(読み)チ

デジタル大辞泉 「血」の意味・読み・例文・類語

ち【血】

動物の血管内を流れる体液。血液。血潮ちしお。「赤い」「が出る」→血液
血縁。血統。血筋。「のつながり」「は争えない」
人のもつ感情や思いやり。「若いがたぎる」
[下接語]あく生き血うぶ血・うみ返り血黒血毒血なま古血わる(ぢ)鼻血
[類語]血液鮮血生き血人血冷血家系血筋血脈血統家筋筋目毛並み家門一門一族血族うじ

けつ【血】[漢字項目]

[音]ケツ(漢) ケチ(呉) [訓]
学習漢字]3年
〈ケツ〉
ち。「血圧血液血管献血止血出血心血鮮血吐血貧血輸血流血冷血
血のつながり。「血族血統血脈混血純血
強い情熱。「血気熱血
血を流すように激しいこと。「血戦血涙血路
〈ち(ぢ)〉「血潮血眼鼻血
[難読]血脈けちみゃく血腥ちなまぐさ

けち【血/結】[漢字項目]

〈血〉⇒けつ
〈結〉⇒けつ

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精選版 日本国語大辞典 「血」の意味・読み・例文・類語

ち【血】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 動物の血管内を循環する体液。脊椎動物ではヘモグロビンを含むため赤く見える。ちしお。血液。
    1. [初出の実例]「爾に其の御刀の前に着ける血(ち)走りて湯津石村に就きて」(出典:古事記(712)上)
    2. 「散り落つる花弁(はなびら)に、爪(つま)もとよりちをさしあやして、かく書きつく」(出典:宇津保物語(970‐999頃)春日詣)
  3. 同一の先祖につながる関係。血族の関係。血統。血縁。血筋。
    1. [初出の実例]「母御の血筋をつたへし為、血は争はれぬものでござりまするな」(出典:修禅寺物語(1911)〈岡本綺堂〉一)
  4. 人間が有する感情や、暖かい思いやり。
  5. ちのみち(血道)」の略。
    1. [初出の実例]「お前じっとしてお出でよ、血にさはるとわるいよ」(出典:妻(1908‐09)〈田山花袋〉三八)

のり【血・生血】

  1. 〘 名詞 〙 まだ乾かないでねばりけのある血(ち)。なまち。血糊(ちのり)
    1. [初出の実例]「太刀より伝ふ血ののりに手の内繁く廻りければ」(出典:寛永版曾我物語(南北朝頃)九)
    2. 「見れば抜刀をして体はのりだらけ」(出典:歌舞伎・幼稚子敵討(1753)口明)

けつ【血】

  1. 〘 名詞 〙 血液。ち。また、古くは、すべての体液の総称。
    1. [初出の実例]「五臓六府の病の品々、風・寒・暑・湿・気・血(ケツ)の虚実、内傷・外感の本を正しくして薬を与ふるに、いづれの病も癒へずといふ事無し」(出典:仮名草子浮世物語(1665頃)二)

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普及版 字通 「血」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 6画

[字音] ケツ
[字訓] ち・ちぬる

[説文解字]
[甲骨文]

[字形] 会意
皿の中に血のある形。〔説文〕五上に「祭にむるの牲血なり」とあり、祭祀に牲血を用いた。卜辞に血室の名がみえる。誓約のときにも牲血を用い、「牛耳を執る」とは盟誓を司会することである。

[訓義]
1. ち、ちぬる。
2. 泣血は、声を立てずに泣く。
3. 恤に通じ、うれえる、かなしむ。

[古辞書の訓]
〔和名抄〕血 野王按ずるに、血は中の赤汁なり。知(ち)。中の血理なり。知乃美知(ちのみち) 〔名義抄〕血 チ

[部首]
〔説文〕に(しん)・衄(じく)・(じゆつ)・(きよく)など十四字を属し、〔玉〕になお(じ)など数字を加える。は津液(しんえき)の津の初文。衄は鼻を殴(う)って鼻血をとる意。は牲血を拝する形、は両乳に(ひよく)形の入墨を加えるときの傷痛をいう。

[声系]
〔説文〕に血声として(きよく)・洫(きよく)・恤(じゆつ)など四字を収める。八上は「靜かなり」、恤十下は「憂ふるなり」と訓する字。血の声義と関するところのある字であろう。

