文殿(読み)フドノ

デジタル大辞泉 「文殿」の意味・読み・例文・類語

ふ‐どの【文殿】

《「ふみどの」の音変化》
ふみどの」に同じ。
太政官院の庁摂関家などで、それぞれ文書を納めておいた所。所領関係の文書も保管され、のちに所領の訴訟を裁断する所となった。

ふみ‐どの【文殿/書殿】

書物をおさめておく所。書庫文庫。ふどの。
校書殿きょうしょでん異称

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精選版 日本国語大辞典 「文殿」の意味・読み・例文・類語

ふ‐どの【文殿】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 書籍・文書類を納めておく所。太政官以下の諸司、内裏、院、摂関家などにおかれた。なかでも、院文殿は鎌倉後期以降、政務や裁判に関わる院政の重要な機関となった。ふみどの。書庫。文庫。
    1. [初出の実例]「凡太政官及左右文殿雑書」(出典:延喜式(927)一一)
  3. 鎌倉幕府で裁定済みの文書を保管した所。鎌倉と京都六波羅にあったらしい。
    1. [初出の実例]「有御成敗、評定衆被封裏て被納置二階堂文殿之間」(出典:高野山文書‐正応五年(1292)正月一五日・太田庄文書申出目録)

ふみ‐どの【文殿・書殿】

  1. 〘 名詞 〙ふどの(文殿)〔二十巻本和名抄(934頃)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「文殿」の意味・わかりやすい解説

文殿 (ふどの)

太政官や院,摂関家,幕府などに置かれ,文書・典籍等を保管し,文事をつかさどった機関。とくに院文殿はのちに院政の重要な機関となった。〈ふみどの〉ともいう。《延喜式》太政官条には,太政官に左右の文殿があり,その保管する雑書は持ち出してはならず,その公文は史1人が管理に当たり,その下に預(あずかり)を置いて,左右の史生各2人が1年交替で勤務することなどを規定している。その公文・雑書とは,年中発給する宣旨・官符の本書草案諸国より進上する税帳・大帳等,および朝儀・公事の記録などを指し,史はこれらの文書・記録によって公文を作成し,先例勘申した。平安中期以降,大夫史(のちの官務)が文殿の別当に任じ,ついで小槻(おづき)氏が大夫史を世襲するに及び,事実上同氏が官文書を進退相伝し,ことに1226年(嘉禄2)官文殿の焼亡廃絶後は,官務文庫がその機能を代替するに至った。なお鎌倉初期に小槻氏が壬生(みぶ)・大宮両家に分かれたため,官文書は両家に伝えられたが,大宮家は室町末期に断絶して相伝の文書も散逸し,朝野の保護をうけて壬生官庫に伝えられた文書・記録類が,現在宮内庁書陵部,京都大学等に伝蔵されている。文殿は摂関家にも置かれ,摂政ないし関白に任ぜられると,文殿始を行い,別当および文殿衆を定めた。1186年(文治2)摂政になった九条兼実は,文殿始に当たり,蔵人左少弁藤原親経を別当に補し,明経・算・明法など諸道の官人7人を文殿衆とした。また《沙汰未練書》によると,鎌倉幕府にも文殿(文庫,文倉とも称す)があり,引付・評定の裁定ずみの文書等を保管したという。

 院文殿も元来は書籍・文書を保管し,文殿作文会に象徴されるように,院中の文事をつかさどる機関であった。その職員を衆あるいは寄人(よりうど)といい,外記・史や明経以下諸道の官人ら10人前後をこれにあて,そのうち1人を開闔(かいこう)として衆中を統轄させたが,後白河院以降,大外記中原氏が開闔を世襲したという。ところが1246年(寛元4)後嵯峨上皇が院中に評定衆と伝奏を置き,評定と奏事をもって政務を運営するに及び,評定目録や奏事目録などを文殿に保管し,文殿の明法官人らに訴訟の審理・勘申を命じ,さらに文殿に庭中(法廷)を開くに至った。こうして院文殿は〈貴賤の訴訟〉をひとえに成敗する所といわれた朝廷の記録所と同質化し,天皇親政のときは記録所,院政のときは院文殿が政務の重要な機関となった。ついで南北朝時代に入っても,北朝では院政が継続し,文殿雑訴法が定められて,庭中式日・越訴式日が設けられ,伝奏(着座公卿または上卿ともいう)が着座して訴訟や議事を指揮した。南北朝時代の有職書《名目抄》や《百寮訓要抄》には,院文殿は院政のとき置かれ,記録所の儀を移して,諸人の訴訟を決断する所で,諸道の官人の有能な人材を選んで開闔以下の文殿衆に補すると説明されている。
校書殿(きょうしょでん)
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「文殿」の意味・わかりやすい解説

