家司(読み)ケイシ

デジタル大辞泉 「家司」の意味・読み・例文・類語

けい‐し【家司】

《「けし」の音変化》
親王家内親王家・摂関家および三位以上の家に置かれ、家政をつかさどった職。いえづかさ。
鎌倉・室町幕府の政所まんどころに置かれた職員

け‐し【家司】

けいし(家司)

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精選版 日本国語大辞典 「家司」の意味・読み・例文・類語

けい‐し【家司】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「けし」の変化した語 )
  2. 令制で、親王家、内親王家および一位以下三位以上の公卿の家に置かれた職員の総称。一位の家には家令(長官)、扶(次官)、大・小従(三等官)、大・少書吏(四等官)があり、親王家・内親王家ではこの他に文学が置かれる。いえつかさ。
    1. [初出の実例]「官人妻子多有飢乏。於是、文武官及諸家司給米」(出典:続日本紀‐天平勝宝元年(749)正月己巳)
  3. 奈良時代以降、公卿の家政機関である政所におかれた職員。別当、令、知家事、案主などの諸役がある。
    1. [初出の実例]「弁の君、まんどころにつきて、けいしどもにこの事おほせたまふ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)嵯峨院)
  4. 鎌倉・室町幕府の政所に置かれた職員。にならったもので、別当、令、知家事、案主などの諸役がある。
    1. [初出の実例]「今日政所始。則渡御。家司 別当 前因幡守中原朝臣広元前下総守源朝臣邦業」(出典:吾妻鏡‐建久三年(1192)八月五日)

いえ‐づかさいへ‥【家司】

  1. 〘 名詞 〙けいし(家司)
    1. [初出の実例]「大納言の朝臣のいへつかさのぞむなる、さるかたに、ものまめやかなるべき事にはあなれど」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)

け‐し【家司】

  1. 〘 名詞 〙けいし(家司)
    1. [初出の実例]「家司 ケシ」(出典:色葉字類抄(1177‐81))

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改訂新版 世界大百科事典 「家司」の意味・わかりやすい解説

家司 (けいし)

〈いえつかさ〉ともよむ。律令制下で親王家,内親王家,職事三位以上家に置かれていた家令(かれい)以下の家政所職員を家司と称していたが,政治的,社会的に貴族家の占める比重が大きくなる平安時代に入ると,律令で定められた職員以外のものが置かれるようになり,それらを総称して家司といった。すでに奈良時代に四,五位家や散位三位以上家に〈事業〉などが置かれ家務をつかさどるようになっていたが,平安期に入ると無品親王家にも別当が置かれ,律令で家司設置規定を欠く貴族家にも設置されている。さらに律令で家司を置くことになっている貴族家では質的,量的に拡充が図られているのである。家政機関の規模は貴族家の優劣に応じ大小があるが,最大の発達を示す摂関家の場合を《拾芥抄》についてみると,執事,年預,弁別当,文殿,蔵人所,侍所,御厩,御随身所,政所,御服所,進物所,膳部が列挙されており,それぞれに家司があてられたのである。とくに重要なのは政所(まんどころ)で,荘園関係の事務を扱い荘民に政所課役や政所公事を課し,その徴収事務を管掌し,荘民たちの間に紛争事件がおきると裁判事務を行い,国郡や他貴族家との交渉に当たるなどした。摂関政治は10世紀前半藤原忠平のときに確立したと考えられるが,この前後において摂関家の家司のあり方に画期が認められ,受領や出納ないし警察といった国家の枢要な行政事務に精通した官人を別当に起用するようになっており,それらの人たちが連署する家政所発給の牒や下文などの文書の権威もたかまってきている。ただし,ときとして摂関家政所で家司らが国政を議したとする〈政所政治〉なる把握が行われることがあるが,誤解というべきであり,家司らの任務は貴族家の家政の範囲に限られていたとみるべきである。上家司,下家司を称することがあるが,家令,別当が上家司に当たり,それ以外が下家司である。鎌倉幕府の政所,侍所,問注所なども家司制の展開として理解され,評定衆や引付衆を家司と称している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「家司」の意味・わかりやすい解説

