東京電力福島第1原発事故による避難指示区域のうち、2012年3月末時点の年間被ばく線量が最も高い区分の50ミリシーベルト超とされた地域。将来にわたり居住を制限するとされ、原則立ち入り禁止となった。対象は7市町村の計約337平方キロに及んだが、政府は6町村の計約27平方キロを特定復興再生拠点区域(復興拠点)に認定して除染とインフラ整備を行い、避難解除した。復興拠点外では立ち入り制限が続くが、政府は将来的には全域での避難解除を目指している。
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2011年(平成23)3月の東京電力福島第一原子力発電所事故による放射線の影響で、将来にわたって居住を制限することを原則とした地域。政府が立入りを原則、制限・禁止した避難指示区域の一つである。事故12年後の2023年(令和5)時点で、福島県の富岡(とみおか)町、大熊(おおくま)町、双葉(ふたば)町、浪江(なみえ)町、葛尾(かつらお)村、飯舘(いいたて)村、南相馬(みなみそうま)市のそれぞれ一部が該当する。ただ、住民の強い帰還要望にこたえ、政府は帰還困難区域のうち、駅前中心部や住宅密集地に特定復興再生拠点区域(約27.5平方キロメートル、2022年から帰還開始)を、それ以外の住居が点在する地域に特定帰還居住区域(2023年から除染開始)をそれぞれ設け、2029年までに希望者全員の帰還完了を目ざしている。2023年4月時点で、帰還困難区域(特定復興再生拠点区域を含む)の総面積は名古屋市とほぼ同じ約337平方キロメートル、避難対象住民(発災時)は約2万5000人に上る。
帰還困難区域は、事故後6年たっても1年間の積算放射線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域(指定直前の2012年3月時点で年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域が相当)であった。国際原子力機関(IAEA)などの国際機関の基準を考慮し、政府は20ミリシーベルト以上の地域に居住し続けると、人体に影響を及ぼすおそれがあると判断した。区域境界にはバリケードなど物理的防護施設や検問所を設け、住民に避難の徹底を求めている。例外的に、住民の一時立入り、復興・復旧・防災など公益を目的とした立入りなどを認めたが、市町村長が発行した通行証が必要で、長袖(ながそで)・長ズボン、または防護服などの着用や線量計所持を徹底し、個々の被曝(ひばく)線量を測定して健康に害が及ばないようにする必要がある。区域内での宿泊は原則認めず、区域内で保管されていた飲食物や資機材などの区域外への持ち出しも認めない。帰還困難区域の住民には、精神的損害に対する賠償として、1人一律1450万円が東京電力から支払われたが、生活基盤を喪失し日常生活を阻害されたとする避難住民の東京電力への訴訟で、賠償金の増額を命じる最高裁判所判断が相次いで示され、賠償額の上積み(1人一律130万円)が決まった。区域内の不動産や住宅は「全損」扱いとし、福島第一原発事故前の価格で全額を東京電力が賠償した。政府は避難指示区域を段階的に解除したが、帰還困難区域についても住民の要望にこたえ、福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)を改正した。それによって2022年から特定復興再生拠点区域への住民の帰還や役場本体機能の復旧が実現し、2023年からは特定帰還居住区域での除染を開始した。
[矢野 武 2024年1月18日]
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