明治前期の法学者、政治家。嘉永(かえい)5年2月20日土佐国幡多(はた)郡宿毛(すくも)村(高知県宿毛市)に生まれる。幼名一(てついち)、号は東洋。1869年(明治2)東京に出て昌平学校(しょうへいがっこう)に学び、1871年から3年間アメリカ、イギリス両国に留学。帰国後同志とともに文化啓蒙(けいもう)団体「共存同衆」を結成し、『共存雑誌』を発行、また、ローマ法を研究して「羅瑪(ローマ)律要」を纂訳(さんやく)した。1876年司法少丞(しょうじょう)に任ぜられ、以後司法省、太政官(だじょうかん)の書記官を歴任、1880年新設の会計検査院の検査官に就任して大隈重信(おおくましげのぶ)との関係を深め、翌年10月の「明治十四年の政変」で大隈とともに下野した。以後、大隈のもとで立憲改進党の結成、東京専門学校(後の早稲田(わせだ)大学)の創立に尽力するとともに、東洋館書店(冨山房(ふざんぼう)の前身)を開業して出版事業にも手を染めた。この間、大著『国憲汎論(こっけんはんろん)』をはじめとして、政治、法律、経済、教育などの各分野で旺盛(おうせい)な著作活動を展開。明治19年1月11日肺結核のため死去。
[大日方純夫]
『早稲田大学大学史編集所編『小野梓全集』全5巻(1978~1982・早稲田大学出版部)』▽『荻原隆著『天賦人権論と功利主義──小野梓の政治思想』(1995・新評論)』▽『勝田政治著『小野梓と自由民権』(2010・有志舎)』
明治時代の法学者,政治家。東洋と号す。土佐藩宿毛に生まれる。戊辰戦争では会津攻めに参加。1869年,昌平黌に学ぶ。70年上海旅行でアジアの近代化の必要を痛感,米英留学で法律学を学び帰国後共存同衆を結成,金子堅太郎,鳩山和夫らと自由主義,立憲思想の啓蒙につとめる一方,近代法の研究を行う。官途に就くが明治14年の政変で大隈重信に殉じて下野,東京大学の学生を中心とする鷗渡会を率いて立憲改進党に参加,大隈のブレーンとして活躍した。〈改進党趣意書〉は小野の起草による。82年東京専門学校(早稲田大学)創立にも中心的役割を果たす。83年東洋館書店(現,冨山房)の開設など活動の分野は広い。彼と大隈との関係は井上毅と伊藤博文の関係に比されるが,当時の英法派,仏法派,独法派の対抗関係の中で,《国憲汎論》に見られるようなベンサム流の代議政体論と独自の〈君民共治〉論の路線が,明治14年の政変から大日本帝国憲法発布にいたる過程で敗北していったことの意味は大きい。
執筆者:広瀬 玲子
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(小宮一夫)
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…すでに大久保利通没後の政府筆頭参議の時代から,岩崎弥太郎の三菱と経済的きずなを結び福沢諭吉の慶応義塾を優秀な官僚の人材補給源として握っていた大隈は,党結成にあたってそれらの資産を十分に活用し,大隈とともに下野した官僚を幕下に収めた。彼らはいずれもイギリス流の立憲政治を目標にしており,なかでも矢野文雄(竜渓)は,14年政変の原因となった政党内閣論と早期国会開設とを説いた大隈意見書の起草者であり,小野梓は薩長打倒のため在官中から政党組織化を進めていた。そこで改進党の指導部は元官僚,新聞記者,代言人,教師など都市知識人のグループを中心に形成され,沼間守一,島田三郎らの嚶鳴社・東京横浜毎日新聞派,矢野ら慶応関係者の東洋議政会・郵便報知新聞派,小野らの鷗渡会派の3系統に大別される。…
…明治初期のヨーロッパ留学帰朝者を中心とする,会員の切磋琢磨(せつさたくま)と国民啓蒙を目的とした結社。1874年9月,小野梓の提唱により発足した。共存同衆の名は小野の命名によるが,共存は社会を,同衆は協会を意味するとも,mutual associationの意ともいう。…
…冨山房の創業者。土佐宿毛町に生まれ,1883年に上京,小野梓(あずさ)が創業した東洋館に入店し,書籍の販売と出版について修業した。小野の病死により,東洋館が閉店した後,小野の遺志を受け継ぎ,86年,20歳のときに冨山房を創業した。…
※「小野梓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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