文殿
ふどの

文書、書籍などを納めておく所。「ふみどの」とも読む。平安時代、太政官(だいじょうかん)では、大外記(だいげき)の管理する太政官文殿と、左右大史(だいし)の管理する左右文殿があり、内裏(だいり)では校書(きょうしょ)殿がこれにあたる。院の御所では、院の政治力が増すにつれて、文書の保管にあたる「文殿の衆(しゅう)」に外記の官人が増え、彼らが所領関係の訴訟に意見を述べるようになり、鎌倉後期以降、文殿に公卿(くぎょう)が集まり裁決も行われた。鎌倉幕府では裁決済みの裁判関係の書類を保管した。

[吉田早苗]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「文殿」の意味・わかりやすい解説

文殿
ふどの

典籍,公文書を納めておく殿舎。大内裏の太政官構内の校書 (きょうしょ) 殿中にある文殿をはじめ,院,摂政関白家にもおかれた。院の文殿は,のちに政事を議し,諸人の訴訟を裁断するところとなった。

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世界大百科事典(旧版)内の文殿の言及

【校書殿】より

…桁行9間,梁行2間の身舎の四面に廂(ひさし)をつけた南北棟建物で,東を正面とする。身舎は一部を塗籠(ぬりごめ)とし,書籍を中心とする御物を収蔵したので,一名文殿(ふみどの)とも称する。西廂には北に蔵人所(くろうどどころ),南に校書所をおく。…

【文殿】より

…太政官や院,摂関家,幕府などに置かれ,文書・典籍等を保管し,文事をつかさどった機関。とくに院文殿はのちに院政の重要な機関となった。〈ふみどの〉ともいう。…

【院司】より

… 院司の構成にはかなり変遷があるが,《西宮記》《拾芥抄》《名目抄》その他の記録により,平安・鎌倉時代の院司を概括すると,二十数種に及ぶ。それを性格・機能のうえから分類すると,(1)院中の諸事を統轄処理するもの=別当・判官代・主典代,(2)上皇の側近に侍し身辺の雑事に奉仕するもの=殿上人・蔵人・非蔵人,(3)各種の職務を分掌するもの=別納(べちのう)所・主殿(とのも)所・掃部(かもん)所・薬殿・仕所・召次所・御服所・細工所・御厨子(みずし)所・進物所・御厩・文殿(ふどの)など,(4)上皇の身辺および御所の警固に当たるもの=御随身所・武者所・北面・西面などに整理できる。まず(1)は院司の中核で,(1),もしくは(1)(2)に限って院司と称した例も多い。…

【官文庫】より

…官庫あるいは官務文庫ともいう。宣旨や官符案などの太政官文書や朝儀・公事の記録類は,本来太政官の文殿(ふどの)が保管し,大夫史=官務が文殿別当として管理していた。平安中期ごろから大夫史は小槻(おづき)氏の世襲するところとなり,小槻氏の文庫に官文書が混在していった。…

【書庫】より

…書物を保存格納しておく倉庫。〈文庫〉ともいい,古くは〈文殿〉〈経蔵〉などとも称した。これに相当するラテン語,英語bibliotheca,ドイツ語Bibliothek,フランス語bibliothèqueなどはいずれもギリシア語bibliothēkēにもとづく。…

※「文殿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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