小前(読み)コマエ

デジタル大辞泉 「小前」の意味・読み・例文・類語

こ‐まえ〔‐まへ〕【小前】

[名]江戸時代、田畑や家屋敷は所有するが、特別な家格・権利を持たない本百姓。小作などの下層農民をさす場合もある。小前百姓
[名・形動ナリ]
商売や家業を小規模に営むこと。暮らし向きがつつましいこと。また、そのさまやその人。
「取り広げたる棚もしまひがたく、おのづから―になりぬ」〈浮・永代蔵・一〉
規模が小さいこと。また、そのさま。
「村瀬は智者で―な故、風流のない人ぢゃ」〈胆大小心録

こ‐さき【小前/小前駆】

殿上人てんじょうびとが通行の際、先払い警蹕けいひつの声を短く引くこと。
殿上人のは短ければ、大前おほさき―とつけて聞きさわぐ」〈・七八〉

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精選版 日本国語大辞典 「小前」の意味・読み・例文・類語

こ‐まえ‥まへ【小前】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「こ」は接頭語 )
  2. ( 形動 ) 物事の規模が小さいこと。小さくまとまっていること。また、そのさま。
    1. [初出の実例]「能の習を聞はつる者は、必仕舞ぎくつきて、こまへにて子細らしく見ゆ」(出典:舞正語磨(1658)下)
  3. ( 形動 ) 商売などを小規模にいとなむこと。また、そのさまやその人。小商人、下請け職人などについていう。
    1. [初出の実例]「尤こまへに怪我はなけれども、皆人沙汰せらるる通り、利を得る事なし」(出典:浮世草子・世間胸算用(1692)四)
  4. こまえびゃくしょう(小前百姓)」の略。
    1. [初出の実例]「小前持高十分一以下のあれ地は、年季内は引けに不相立百姓内そん也」(出典地方凡例録(1794)三)

こ‐さき【小前】

  1. 〘 名詞 〙 上達部(かんだちめ)以外の殿上人が通行の際、先払いが警蹕(けいひつ)の声を短く引くこと。上達部の場合は長かった。⇔大前(おおさき)
    1. [初出の実例]「上達部のさきども、殿上人のは短かければ、おほさき、こさきとつけて聞きさわぐ」(出典:枕草子(10C終)七八)

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改訂新版 世界大百科事典 「小前」の意味・わかりやすい解説

小前 (こまえ)

17世紀後半期には近世村落(小農村落)が成立し,身分や家格に拘束されることなく高持百姓全員が村落構成員としての資格を獲得するようになるが,近世村落の成立によって,百姓としての権利と義務(用水や入会地の利用権,年貢・諸役・村入用など諸負担の義務)を持つ高持百姓を小前と呼ぶようになる。しかし小前の用語にはかなり広い意味が含まれていて,(1)高持百姓のすべてを指す場合,(2)村役人以外の一般の高持百姓を指す場合,(3)無高の水呑百姓をも含めて,弱小な小百姓を指す場合,などがある。《地方(じかた)凡例録》に〈小前持高十分の一以下の荒地ハ,定免年季内は百姓内済〉とあるなどは(1)の例であり,同書の他の場所に〈小前連印村役人奥印の請書証文を出させべきこと〉とあるのは(2)の例である。近世後半期になると,水呑百姓を含む村内の小百姓が村役人の不正・横暴を批判して村方騒動を引き起こす。これを小前騒動と呼ぶのは(3)の例である。また《世事見聞録》に〈都(すべ)て小前百姓を世上にて水呑百姓といへる〉というのも(3)の例である。なお町方では零細自営業者を小前と呼んでいる。《日本永代蔵》に〈かはし(為替)銀につまりて難儀,俄(にわか)に,取ひろげたる棚(店)も仕舞(しまい)かたく,自(おのずから),小前になりぬ〉とあるのはその例である。
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百科事典マイペディア 「小前」の意味・わかりやすい解説

小前【こまえ】

小前百姓,平百姓とも。元来は規模が小さいことで,転じて江戸時代の農民の一定の階層を示す語。本来村役人に対して一般本百姓をいったが,本百姓の分解が進む中期以降は,地主など上層農民に対して,水呑も含めて中下層農民全体をいう場合が多い。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「小前」の解説

小前
こまえ

小前百姓・小百姓とも。江戸時代,村役人以外の一般の本百姓。年貢や村入用の割賦をめぐる村役人の不正を追及し,公正な村政の運営を要求して村方騒動をおこす主体となる。18世紀以降,小前百姓のなかから百姓代を選び,村役人の一員に加える村も多くみられるようになった。他方,本百姓のうち大高持を大前というのに対して,持高の少ない百姓を小前とよぶ場合もあり,地主・小作関係で小作人をいう場合もある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「小前」の意味・わかりやすい解説

小前
こまえ

江戸時代の小農民をいい,「前」は身分とか分限の意。一般に耕地や宅地を所持し年貢を負担する本百姓をすべて小前,小前百姓といった。また村役人級の大高持 (大前) に対して,一般の百姓あるいは水呑百姓のような零細な困窮農民をさすこともある。

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