人形浄瑠璃。近松半二,三好松洛,竹田文吉,竹田小出雲,筑田平七,竹本三郎兵衛作。1766年(明和3)10月大坂竹本座初演。10段。《仮名手本忠臣蔵》などの先行作を換骨奪胎したものであるが,多くの〈忠臣蔵物〉の中でも代表作の一つに数えられ,《東海道四谷怪談》や《裏表忠臣蔵》など,のちの諸作品に大きな影響を与えた。(1)第一 将軍足利直義に帝の宣旨を伝えるべく,勅使が鎌倉御所に下向。饗応の任に当たった塩冶判官は,諸式の指南役高師直の機嫌を損ね,数々の恥辱を受けてついに刃傷に及び,即日,切腹を命じられる。(2)第二 国家老大星由良之助は,その悲報とともにもたらされた形見の短刀を見て,仇討の決意を固める。(3)第三 相(あい)家老斧九太夫は,かねてから師直に心を通わしていたのみならず,金蔵から御用金を盗み出し,その責を負って早野三左衛門は切腹。大星は九太夫の悪を暴いて詰め腹を切らせ,天河屋義平に夜討の支度を依頼する。(4)第四 九太夫の後家お礼は大星を敵とねらい,助太刀のため,石屋の五郎太郎を婿にする。五郎太郎は,実は三左衛門の子早野勘平。彼は,お礼母娘が九太夫の妻子と知って切腹。大星はその志に感じて,勘平を仇討の連判に加える。(5)第五 判官の弟で石堂右馬之丞の養子縫殿之助(ぬいのすけ)は,兄の鬱憤を晴らすため,わざと放蕩に身を持ち崩して養父から勘当される。大星はその心を汲み,死んだ勘平の名を名のらせて連判に加える。(6)第六 矢間重太郎は国元を出奔して師直の様子を探る。残された妻のおりゑは,病気の舅喜内と一子太市郎を抱え,貧苦のため辻君に出,非人姿の重太郎に出会う。(7)第七 重太郎は仇討出立のため暇乞いに帰宅。太市郎を殺して後顧の憂いを断ち,おりゑもまた自害する。喜内は別れの盃をさして門出を祝う。(8)第八 山科に隠棲する大星のもとに,足軽寺岡平右衛門が訪れ,仇討の供を願う。大星はその赤心を確かめたうえ,士分に取り立てて供を許す。(9)第九 訴人のために捕らえられた義平は,師直にへつらう薬師寺治郎左衛門からひどい拷問を受けるが,夜討ち支度の注文主の名を明かさない。業を煮やした薬師寺は,子の由松を責め殺す。石堂は薬師寺の非を咎め,義平を預かる。(10)第十 仇討は成功。縫殿之助は元の身分に戻り,義平は釈放される。そして薬師寺は,石堂のもとに報告に来た平右衛門に斬り殺されている。
執筆者:今尾 哲也
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…なお,明治以降には,《高時》(《北条九代名家功》),《大森彦七》《女楠》など,のちに新歌舞伎十八番の中に入れられる諸作が,河竹黙阿弥や福地桜痴の手によって作られた。また,その他,近世には,幕府をはばかって,赤穂浪士の敵討や由井正雪の事件を《太平記》の世界に仮託,脚色するという方法が一般化し,前者に当たるものとしては,1710年大坂竹本座の《兼好法師物見車》および《碁盤太平記》,48年(寛延1)8月竹本座の《仮名手本忠臣蔵》,66年10月竹本座の《太平記忠臣講釈》,由井正雪の事件を扱った作品では,1759年(宝暦9)9月竹本座の《太平記菊水之巻》などが演ぜられている。ただし,それらは,太平記物とは別に,忠臣蔵物,由井正雪物として扱われるのが普通である。…
… この2作から直接影響を受けて作られたのが,1748年(寛延1)8月に竹本座で初演された名作《仮名手本忠臣蔵》である。これに次いで名高いのは《太平記忠臣講釈》(1766年10月竹本座)で,以後の浪士劇は,何らかの意味で,この両作の影響下に置かれている。代表的なものとしては,人形浄瑠璃に《忠臣後日噺》(1772年4月大坂北堀江市ノ側芝居),《いろは蔵三組盃》(1773年7月大坂北新地芝居),《忠臣伊呂波実記》(1775年7月江戸肥前座),《本蔵下屋敷》(1878年4月大阪大江橋席)などがあり,歌舞伎には《義臣伝読切講釈》(《忠臣連理廼鉢植》,1788年(天明8)3月大坂北堀江市ノ側芝居),《いろは仮名四十七訓(もじ)》(弥作の鎌腹,1791年9月大坂角の芝居),《裏表忠臣蔵》(蜂の巣の平右衛門,落人,宅兵衛上使,1833年3月江戸河原崎座),《仮名手本硯高嶋》(赤垣源蔵徳利の別れ,1858年5月江戸市村座),《忠臣蔵後日建前》(女定九郎,1865年閏5月江戸中村座),《稽古筆七いろは》(鳩の平右衛門,1867年8月市村座),《伊呂波実記》(松浦の太鼓,1878年9月大阪戎座),《土屋主税》(1907年10月大阪角座)などのほかに,4世鶴屋南北の《東海道四谷怪談》(1825年7月中村座)のような外伝仕立ての傍系作があり,また,近代のものとしては,真山青果の《元禄忠臣蔵》が名高く,かつ優れている。…
※「太平記忠臣講釈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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