小説家。高知県生まれ。高知女子師範学校中退。1941年(昭和16)上京して『文芸首都』の同人となり、『若い渓間』(1943)が『改造』の懸賞小説に当選したが、戦争と病気で文壇進出を阻まれた。結核による長い闘病の体験は『ストマイつんぼ』(1956)に結実した。また社会から隔離されて生きる者の苦しみは、40年の幽獄生活を耐えた野中婉(えん)の生涯への共感となり、『婉という女』(1960。毎日出版文化賞・野間文芸賞)を生んだ。『正妻』(1961)、『於雪(おゆき)――土佐一条家の崩壊』(1970)などは、同郷の土佐の女をモデルにした作品。1976年にはカトリックの洗礼を受け、聖地巡礼の旅をもとに紀行小説『イェルザレムの夜』(1980)を、イエスの方舟(はこぶね)事件を題材に『アブラハムの幕舎(ばくしゃ)』(1981)を書き、宗教的思索を深めた。初期作品以来のモチーフである、負の人生を生きた女の生涯へのこだわりは一貫しており、ハンセン病と闘いながら凄絶な歌を残した歌人を『忍びてゆかな――小説津田治子』(1982)に、純粋であるがゆえに苛酷(かこく)な運命を強いられる明治生まれの庶民の女を『地上を旅する者』(1983)に重厚な筆致で描いた。若いころから好きな短歌の分野では、アララギ派の女性歌人2人を伝記小説『今日ある命――小説・歌人三ヶ島葭子(みかじまよしこ)の生涯』(1994)と『原阿佐緒(あさお)』(1996)にまとめ、『詩歌(うた)と出会う時』(1997)で近代歌人と俳人24人を論じた。ほかに自伝小説『眠る女』(1974)、『地籟(ちらい)』(1984)、『ハガルの荒野』(1986)、『彼もまた神の愛(め)でし子か――洲之内(すのうち)徹の生涯』(1989)、『草を褥(しとね)に――小説牧野富太郎』(2001)などがある。1991年(平成3)高知県本山町に大原富枝文学館開館。1998年日本芸術院賞恩賜賞受賞。芸術院会員。
[江刺昭子]
『『彼もまた神の愛でし子か――洲之内徹の生涯』(1989・講談社)』▽『『今日ある命――小説・歌人三ケ島葭子の生涯』(1994・講談社)』▽『『原阿佐緒』(1996・講談社)』▽『『詩歌(うた)と出会う時』(1997・角川書店)』▽『『草を褥に――小説牧野富太郎』(2001・小学館)』▽『『大原富枝全集』全8巻(1995~96・小沢書店)』▽『『婉という女・正妻』(講談社文庫)』
昭和・平成期の小説家
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