大同法(読み)だいどうほう

改訂新版 世界大百科事典 「大同法」の意味・わかりやすい解説

大同法 (だいどうほう)

朝鮮で李朝後期の17世紀に行われた税制財政改革。李朝初期,農民たちは田税・軍役のほかに貢納・進上の負担を課された。貢納は政府各官庁の必需品,進上は王室の必需品を地方ごとに割り当て,現物で上納させる制度であり,その上納物は各種の鉱産物水産物,手工業製品や毛皮,木材,果物など広範にわたった。その採取,生産や運搬は農民たちの労役でまかなわれ,田税よりもはるかに重い負担であった。やがて貢納は,貢納請負人が特産地等で購入して中央に上納し,その代価を農民たちから米や綿布で徴収する方法が広がったが,その代価はしばしば貢物価の数倍,数十倍に及んだ。こうした貢納請負の弊害を除くため,17世紀に入ると,所有地の規模に応じて米(大同米)や綿布(大同布)を各地から中央に上納させ,その米や布で政府が官庁や王室の必需品を購入する方法がとられた。これが大同法である。大同法は商品経済の発展を背景とし,農民の貢納=労役を土地課税に切りかえた画期的な税制改革であり,これによって財政も安定した。課税額は初め1結当り(結は土地面積の単位。〈結負(けつぷ)制〉の項を参照)米10~16斗であったが,のち米12斗または綿布2匹に統一された。大同法は小作農や小土地所有者には歓迎されたが,大土地所有者(一部の両班ヤンバン)層)の反対を受けた。そのため,1608年にまず京畿道で試験的に実施され,以後,平安・咸鏡の2道を除く各道でも順次実施されたが,完全実施までにほぼ100年を要した。のちの均役法(1750)とともに李朝後期の重要な財政改革の一つである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大同法」の意味・わかりやすい解説

大同法
だいどうほう

李(り)氏朝鮮後期に行われた納税および財政制度。大同法施行以前は、各地方の特産物を戸別割に賦課し、貢納・献上させたが、これを田地税に改め、米、すなわち大同米(大同布地、大同銭などの代納も可)に統一して徴収した。中央には宣恵庁、各道には大同庁を設置し、1608年にまず京畿(けいき)道に試験的に実施、その後約100年にわたって全国的に拡大実施された。従来の貢物制が負担の不公平、生産されない特産物の割当て、官吏・代納者による暴利行為などの弊害が著しかったのでこれを廃止し、大同米、大同布地、大同銭で一括徴収するようにしたのである。一方、官の需要品は、政府が貢人、商人、百姓に代金を与えて調達することにした。課税率は道によって多少の差はあったが、ほぼ田地1結(けつ)(1結は稲約1万束がとれる土地)当り12~16斗が徴収された。山間地域での納税は、米5斗当り木綿地約1疋(ぴき)、米3斗は大同銭1両の割合で徴収された。しかし、18世紀後半に至り、中央政府の経費が著しく増大し、地方の経費はかつての戸別割の貢物制に戻ったため、所期の成果をあげることはできず、1894年に大同法は廃止された。

[李 炫 煕]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大同法」の意味・わかりやすい解説

大同法
だいどうほう
Taedong-pǒp

朝鮮,朝鮮王朝 (李朝) 後期の貢物を米穀に統一して収納させた税制度。従来の貢納制は貢納請負業者の中間搾取など幾多の弊害があったので,貢物を米穀で統一して徴収する大同法が李栗谷らによって主張されていた。大同法はまず宣祖 41 (1608) 年に京畿道に実施され,その後忠清,慶尚各道に,そして粛宗 34 (1708) 年に黄海道にも実施され,平安,咸鏡両道と済州島を除く全国に施行をみるまで,100年間が費やされた。大同法はその内容がきわめて繁雑で,次第にその運営に適正を欠くものが現れ,18世紀以降の民乱の原因ともなった。高宗 31 (1894) 年まで施行された。

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世界大百科事典(旧版)内の大同法の言及

【李朝】より

…しかも李朝初期には,そうした力役の比重のほうが生産物収取よりもはるかに大きく,それらの点で,李朝初期には古代的要素がなお根強く残されていた。
[中期――体制の動揺]
 この時期(1470‐1607)は士林派政権の確立(1565)に代表される新旧勢力の交替期であり,また大同法(1608)に至る社会変動の時期である。党争および士禍(1498,1504,1519,1545年の4回)がこの間の政治過程を特徴づけている。…

※「大同法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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