寒山・拾得(読み)かんざんじっとく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「寒山・拾得」の意味・わかりやすい解説

寒山・拾得
かんざんじっとく

中国、唐代の禅僧。従来は唐代初期の人とされていたが、最近の研究では、二人とも実在の人物であるとして考えた場合、8世紀ごろ(盛唐から中唐の時期)に生きていたのであろうとされている。雲水の豊干(ぶかん)(生没年不詳)と三人で天台山(浙江(せっこう)省)国清寺(こくせいじ)に出入りし、ぼろをまとい、台所に入り込んでは僧たちの残飯を食していたという。三人をあわせて三隠、三聖と称する。この三人のことを記すのは、閭丘胤(りょきゅういん)の『三隠詩集』序であるが、閭丘胤は架空の人物であって、実際はだれなのか不明。閭丘胤に語ったという豊干の言によれば、寒山文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の化身、そして拾得普賢(ふげん)菩薩の化身であったという。森鴎外(もりおうがい)の小説『寒山拾得』は、この閭丘胤の序文をもとに記されたものである。

 三人の詩は、『三隠詩集』(寒山子詩集)に集められているが、寒山の詩というのがもっとも多くを占める(314首)。寒山の詩は、民衆を対象にした教訓的なものや禅の偈(げ)に似たものなどが多いが、なかには寒山にまつわる伝説をうたうものもあり、寒山伝説に関連して、禅僧や民衆の間でうたわれたものが、「寒山詩」としてまとめられたものであろう。作品はすべて五言古詩である。

 寒山・拾得は、宋(そう)代、禅の流行とともに愛好され、しばしば禅画画題とされた。現存する寒山・拾得の図では、顔輝(がんき)(東京国立博物館)、可翁(かおう)(相国寺竜光院)、周文(東京国立博物館)、明兆(みんちょう)(東福寺)、海北友松(かいほうゆうしょう)(妙心寺)の作などが知られている。

[鈴木修次 2017年1月19日]

『入矢義高注『中国詩人選集5 寒山』(1958・岩波書店)』『入谷仙介・松村昂編『禅の語録13 寒山詩』(1970・筑摩書房)』


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