精選版 日本国語大辞典 「大」の意味・読み・例文・類語
だい【大】
[1] 〘名〙 形の大きさ、数の多少など、相対的な評価、認識において、大きい方あるいは多い方であることをいう。⇔小。
※説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)五「をぐり、このよしきこしめし、大のまなこに、かどをたて」
② (形動) ものごとの程度が大きいこと、はなはだしいこと。盛んであること。また、そのさま。
※太平記(14C後)一四「其罪大而無レ拠レ逋レ身」
※増鏡(1368‐76頃)一二「その年十月、大なりつるを」 〔白虎通徳論〕
※大賀村検注取帳副日記‐元徳二年(1330)一一月一八日(古事類苑・政治七二)「六十歩と云ふは、足数六十也。〈略〉大と云ふは四六十歩也」
⑦ 役者評判記の位付の一つ。「功」と同じく至の上白極の下に位し、功よりは上極昇進の望みがある。
※随筆・済生堂五部雑録(1774‐76)歌舞妓始記評林列伝三「第五半黒極と大(ダイ)とを引合すへし〈略〉大とあるはやがて黒極の位に至るべしといふ事なり」
⑧ 長大な打刀(うちかたな)のこと。小刀を「小」というのに対する。
※歌舞伎・女土佐日記(1726)上「盃を置、つぎへ直りしなに友十郎が大をけちらかす」
[2] 〘語素〙
[一]
① (名詞の上に付いて)
(イ) 数量や形、または規模が大きい意を添える。「大群衆」「大企業」「大辞典」「大洪水」など。
※梁塵秘抄(1179頃)二「大楼閣の中にして、大悲法門説いたまふ」
(ロ) (イ)の意に加えて、さらにそれを尊敬賛美する意を添える。「大先輩」「大編集者」「大社長」など。
② 状態や程度を表わす語の上に付いて、そのさまのはなはだしい意を添える。「大好き」「大混乱」「大好物」「大失敗」など。
※平家(13C前)三「汝は大正直の者であんなれば」
③ 官職、位階などを表わす語の上に付いて、その中での最上である意を添える。「中、少」に対する。「大納言」「大僧正」「大宮司」「大初位」など。
④ 同じ分野ですぐれた業績をあげた父子のうち、父のほうの名の上に付けて区別する。Senior と Junior の区別のある、主として父子関係の Senior に対応する訳語。「大デュマ」「大ヤコブ」「大ガブリエル」
[二] 具体的な物を表わす語の下に付いて、その大きさとほぼ同じである意を添える。「こぶし大」「米粒大」など。
※舎密開宗(1837‐47)内「其
或砂の如く或鱗片の如く稀に鴿卵大の者あり」

※野心(1902)〈永井荷風〉六「同時に其等の紙面の裏には一頁大(ダイ)の広告が」
[補注](1)(一)②のうち、「の」を伴うものは現代語の場合は、連体詞「だいの」として独立させる考え方もできる。
(2)(二)(一)①②は、付く語によって同意の「おお(大)」と使い分けられているが、必ずしも和語、漢語の別にはよらない。
(2)(二)(一)①②は、付く語によって同意の「おお(大)」と使い分けられているが、必ずしも和語、漢語の別にはよらない。
おおき・い おほきい【大】
〘形口〙 (形容動詞「おおき(なり)」の形容詞化。室町時代以後の語)
① (物の形について) 空間を占める容積や面積が大である。
※虎明本狂言・腥物(室町末‐近世初)「あれにばけ物が有、大仏のしゃかが、随分おうきひと存したがそれよりおうきな」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「そのかたちの大きい小さいに不関係(かかはらず)」
② 年長である。成長している。
※人情本・春色籬の梅(1838‐40頃)一「お花をば姉上(ねへ)さんと呼びお熊をば大(オホ)きい姉上(ねへ)さんと呼ぶ」
③ 音量が大である。数量が多い。
※洒落本・遊子方言(1770)発端「声が大きいかな」
④ 価値がある。重大である。
※応永本論語抄(1420)学而「そっとしたる事にも大きい事にも礼ばかりを用て、和を不レ用、事が不レ成也」
⑤ 規模が大である。盛んである。豊かである。
※寄合ばなし(1874)〈榊原伊祐〉初「何某より大(オホ)きく暮したい、何某より能い身代になりたいと、さまざまの願ひ望みを起すも」
⑥ 度量などが広い。寛大である。
※くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉四「少(ちっ)との事は勘弁して気を寛(オホ)きく持って」
⑦ 程度がはなはだしい。たいへんである。
※甲陽軍鑑(17C初)品三七「信州川中嶋にをひて、大きく負(まけ)、三千余うたれて後は」
⑧ 大げさである。また、えらぶっている。ずうずうしい。
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉古物家「『贋物と鑑定違ひして却て真物(ほんもの)を廉(やす)く売る事がある、憎くない奴ぢゃ』と愚得大人大きく出た」
[語誌](1)室町時代以後、「大きい」が生じたのは、古代からある対義語「小さし」の存在による。すなわち、「大きなり」(形容動詞)⇔「小さし」(形容詞)の組よりも、「大きい」(形容詞)⇔「小さい」(形容詞)の方が、より対称性がはっきりするからである。「高し」(形容詞)⇔「低(ひき)なり」(形容動詞)から「高い」(形容詞)⇔「低い」(形容詞)という組が形成されたのも、同様に考えられる。