[熟語]
血案・血胤・血陰・血雨・血運・血暈・血液・血縁・血花・血汗・血気・血忌・血虧・血仇・血虚・血系・血口・血行・血膏・血痕・血懇・血祭・血祀・血指・血嗣・血社・血珠・血酒・血書・血漿・血場・血食・血色・血心・血刃・血髄・血性・血牲・血腥・血誠・血税・血戦・血戦・血・血属・血族・血潮・血点・血怒・血統・血肉・血脈・血盟・血毛・血勇・血余・血痢・血流・血・血縷・血涙・血路
[下接語]
血・鬱血・悪血・嘔血・壊血・喀血・汗血・肝血・吸血・泣血・給血・虚血・供血・凝血・頸血・献血・膏血・混血・採血・止血・瀉血・充血・出血・純血・心血・生血・腥血・赤血・鮮血・濺血・羶血・造血・多血・血・鉄血・吐血・熱血・貧血・碧血・無血・輸血・流血・涙血・冷血

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改訂新版 世界大百科事典 「血」の意味・わかりやすい解説

血 (ち)

動物の血管内を流れる体液である血は,人類の文化にとってきわめて重要な存在であり,血が生命の本質あるいは生命そのものであるという観念は,普遍的であるといってよい。また,血の色のが生命を象徴するという観念も広く認められる。ここでは,世界各地,各時代の文化における血に関する観念やそれをめぐる習俗について記述する。

 なお,血についての生理学的解説は〈血液〉の項を参照されたい。

古代エジプトの〈死者の書〉には,生前よこしまだった死者の血をオシリスの前で飲みながら,罪の重さを調べる神々の話がある(《ヌウのパピルス》)。古代エジプト人は血液は生命を表すと考えた。このような観念は,村落の門口に守護のまじないとして血をふりかける話(M.H. キングズリー《西アフリカ旅行》)や,キリストの十字架をイエスの血の象徴とみて魔力のある護符とした話,1881年に黄金海岸を襲った地震の後,地の悪神ササボンサムの業であるとして50人の処女を犠牲に捧げ,その血に浸した泥で王宮の崩れた壁を修理した例,手をつなぎ合う人々がその手やみぞおちや顔を小さく切って採血し,これをビールに混ぜて飲み合い義兄弟の契りを結ぶカセンディと称する儀式などとして,アフリカ各地に残っているという(W.バッジ《オシリス》)。

 古代ユダヤ人も血は人間の精神を表すと考えた。タルムードには預言者ゼカリヤの血が多くの無実の人々の血と混ぜ合わさるまで流れ続けたとある。ユダヤ教のタブーの一つに,血をすべて抜きとった肉でなければ食べるのを禁じているのも,魂の座である人間の血に獣の血が混ざることを避けるためである。このような見地からは,17世紀にローワーRichard Lower(1631-91)やドニJean-Baptiste Denis(?-1704)らが羊の血を用いて初めて人への輸血を試みたことなど,言語道断の瀆神行為である。試みは失敗したが,医学の発展にはしばしばこの種の悲惨な試行錯誤が伴っている。K.ラントシュタイナーABO血液型を発表したのは1901年以降のことであった。キリスト教も魂と血との関連を重視している。〈最後の晩餐〉の席上,キリストがブドウ酒を〈わたしの契約の血〉と言ったのは魂の隠喩である。ヤコブス・デ・ウォラギネの《黄金伝説》にはセバスティアヌスの処刑,自分の血を手にすくって投げて絶命したユリアヌスの最期,グレゴリウスが切ったヨハネの法衣から血が流れた話など,血にまつわる聖人の伝説が少なくない。ラテン語sanguis bacchius(〈バッコスディオニュソスの血〉の意)はブドウ酒のことなので,異教とキリスト教の聖餐との関係を推測する者もいる。

 コーランによれば,マホメット(ムハンマド)は天使ガブリエルから〈主は凝血から人間を創った〉との啓示を受けた。中世ヨーロッパには,殺人者が近寄ると死体から再び血が流れるという迷信が広くあり,ハンセン病(癩病)の治療に人血が有効とする考えもドイツなどに根強く残っていた。日本の血書や血判も,血がその人を代表するとみる観念に裏づけられている。血が流れて草花や土を染めた,という類の伝説は世界各地にあり,たとえば南方熊楠《十二支考》の〈虎〉の項に詳しい。月経を忌む迷信も日本を含む世界各地にある。大プリニウスによれば,経血が触れると新しいブドウ酒は酸っぱくなり,果実は木から落ち,鏡は輝きを失い,鋼鉄の刃は鈍くなり,ブロンズや鉄は直ちにさびるなどとある(《博物誌》第7巻)。
月経
執筆者:

