織や,戦後処理のためのモーゼル運河国際会社のような条約に基づく法人(これを国際法人という)が多数出現したが,これらも国や商事会社に準ずるものは認許すべきであろう。
(2)外国法人の特別権利能力 認許された外国法人は,日本法人と同様に日本法上の権利を享有しうる(民法36条2項)。しかし例外もあり,日本国籍をもつ船舶や航空機のような公益性の強い財産(船舶法1条,航空法4条),国際電信電話株式会社の株式のような公益性の強い会社の株式の取得は認められない(国際電信電話株式会社法4条)ように,特別法上禁止または制限されることがある。他方,日米通商航海条約(1953)や,日本ノルウェー通商航海条約(1957)では,出訴権,内国活動,物権,工業所有権の取得など,広範囲の内外法人平等待遇を明示している。
→外国会社
執筆者:岡本 善八
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…その国の国籍をもつ者は,他国の国籍をもっていても(重国籍者)外国人ではない。法人も,内国法人に対して,外国に住所があるかまたは外国法に準拠して設立された外国法人が存在する。その地位は,内国法人に準じる。…
※「外国法人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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