大災害、原子力発電所事故、テロや武力攻撃などが発生、あるいは予想される場合に、住民の生命・身体への危険を防ぐため、立入りを原則制限・禁止する地域。災害対策基本法第63条のほか、原子力災害対策特別措置法、国民保護法、水防法、消防法などに基づき、それぞれ政府が指示して都道府県知事や市町村長が設定する。緊急応急対策などに従事する人を除き、住民は区域外への退去を命じられ、違反すると罰則(原子力災害対策特別措置法と災害対策基本法では10万円以下の罰金または拘留、水防法では30万円以下の罰金または半年以下の懲役、消防法と国民保護法では30万円以下の罰金または拘留)がある。警戒区域との境界には、住民らが立入りできないよう物理的にバリケードなどを設けるほか、警察官が検問する。日本では、1991年(平成3)6月の雲仙普賢(うんぜんふげん)岳の火砕流災害の際に、初めて警戒区域が設けられた。その後も桜島や浅間山(あさまやま)など噴火のおそれのある地域で設定されているほか、2008年(平成20)に不発弾処理のため東京都調布(ちょうふ)市の一部で設定。最近では台風や集中豪雨に地震などの災害が重なり、台風(2011年に奈良県・和歌山県の一部、2019年に仙台市の一部など)、地震(2016年に熊本県宇土(うと)市の一部)、地すべり(2017年に大分県豊後大野(ぶんごおおの)市の一部)などのため、頻繁に警戒区域が設けられている。
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震により発生した東京電力福島第一原子力発電所事故では、同年4月22日に福島第一原発から半径20キロメートル以内(福島県の双葉(ふたば)町、大熊(おおくま)町、富岡(とみおか)町の全域、および南相馬(みなみそうま)市、浪江(なみえ)町、葛尾(かつらお)村、田村市、川内(かわうち)村、楢葉(ならは)町の一部)を警戒区域とした。同区域から避難すると、東京電力から賠償金が支払われ、医療費が全額免除となるほか、固定資産税、都市計画税、国民健康保険料の減免措置も受けられた。政府は福島第一原発事故による警戒区域について、2012年4月から地元自治体の同意を得ながら順次、放射線量ごとに「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」に設定し直し、この3区域への再編完了とともに警戒区域を廃止した(2013年5月)。
なお、津波、土砂災害、出水・浸水など重大な災害のおそれのある地域について、土砂災害防止法、津波防災地域づくりに関する法律等に基づきあらかじめ自治体が指定する「津波災害(特別)警戒区域」「土砂災害(特別)警戒区域」「出水・浸水警戒区域」「高潮警戒区域」「がけ崩れ警戒区域」などの警戒区域・特別警戒区域がある。これら警戒区域では、立入り、居住、事業の継続などは認められているものの、住民に移転を促すほか、新たな建築などが規制される場合が多い。また暴力団対策法では、対立抗争で殺人や重傷者を出した特定抗争指定暴力団の組事務所周辺を警戒区域に指定し、構成員の出入りや集合などを規制できる。
[矢野 武 2021年6月21日]
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