動物の血は狩猟民や牧畜民のあいだではふつう重要な食料になっている。東アフリカのマサイ族では,青年戦士は特別の良質の食料だけをとって生活するが,それは牛乳,肉,それに雄牛の瀉血(しやけつ)(血を抜くこと)による血である。ユーラシア,アフリカ,オセアニアの農耕民が家畜を犠牲に供する場合,しばしば出血をともなうように屠殺する。ユダヤ人は,屠殺した動物の血はヤハウェへの供犠と考えており,血がすっかり出てしまった肉を食べる。古代メキシコにおいては,毎年何千人もの人身供犠が行われたが,これは人間の血で神々を養い,これによって世界の規則的な運行を確保するためであった。病気を治す手段として瀉血(放血)をすることは世界的に広く分布している。北アメリカのパイユート族は,病気の大部分は妖術の仕業か,精霊の攻撃によるとしているが,若干の病気は血の悪化が原因だと考えている。老人は血が古くなって固くなってくるので,放血が必要だとされる。しかし危険な血の代表は女性の血,ことに月経であるが,善悪双方の影響力をもつ場合も多い。北アメリカのスー族では,月経中の女は呪力ワユンダをもつため,一方では子どもや他の女たちから危険だとして忌避されるが,他方では日の出前に裸で畑に行けば,豊饒を促進すると考えられていた。オーストラリアやニューギニアでは,思春期に若者は,生まれたときからもっている〈母の血〉を,割礼によって,あるいはトゲなどを使って放血することによって出してしまうことが重要だと考えている民族が多い。この悪い血をとらないと,若者は弱くなり,仕事をする気力がなくなり,狩りや戦争のとき手や目が利かなくなり,また性的能力も衰えるという。胎児が母親の経血によって養われるという観念は,西洋の古典医学,たとえばヒッポクラテスも,またスマトラのミナンカバウ族ももっており,広く分布している。血の生命力の信仰は血の神聖という考えにつらなる。ヨーロッパ中世の聖杯伝説においては,聖杯はかつてキリストの血が入っていたために神聖であると考えられていた。同盟関係を結ぶ方法の一つとして広く行われているのは,いわゆる血兄弟関係をつくることであって,東アフリカのヘヘ族では,2人の男がそれぞれ手に傷をつけて血を出し,相手がそれを飲むことによって行われる。このような血兄弟はヨーロッパ古代にも行われていた。王侯のような高貴な人物の血が地面に落ちるのは危険だという観念は,インドシナ諸王国の宮廷で厳守されていたし,アフリカにおいて儀礼的な王殺しが行われた場合,絞殺のような血を流さない方法で王を殺すのが普通であった。
執筆者:

血のことをノリともいうが,これはもと鳥獣の血のことで,人の血液と区別するためのものらしい。チ,ツ,キなど1音節の語で人体から出る液体を呼び,古くはこれらには災厄を払う力があると考えられた。汚物を見て唾を吐きかけたりするのも,これと関係があろう。固い約束をかわす証明として互いに相手の血液を飲みあい,また血判をするなど誠意の証明にも血液が用いられた。また,その赤色は祝賀・吉事に用いられ,病気を除ける目的で祈願するにも赤い幣(ぬさ)を立てた。疱瘡神送りなどがそれである。他面実際の血液はあまりに神聖なため常用が忌まれ,逆にこれを出したり見たりすることを穢れと意識するようになったらしい。特に貴族階級では仏教の殺生戒などもからんで社寺境内での流血が強く忌まれ,これが起こると政事を廃するまでに至った。女性の月経も同じく忌まれて女性蔑視の一因ともなったのである。
血縁 →血族
執筆者:

古代医術では人の血液を衰弱した病人や狂犬病の患者の治療に用いた。月経血も薬剤として酒で服用したり,月経血のついた布を焼き,灰にして服用した。またこれを外傷の塗布薬ともした。《今昔物語集》巻十一に慈覚大師が破仏の勅令下の唐で逃亡中,纐纈(こうけち)城に迷いこむ説話があるが,血を絞りとるおそろしい城は,血液が医療に用いられたこととかかわりがあるものと思われる。また,同書巻十九に大江定基が風祭に供えられたキジが生きながら切り割かれる姿を見て道心を固めて出家する話があるが,動物の血は神聖な供物であった。古代中国医術では諸血は貧血や血友病などの薬として生で飲み,キノコや薬の解毒,丹毒,煩熱の治療薬としたり渇きをいやすために飲む場合もあった。現代でもコイ,スッポン,マムシなどの生血を飲むが,白鶴の血は天子の飲みものとされていた。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「血」の意味・わかりやすい解説


