中国における道教および仏教に関する絵画の総称。神仏の造像が中心であるので一般の人物画と区別されるが,造形的には,共通する要素が多い。
中国の古代絵画で主導的であったのは道釈画の分野であった。勧善懲悪的な実用性もあり,宋代以降の鑑賞的な山水画に主導権をゆずるまで,絵画の中心的存在であり,多くの著名作家がここに集中している。六朝に顧愷之(こがいし),陸探微,張僧繇(ちようそうよう)らが道釈画家として輩出したのは,老荘思想や仏教の流行と呼応するが,彼らは同時に人物画の名手でもあった。唐代には呉道玄が出現し,唐都長安,洛陽のおもな寺観でほとんど独占的な制作を行った。彼の様式は後世,道釈画風の古典として仰がれるようになった。呉道玄は白描画を得意としたが,一般には着色の大画面による制作が当時の道釈画の基本であり,彼の白描の作品も,多くが後人によって着色されたと記録されている。宋代にはいり,水墨山水画が興って文人たちが絵画芸術に積極的に関与するようになると,道釈画は職業的な工人たちにゆだねられるようになり,衰退の一途をたどる。北宋期に道釈画の衣紋描写を〈呉帯当風,曹衣出水〉というように呼んだのも形式化した表現を象徴するものといえよう。呉帯の呉は呉道玄を,曹衣の曹は六朝の曹仲達をさし,宋代に六朝様と唐様の衣紋処理が形式化し並行して行われていたことを示す。一方,水墨山水画の発展は道釈画の分野にも干渉し,写意を重んずる水墨の粗筆道釈画も禅宗的な環境のなかで多く描かれるようになった。貫休や石恪(せきかく)の芸術がそれであるが,北宋末に至ると李公麟が出て呉道玄流の白描画を復活させ,道釈画に鑑賞画としての変化と表現の豊かさをもたらし,彼の芸術は南宋・元の禅余人物画へと継承される。
道釈画は宋代以降,絵画界の主流とはならなかったが,伏流として底辺で職業的な画工の制作に結びつき,一方,文人たちの鑑賞的な絵画の境域にも一定の地歩をきずき,着色,水墨,白描等の技法をときに応じてとり入れ,相互に影響をし合っていて複雑な展開をみせるが,巨視的には,これを六朝様式の代名詞としての顧愷之様と,唐様式の代名詞としての呉道玄様の交替,かかわり合いとして整理することができる。すなわち顧愷之様は文人趣味と結合し,呉道玄様は職業的な道釈画の典型とみなされた。このような道釈画の体系化は,北宋期,蘇軾(そしよく)を中心とするグループの絵画観に起因するところが大きく,それが職業的画家の道釈画への否定的評価を生む結果となった。これら鑑賞界からは無視され工人によって継承された道釈画のパターンは唐・五代以降基本的には大きな変更もなく現代にまで及んでいる。一方,文人たちの関与した鑑賞的道釈画では多くのバリエーションが制作され,ことに明代末期の擬古趣味的な一群の画家,崔子忠,陳洪綬等の作品は近年再評価の対象となっている。
執筆者:戸田 禎佑
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東洋絵画の画題の一つ。道教および仏教に関する人物画の総称で、道釈人物画ともいう。道教関係では、竹林(ちくりん)の七賢(しちけん)や商山四皓(しょうざんしこう)などの高士たちや、東方朔(とうぼうさく)、呂洞賓(りょどうひん)、琴高仙(きんこうせん)、張果老(ちょうかろう)、蝦蟇鉄拐(がまてっかい)などの伝説的仙人たち、仏教関係では、白衣観音(びゃくえかんのん)や羅漢(らかん)、達磨(だるま)をはじめ禅宗の祖師たち、寒山(かんざん)・拾得(じっとく)、布袋(ほてい)、蜆子和尚(けんすおしょう)などである。いずれも道に通じ、悟りを開いた人物として、どちらかといえば風貌(ふうぼう)怪異に描かれることが多い。その超現実的な世界の表現によって中国では画家の最高の目標とされ、五代の石恪(せきかく)、貫休(かんきゅう)や、宋(そう)代の梁楷(りょうかい)、元代の顔輝(がんき)など名手が輩出した。わが国でも禅宗の伝播(でんぱ)とともに鎌倉時代以降、この種の画題が盛んに描かれるようになり、多くの水墨画家の作品が残されている。代表作に、顔輝の『蝦蟇鉄拐図』(京都・知恩寺)、雪舟(せっしゅう)の『慧可断臂図(えかだんぴず)』(愛知・斉年寺(さいねんじ))、雪村(せっそん)の『呂洞賓図』(奈良・大和(やまと)文華館)などがある。
[榊原 悟]
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