(2)「大きい」が成立すると、もとの形容動詞「大きなり」は、連体形「大きなる」が「大きな」という連体詞の形で、連用形「大きに」が副詞の形で(関西の感謝の言葉「おおきに」もこれからきている)残存した。連体詞「大きな」が成立するとともに、それまでなかった対義の連体詞「小さな」も成立した。
(2)「大きい」が成立すると、もとの形容動詞「大きなり」は、連体形「大きなる」が「大きな」という連体詞の形で、連用形「大きに」が副詞の形で(関西の感謝の言葉「おおきに」もこれからきている)残存した。連体詞「大きな」が成立するとともに、それまでなかった対義の連体詞「小さな」も成立した。
おおき‐さ
〘名〙
おおき おほき【大】
① 空間を占める容積、面積が大であるさま。
※竹取(9C末‐10C初)「此児やしなふ程にすくすくとおほきになりまさる」
② 事が大がかりであるさま。おおげさであるさま。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「猶おぼしめぐらしておほきなることどもし給はば」
③ 心が広いさま。寛大であるさま。
※源氏(1001‐14頃)藤裏葉「おいらかにおほきなる心おきてと見ゆれど、したの心ばへ雄々しからず癖ありて」
④ 恩徳、利益などが大であるさま。価値があるさま。
※大唐西域記長寛元年点(1163)五「冥(はるか)に景(オホキ)なる福を加へ、隣に強き敵無からむ」
⑤ 地位、身分が高いさま。
※天草本平家(1592)一「vôqinaru(ヲウキナル) クライ ニ イタッテ」
⑥ 程度がはなはだしいさま。はげしいさま。ひどいさま。
※竹取(9C末‐10C初)「てんかのことはと有ともかかりともみいのちのあやうさこそおほきなるさはりなれば」
[2] 〘接頭〙 名詞の上につけて用いる。
① 大きい、また、偉大な、の意を添える。「おおき海」「おおき戸」「おおき聖(ひじり)」など。
② 同官のうちの上位であることをあらわす。「おおきまつりごとびと」「おおきものもうすつかさ」など。⇔少(すない)。
③ 同位階のうちの上位であることを表わす。「おおきみつのくらい」など。⇔従(ひろい)
おおい おほい【大】
[1] 〘形動〙 (「大き」の変化したもの。もとは形容詞連体形と推定される) 大きいさま。
① 物の形の大きいさま。
※源氏(1001‐14頃)帚木「なえたる衣どもの厚肥えたる、おほいなる籠(こ)にうちかけて」
② 物事の程度のはなはだしいさま。
(イ) 盛大なさま。偉大なさま。立派なさま。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「道隆寺に、上野の親王の、おほいなるわざし給ふなるを」
※黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉 EPILOGUE 「生きては帰る望もなかった身を、彼は大(オホイ)なる力に牽かれて阿蘇の煙を東に見る銀杏城下の郷里に帰り」
(ロ) 重大なさま。重要なさま。
※海道記(1223頃)矢矧より豊河「互の善知識大ひなる因縁あり」
(ハ) 数量や程度のはなはだしいさま。→大いに。
[2] 〘接頭〙 人物をあらわす名詞の上に付いて、上位の人であることをしめす。
① 位官をあらわす語に付いて、従に対する正、少・中に対する大をあらわし、上位であることをしめす。「おおいもうちぎみ」など。
② 殿や君など、尊敬の意をしめす語の上に付いて、年長の人であることをあらわす。「おおいどの」「おおいぎみ」など。
[語誌](1)(一)は中古以後、上代語形容詞「おほし(多)」がそなえていた数量の多さ以外の意を引き継ぎ、形や規模の大であるさまを基本に、ほめことばとして立派さを示したり、程度の大であるさまなどを表わすようになった。室町時代以後、形容詞化して「おほきい」という語形を生じ、それが標準化するにしたがって、もとの形容動詞からきた形は「おおきな(おほきな)」に限定されて連体詞化する。
(2)(二)の場合は、下位の「ひろい(従)(「ひろき」の音便形)」の対。官職の上位を表わす場合は、「なかの(中)」「すない(少)」の対。
(2)(二)の場合は、下位の「ひろい(従)(「ひろき」の音便形)」の対。官職の上位を表わす場合は、「なかの(中)」「すない(少)」の対。
おっき・い【大】
〘形口〙 「おおきい(大)」の変化した語。
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「ホンニヨ一日置に捨利をとられるばかりも大(オッ)きいはな」
※落語・阿七(1890)〈三代目三遊亭円遊〉「成程…恐しく巨大(オッキ)イ小児(がき)だなア」
おっけな・い【大】
〘形口〙 (「おおきな」の変化した「おっけな」の形容詞化) 大きな。大変な。ひどい。
※浄瑠璃・本田善光日本鑑(1740)三「姉姫様共存ぜず、おっけない慮外申上ました」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報