動物の血管の中を流れる赤色の流動組織。血の生理学的な解説は「血液」の項に書かれており、ここでは血に対する人間のさまざまな観念、習俗などについて触れる。

 人間の生死と深いかかわりをもつ血は、古くから人間に恐れられ、崇(あが)められてきた。ときには血に神聖な霊的な力をみいだし、ときにはそれを忌むというように、血にはさまざまな観念が付与されている。

 血の霊的な力を認め、これを呪術(じゅじゅつ)的に用いる場合には、血をあわせる、血を飲む、血を塗る、血を振りかける、血を神に捧(ささ)げるなどの形態がみいだされる。霊感を獲得するために、ギリシア神話の神アポロンの神殿の女司祭が羊の血を飲んだり、インドではカーリーの神に捧げた山羊(やぎ)の血を飲むことが行われた。西洋では古代ローマ以来、血を飲むことはてんかんに効くともいわれていた。このほか、多くの民族で、家を新築するときに動物を殺してその血を家に塗ったり、生まれたばかりの子供の顔に父親の血を塗ったりした。豊穣(ほうじょう)祈願のために、農耕民の間には、人身御供(ひとみごくう)の血や肉を畑や種籾(もみ)に塗ることも行われた。また、オーストラリア先住民やアフリカ中央部のマディ人は、清めのために人々に血を振りかけたり、ボルネオ島の狩猟民の間では、血を自分の体や武器や犬に振りかけるなどした。また血は雨を象徴するものともみなされ、雨乞(あまご)いの際に、祭司の血が使用されることもあった。このほか、日本などでも血判、血書や、血をあわせることによって兄弟の契りを結ぶことなどにみられるように、契約や誓約の証(あかし)として用いられたり、血に親族関係を支える特別な機能が与えられたりもしている。

 反面、血を忌み嫌うという特別な習俗も各地にみいだされる。血を不浄なものとし、土地に流された血を特別に始末したり、月経期間中の女性を特別の小屋に忌みごもらせたり、お産があった場合には狩猟や漁労を控えるというようなことも行われた。

 これらの習俗は、血にまつわる複雑な宗教観および社会的観念がさまざまな社会にあったことを物語っているといえよう。

[武見李子]

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百科事典マイペディア 「血」の意味・わかりやすい解説

血【けつ】

漢方医学において,主に栄養物質のことをいう。〈血〉は体内をくまなく循環し,健康や身体をつくるとされる。〈血〉の不足ならびに鬱帯(うったい)は,病気の原因となる。
→関連項目経絡

血【ち】

血液

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【家】より

…日本の家も西欧のファミリーも,その基本的機能は成員の生活保障にある。だからこそ血縁者のみでなく,他人もいれる必要がでてくる。英語のファミリーfamilyの原義は家の使用人たちであった。…

【経絡】より

…絡脈は経脈から分かれて全身に網状に分布している脈である。 経脈は表に示したように末端で順次接続して全体で環状になり,そのなかを気と血(現代医学でいう血とは完全には一致しない)がたえず循環し,一昼夜で人体を50周するという。人体の生理活動は経脈中の気血の運行によって支えられているから,経脈の機能が乱れるとそれぞれに関連のある臓腑に障害が起こり,それが体表面に反映されて,体の各部位に特定の病変が起こると考える。…

【血液】より

…動物の血管内を流れる体液のことで,血管外の細胞・組織間を流れる組織液や,リンパ管内を流れるリンパ液と区別される。
【動物の血液】
 開放性血管系を備える無脊椎動物の血液は組織液と同じ成分であるが,閉鎖性血管系を備えた動物では,その成分の一部は血管外へ流出せず血管内にとどまるため,組織液と異なった成分を示す。…

【肉食】より

…卵にも生命がある以上,殺生だといえないわけではないが,それが認められる。殺生は流血をともなう。流血は死につながり,血は生死を分ける象徴ともなりうる。…

※「血」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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