家司
けいし

親王および摂関・大臣家などの家政をつかさどる職員。「いえづかさ」ともいう。養老職員令(ようろうしきいんりょう)によると、有品(ゆうほん)親王および職事三位(しきじさんみ)以上には、その品(ほん)・位(い)に応じて、家令(けりょう)、扶(ふ)、大・少従(じゅう)、大・少書吏(しょり)など家政をつかさどる職員が付属する規定であり、大宝(たいほう)令もほぼ同じであったと考えられる。これらは官位令に定められた職事官であり、毎年本主が諸司の考法に準じて勤務成績を評定し、式部省に送る定めであった。これら家令以下の職員を総称して家司ともいった。平安時代以降、令制がしだいに衰退し権勢家の勢力が増大するに伴い、令外(りょうげ)の職員が現れ、家政機関の組織も複雑化した。親王家については、『江家次第(ごうけしだい)』などによると、勅別当(ちょくべっとう)、家司、職事、侍者(じしゃ)、御監(ごげん)、蔵人(くろうど)などの職員が置かれ、また政所(まんどころ)、蔵人所、侍所(さむらいどころ)などの家政機関が設けられた。また『小右記(しょうゆうき)』などによると、右大臣藤原実資(さねすけ)家には、家令以下の令制職員とともに、政所に家司、知家事(ちけじ)、案主(あんず)、出納(すいとう)などの令外の職員が置かれ、政所のほかにも侍所、厩司(うまやのつかさ)、随身(ずいじん)所、雑色(ぞうしき)所などが設けられたことが明らかにされている。これらの職員を総称して家司ともいったが、さらに家令、別当を上(かみ)家司、それ以下を下(しも)家司と称することもあった。家政の中心は政所であり、政所は家牒(かちょう)を発行して諸官司と折衝し、また家符・政所下文(くだしぶみ)によって家領の経営などにあたったが、これらの文書の発給も家司がつかさどった。

[柳雄太郎]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「家司」の解説

家司
けいし

古代,貴族の家政機関の総称。律令制では有品親王・職事三位以上に家令と総称される家政職員が公設されたが,8世紀頃から四位・五位の貴族の家まで含めて令外(りょうげ)ないし私設の家政職員が広がり,平安時代以降はこれらの全体を家司と称した。家司の構成は主家の位官によりさまざまだが,受領(ずりょう)や実務官人としての本官をもつ別当以下,令・知家事(ちけじ)・案主(あんじゅ)や執事・年預(ねんよ)などの職員・職種,政所(まんどころ)・侍所・随身所・進物所・御厩(みまや)・文殿(ふどの)などの組織がおかれた。

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旺文社日本史事典 三訂版 「家司」の解説

家司
けいし

皇族・貴族の家政をつかさどる職員
「いえつかさ」とも読む。大宝令に規定があるが,平安中期以後は皇族や貴族が政所 (まんどころ) ・侍所 (さむらいどころ) などの機関を設け職員を置いた。鎌倉・室町幕府の政所・問注所 (もんちゆうじよ) の寄人 (よりゆうど) ,評定衆 (ひようじようしゆう) ・引付衆 (ひきつけしゆう) の職員も総称して家司といった。

家司
いえつかさ

けいし

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「家司」の意味・わかりやすい解説

家司
けいし

親王,内親王,摂関家,職事三位以上の諸家の庶務をとる職員。令制では,親王家に文学,家令,扶,従,書吏が,職事三位以上に家令,扶,従,書吏があった。平安時代中期以降は,これらの家には政所,文殿,蔵人所,侍所,随人所などの役所をおき,別当以下が庶務をとった。

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世界大百科事典(旧版)内の家司の言及

【家司】より

…〈いえつかさ〉ともよむ。律令制下で親王家,内親王家,職事三位以上家に置かれていた家令(かれい)以下の家政所職員を家司と称していたが,政治的,社会的に貴族家の占める比重が大きくなる平安時代に入ると,律令で定められた職員以外のものが置かれるようになり,それらを総称して家司といった。すでに奈良時代に四,五位家や散位三位以上家に〈事業〉などが置かれ家務をつかさどるようになっていたが,平安期に入ると無品親王家にも別当が置かれ,律令で家司設置規定を欠く貴族家にも設置されている。…

【別当】より

…寛平~延喜初年(9世紀末~10世紀初)から,公卿,蔵人(頭),弁,史らを令制諸官司,陣中所々,諸大寺有封寺の別当に補任する殿上所宛(ところあて),官所宛が行われ,朝廷の儀式・行事は,陣定(じんのさだめ)の決定や天皇,摂関,上卿の指示のもとに,関係諸司の別当が所管官司を指揮監督して運営されるようになった。(5)家司(けいし) 親王家,三位以上家の家政を担当する家司の上首。804年無品親王家に別当が認められて以後,他の諸家も漸次設置していった。…

※「家司」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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